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有効な治療法のない恐るべき感染症-「狂犬病・プリオン病・エイズ」

感染症とは、ウイルスや異常タンパクなどの病気の原因となる病原体が他の生物を通じて人に感染する病気のことです。世界には千を超える病原体が知られていますが、その中で人を死に至らしめることのできる感染症は百を超えます。中には「治療法が存在せず、必ず人を死に至らしめる感染症」というのが存在しています。

致死率99%と言われている狂犬病、原因やメカニズムすら理解されていないプリオン病、人の免疫力を無力化するエイズ。エイズに限ってはウイルスの繁殖を抑えられるような薬が開発されため、必ず死に至る病とは言えなくなりましたが、根治は困難であり、薬を飲み続けなければ死んでしまうでしょう。

そんな恐ろしい3種の感染症についてご紹介していきます。

狂犬病(リッサウイルス感染症)

狂犬病というのは、犬や猫に感染した「狂犬病ウイルス」が動物の唾液などを通じて人に感染する病気です。

また、狂犬病ウイルスはリッサウイルスというウイルスに分類されていて、同系統のウイルスがコウモリなどにも感染しているため、狂犬病というのは「犬からだけ感染する病気ではない」ということに注意して下さい。

この病気が狂犬病と言われるのは、狂犬病ウイルスが人間同士では殆ど感染せず、動物から人へ血液や粘膜経由でしか感染しないので、感染するケースが極めて限定的なのです。例えば、動物に噛まれた時に血液にウイルス入りの唾液が入るか、舐められた時に目や口にウイルス入りの唾液が入るかしない限り、人は狂犬病ウイルスに感染しません。

これはつまり、人を噛む動物がウイルスを持っていて初めて人に感染するということです。

狂犬病ウイルスに感染した哺乳類の多くが攻撃的になりますが、猫は人をひっかくことはあっても噛むことは稀ですし、コウモリなどは接触する事自体が少ないでしょう。しかし、犬は攻撃時に人を噛む上、人と接触する機会が極めて多いため、狂犬病ウイルスに人が感染する機会は圧倒的に犬を経由することが多くなるのです。

狂犬病ウイルスは人の神経細胞を侵すウイルスで、どこから感染しても最終的には脳にたどり着いて脳を破壊するのが特徴です。また、ウイルスによる症状が脳にたどりつかない限り現れないこともあり、感染してから発症までの期間はバラバラです。

手足の先を噛まれれば発症まで2ヶ月前後かかることもありますし、顔の周辺や首すじなどを噛まれると1週間前後で発症することもあります。そのため、大丈夫だと思っても油断できません。

発症するとまず風邪に似た症状が出るようになり、次第に体が痙攣したり、体のあちこちに痛みを感じ、極度の興奮状態に陥るようになります。そして、末期には錯乱症状や幻覚が見えるようになって攻撃的になり、水を飲み込むだけで喉に激痛が走るようになるので水を恐れる(恐水症状)ようになるのです。

水を怖がる犬は危ないと言うのはこのためです。恐水症状が出始めた犬は症状がかなり進行しており、凶暴になっているので近づくと危険なのですね。

そして症状が進行し、ウイルスの脳破壊が深刻になると手足が麻痺して動かせなくなり、意識不明になった後に呼吸困難になって死亡します。意識を失うまでかなりの苦痛を伴う上、発症から死亡まで一週間程度しかなく、治療薬は存在せず、感染した患者は殆どが死亡しています。

治療に成功した例も存在しますが、ミルウォーキー・プロトコル(wikipedia)というかなり過激な治療を行ったようです。ウイルスが脳に到達したら薬で無理矢理昏睡状態にして脳の活動を止め、脳の活動が止まっている間に抗菌薬で治療します。成功率は極めて低い(1割未満)ですが、今のところこれしか方法がありません。

ただし、ワクチンによる予防は可能です。

ワクチンというのは特定のウイルスに対する抵抗力作る薬ですので、ウイルスが増えてしまった発症後に打っても遅いです。そのため、ウイルスが増える前にワクチンを打つ必要があり、確実性に欠けます。一方で、予め打っておけばウイルスが入っても発症しにくくなりますので、対策がある感染症という意味では後述のプリオン病よりマシかもしれません。

(次のページ: プリオン病)

プリオン病(伝達性海綿状脳症・TSE)

プリオン病とは、プリオンというタンパク質が異常に増加する事によって引き起こされる病気です。「プリオンってなんだ?」という話ですが、実はこのプリオンというのがよく分かっていないというか、プリオンという言葉自体が一種の仮の名前だったりします。

プリオンとは「タンパク質で構成される感染性因子」と訳されますが、要するに、感染症を発生させる原因になるかもしれないタンパク質という意味です。

「かもしれない」というのは、このプリオンというタンパク質は誰もが普通に持っているからです。つまり、プリオンが必ず感染症を発生させるというわけではありません。しかし、何らかの理由でプリオンが突然異常に増えだしたり、悪い働きをするので感染性因子と呼ばれます。

完全に原因やメカニズムが解明されれば「狂犬病ウイルス」や「レンサ球菌」のようにちゃんとした名前がつくはずですが、タンパク質が感染源となる感染症自体が人類にとって馴染みが無いため、まとめてプリオンと読んでいるのです。ちなみに、感染症を起こしているプリオンは「異常プリオン」、感染症を起こしていないプリオンは「正常プリオン」呼ばれます。

プリオン病はこの異常プリオンが脳に達し、脳のタンパク質が異常プリオンだらけになって脳の働きが阻害されることで発症します。

初期症状としては、倦怠感やふらつきといった極度の疲労に似た症状が出て、中期には認知症が起こります。そして、末期になると植物人間状態に近くなり、最終的には発症から1,2年で呼吸困難や感染症で死亡します。異常プリオンの性質が良く分かっておらず、治療法はありません

感染症に分類されていますが、恐ろしいことに感染せずとも発症します。感染源を皆が持っているので当たり前と言えば当たり前ですね。発症の原因はよく分かっていません。

感染する場合は、異常プリオンを体内に取り込む(食べる・移植する)事で感染します。人から人に感染する場合は、当然ながら移植が原因です。動物からも感染しますが、ウイルスと違って唾液や血液に大量に含まれるものではない(微量に含まれる)ので、犬や猫がプリオン病を発症していたとしても噛まれたり舐められたりして感染するリスクは低いです。

しかし、問題になるのは食肉とされる動物に発症した場合です。BSE(牛におけるプリオン病)で話題になることがありますが、牛や羊などの食肉において大きな問題とされています。異常プリオンはタンパク質ですが、加熱したり殺菌消毒しても感染を防ぐことはできず、プリオン病を発症した生物の食肉利用はほぼ不可能です。

異常プリオンというタンパク質を食べなければ大丈夫なら感染が広がるリスクは低そうですが、発症したら必ず死亡する上、感染メカニズムが完全に解明されているわけではないため、感染症に準じた扱いがなされ、食肉の大規模な輸入規制などに繋がっています。

(次ページ: エイズ)

エイズ(後天性免疫不全症候群)

エイズという病気は、人の免疫力を完全に失わせてしまうHIVウイルスというウイルスに感染することで発症します。

感染したら治ることは無く、免疫力が無くなるので様々なウイルスに感染して必ず死ぬ病とされてきましたが、HIVウイルスの繁殖を抑える薬が開発されており、薬を飲み続ければ長生きする事ができるようになっています。ただし、治るわけではありません。

最終的に死に至る狂犬病やプリオン病と比べると病気そのものの脅威度は低いですが、それらと比べると感染が広がりやすいのがエイズの特徴です。

感染が広がりやすいと言ってもHIVウイルスは空気に触れると死ぬ上、加熱や殺菌に弱く、繁殖速度も遅々としたものです。空気中でも生存するインフルエンザや胃酸にも耐えるノロウイルスに比べれば遥かに感染力は低く、血液や粘膜同士の接触でなければ感染しません

血液は輸血や臓器移植などが主な感染原因となりますが、粘膜同士の接触には性行為があり、エイズの感染原因の大半が性行為による感染です。粘膜接触というと軽いキスも怪しいと思うかもしれませんが、HIVは唾液に含まれるごく僅かな殺菌成分で死んでしまうので数が少なく、唾液には殆どHIVウイルスがいません。

基本的に、HIVウイルスが快適に生活出来るのは血液・精液・膣分泌液・母乳などの殺菌力の低い体液の中です。これらの体液には大量にウイルスが生息しているため、これを粘膜に接触させると感染リスクは飛躍的に高まります。粘膜というのは、鼻・口内・目・耳・性器・直腸などですので、そこにHIVウイルスが大量にいる液体が触れなければ安全です。

唾液でHIVウイルスが死ぬといっても唾液の殺菌力は極めて弱く、殺菌には時間がかかります。精液や血液が口内の唾液に混ざればHIVウイルスは殺菌される前に粘膜を通して血液内部に入り込みます。また、胃酸でウイルスは死にますが胃酸に触れる前に口内や喉の粘膜に触れるので体液を飲み込めば安全ということもありません。

加えて、口粘膜を通してHIVウイルスは随時口内に入り込んで来ているため、ディープキスやオーラルセックスのような粘膜同士が直接触れ合う場合は唾液で殺菌される前のHIVウイルスに接触する可能性があり、感染リクスは高くなると言えます。

エイズというのはエイズ自体が高い感染力・繁殖力を持っているわけではないため、気をつけて生活してれば感染することはありません。また、エイズが攻撃するのも免疫細胞だけであり、血液や体細胞を破壊するということもなく、エイズだけで死ぬ事はありません。

感染したとしても免疫力が弱った状態で他のウイルスに感染したりしなければ長生きする事はできるため、発症後も比較的対策の取りやすい感染症と言えるかも知れません。

感染症は対策が取れる

感染症とは生物から生物へ伝染る病気です。そのため、プリオン病のような特殊な感染症は別として、感染症は感染を防ぎさえすれば発症することはなく、まだ防ぎようがある病気です。

本記事でご紹介した病気はどれも死ぬ確率が高く治る可能性が低い病気であり、非常に恐ろしい感染症ではありますが、知っているだけで防げるケースも多いはずです。「怖い病気」で終わるのではなく、よく理解した上で感染を予防しましょう。

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