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レーダー波の吸収・反射を極めたステルス航空機のしくみ-ステルス(3)

航空機を見つける最も有効な手段は電波を放つレーダーを使うことですが、このレーダーの仕組みを理解し、きちんと対策を取ればレーダーに見つからずに目的地に近づくことが出来ます。このレーダーに対するステルス性を高めた航空機がステルス航空機です。このステルス航空機が次世代の戦闘機として注目されていますが、その仕組みについてはそれほどきちんと理解されていません。

熱や可視光で航空機を見つける事もできますが、本記事では電波に対するステルス航空機の技術について、軍事技術にも詳しくない方にもわかりやすい様に説明していきます。

レーダー波の反射と吸収と拡散

レーダーから隠れるステルス技術を理解する上で大切なのが電波の反射と吸収と拡散。

反射は電波がものにあたって跳ね返る性質のことで、吸収は電波が跳ね返らずにぶつかった物体に一部吸収されてしまう性質のこと。電波の発生源や反射波が一方向に向かわずに広がっていってしまう性質のことです。

電磁波には他にも色々な性質がありますが、ステルス技術を考える場合にはこの三つをきちんと理解していれば大丈夫でしょう。あまり詳しくは説明すると長くなるので、これらの性質についてかいつまんで説明していきます。

反射

電波は電磁波であり、電場と磁場が絡みあうようにして飛んで行く波のことです。

この電磁波は電気的なエネルギーを持っているため、導電性の物体にぶつかるとそこに微弱な電流が流れます。そして、電流が流れると電流が流れた部分に電磁波が生まれるのですが、この新しく生まれた電磁波を反射波です。また、最初にぶつかってきた側の電波は、この場合では入射波と呼ばれます。

レーダーが発する電波はこの入射波に当たるのですが、反射波はこの入射波と同じ性質(周波数)を持っています。レーダーが発する電波以外にも様々な電波が飛び交う中、レーダーは飛んでくる電波の中から自分が発した電波と同じ性質の電波を探すのです。

電波を飛ばした方向に何も無ければ反射波は生まれないため、同じ性質の電波が見つかることはありません。何も見つからないなら平和ですね。しかし、飛行機のような物体があると反射波が発生し、この反射波をレーダーが拾うことが出来てしまいます。

この反射波が帰ってくるまでにどれくらいの時間がかかったか、反射波がどれくらいのエネルギーを持っているかなどを分析することで、空にある物体を見つけられるのです。

電流の流れにくい物質ほど反射波が微弱になるため、レーダーでの発見が困難になりますね。

吸収

吸収とは電磁波が反射されずに一部が吸収されてしまう現象のことです。電磁波はエネルギーを持っている物質ですので、それが突然消えてなくなってしまうとエネルギー保存則が成り立ちません。つまり、電磁波が持っているエネルギーが電波以外の別な形に変わります

光も電磁波の一種ですが、光を吸収する黒い服が熱を帯びるように、電磁波を吸収すると多くの場合は熱に変わります。電磁波の一部が熱に変わったとしても、電磁波が綺麗に消えるわけではなく、電磁波が弱くなって大部分が反射されます。しかし、弱くなった反射波はレーダーで判別出来ません。

光に例えるなら、夜に白い服を着ている人は見つけやすいけど、黒い服を着ている人は見つけにくいというイメージです。

ちなみに、吸収と言っても実際には物体の内部で何度も反射を繰り返して少しずつ電磁波を吸収しているケースが殆どです。電波を閉じ込めて逃さないようにするという考え方でも理解できるかもしれませんね。

拡散

電波というのは常に拡散していきます。ある程度なら電波をまとめて一つの方向に飛ばせますが、それでも電波は少しずつ広がっていくため、どんな方向に電波を反射しても実は多かれ少なかれ全方位に電波は届いているのです。

しかし、届いていると言ってもその強さはバラバラです。強い電波が届いている方角もあれば、微弱な電波しか届いていない場所もあります。電波に対するステルスを考える際に大切なのは、強い電波をレーダーの方角に向けて飛ばさないことです。

逆にステルス機を見つけるためには微弱な電波でもしっかり捉えられるようにする必要がありますし、元々の電波の出力が高ければ見つけやすくなるでしょう。

要するに電磁波の持っているエネルギーをどうやってコントロールするかというのがポイントなのですね。

ちなみに、電磁波の性質の一つに透過という性質があります。電磁波を反射も吸収もしない物質は電磁波を透過させますが、飛行機や乗り物の場合には透過した電磁波がエンジンや電子機器にぶつかって跳ね返るため、電磁波を透過させるという手段は使えません

(次ページ: ステルス機の技術)

レーダー波を元の場所へ返さない形状


(F117_USAF

ここからが本格的なステルス技術の説明です。

上の写真は既に退役したF117ステルス攻撃機の写真ですが、見るからに角ばった独特な形状をしています。この機体は飛行機としての運動性能などを軽視して、ステルス性のみに特化した航空機です。ステルス性を考えた形状のお手本のような形と言えるでしょう。

機体下部は鏡のように平らになっているのは、地上からのレーダー波に対抗しています。鏡に自分を映すためには真正面から見ないといけないように、平らな機体をレーダーで発見するためには真下からレーダー波を当てなければいけません。

少しでも斜めになっていると反射したレーダー波が返ってきません。ステルス機がやっていることは、要するに光(レーダー波)を鏡で反射してライトの方角以外に返しているというだけなのです。

飛行機は翼が左右に伸びていますが、レーダー波は真横から照射しないかぎり必ず翼に当たります。機体の形状によっては、翼にあたったレーダー波が機体の胴体部分にぶつかるのですが、機体の胴体や尾翼が翼に対して垂直になっていると翼に反射したレーダー波が胴体や尾翼に反射してレーダーがある方向に返っていきます。

尾翼や機体の胴体が翼に対して直角にならないように斜めになっている、というのもステルス機の特徴だといえるでしょう。

エンジンの吸気口もF117では覆われていますね。吸気口の奥にはステルス対策されていないエンジンがありますし、レーダー波が入り込まないようになっているのと、入り込んでしまったレーダー波が出て行かない様になっています。

F117をレーダーで発見するためには、この角ばった機体の外装に対して垂直にレーダー波をぶつける必要があります。そうすると、真下からレーダー波を照射するか、斜め上からレーダー波をぶつけるほかありません。尾翼を狙って斜めしたからレーダー波を当てる方法もありますが、尾翼は正面下からは主翼に隠れて見えませんので、後ろから当てなければならないのです。

実際のところ、接近してくるF117を地上からのレーダーで発見するのはかなり難しいでしょう。しかし、これはあくまでレーダー波が真っ直ぐ反射すると仮定した場合のみです。

レーダー波の反射波は拡散するので近ければ真下からじゃなくても発見できますし、レーダーの周波数帯によってはレーダー波が一部機体外部を透過して内部の電子機器に反射することもあります。複数のレーダーで集中的に照射すれば発見できる確率は高まるでしょう。

また、攻撃時にハッチを開いたり、メンテナンスに不備があればステルス性は損なわれます。形状だけにこだわっても十分なステルス性は得られません。

なによりも、F117は飛行機としては欠陥品です。飛行中に機体の周りに出来る空気の流れはめちゃめちゃで、コンピューターの補助なしでは飛べません。ステルス性を最優先した結果、非常に飛びにくい航空機ができてしまったのです。

電波を吸収するための素材


(電波吸収体の理論_TDK)

電波を反射させてもある程度は拡散してしまいますし、反射角度ばかり考慮していても航空機として飛びやすい形状になりません。

そこで、機体の素材に電波を反射しにくい素材を使うことが考えられました。それが電波吸収体ですが、この電波吸収体を電波が反射したらまずい部分(鋭角部分など)に利用することで反射波のエネルギーそのものを減らしています。

電波吸収体にも幾つかの種類があるため一概には言えませんが、上図のように機体にぶつかった電波を機体表面で何度も反射させてエネルギーを熱にして奪い、弱くなった電波だけ反射していくようにしているのです。上図のような凸凹した形状の他にも、電波を少しだけ透過する層を複数用意して層の内側で電波を反射させるものもあります。

他にも、電波がぶつかった際に生じる電流のエネルギーを奪うことで反射を軽減させたり、電波がぶつかると電流ではなく磁性を帯びる物質を使うことで磁気として電波のエネルギーを奪う方法あります。

要するに、熱・電気・磁気とあの手この手でレーダー波が持っているエネルギーを奪うのです。

電波が拡散しなければ反射波をコントロールする形状だけに気をつけて入れば良いのですが、理想を言えば全ての電波を吸収してしまうのが一番でしょう。

 

(次ページ: F22-全てを兼ね備えた機体) 

ステルス機の完成形


(F22_USAF

ステルス形状だけを追い求めていると飛行能力を失います。また、拡散する電波の性質を考えれば形状だけでは不十分で、機体の素材にも電波のエネルギーを吸収するような素材が必要でしょう。

上図のF22は、そういう意味では全てを兼ね備えたステルス戦闘機だということが出来ます。

戦闘機として格闘性能も高く、ステルス性能も抜群です。しかし、F117に比べると丸みを帯びていて、思ったほど角ばった作りにはなっていません。

というのも、実のところレーダー波を反射して返してしまう機体の部位というのは比較的限られた部位だけで、F117のように機体のどこにレーダー波が当たっても大丈夫なんていう作りにする必要はありません。

気をつける部分は意外に限られています。空気の取り入れ口のような穴は電波が入り込んだら乱反射して飛び出して行きかねませんし、コックピットに入り込んだ電波もコックピット内の電子機器に乱反射して飛び出して行くでしょう。

一番怖いのは角度のキツい鋭角部分。翼の縁や機体先端部、装備を取り付けるための出っ張りなどが特に危険です。尖った部分に電波が当たるとかなり綺麗に拡散し、一部は確実にレーダーのある場所に返っていきます。

アンテナをイメージすると分かりやすいですが、尖った場所から飛んで行く電波は広範囲に広がってしまいます。

鋭角というのは翼を持つ航空機であれば多かれ少なかれ出来てしまうため、この部分を如何に緩やかにするかが求められるでしょう。

その点でB2爆撃機などは鋭角も取り払っている上に尾翼がなく、吸気口も上部に取り付けられているので地上からのレーダーで発見するのはほぼ不可能です。


(B2_USAF

B2爆撃機は航空機としてはかなり飛びにくい部類に入りますが、B2爆撃機はアレだけ角ばっていたF117よりもステルス性が高いです。

また、B2爆撃機はステルス性を損なう尾翼がない全翼機ということもあり、古くて大きな機体でありながら最先端のF22と同等のステルス性があるとされています。特に、地上レーダーに対するステルス性に関してはB2の方が上でしょう。

一方、F22は最先端の電波吸収体を用いて鋭角部分で反射してしまう反射波を極限まで抑制し、レーダーの反射波は昆虫以下(同じ大きさで比較した場合)だとされています。F22が自衛隊で運用しているF15戦闘機の十万分の一以下のレーダー反射面積となっていることからもその実力が伺い知れます。

総合的なステルス性は判断できない

本記事でご説明したステルス性というのは、全て電波に対するステルス性です。

熱、いわゆる赤外線探知に対するステルス性は考慮されていません。ジェット機である以上ステルス航空機の排熱はかなりのもので、赤外線探知機で探すとステルス機でもあっさり見つかってしまうことがあります。

模擬空戦でF22が撃墜されてしまった時も、相手のパイロットはF22の排熱を感知したそうです。

なんとか排熱を抑えられたとしても、無人機開発競争が熾烈になっているこの状況では下手をすれば目視(可視光カメラ)で発見されることすらあるでしょう。

映像認識の技術も高くなっており、レーダー波や赤外線ではなく、「目標の形状を記憶して追跡するミサイル」が出てくるのも時間の問題です。

レーダーに対抗するステルス技術は21世紀初頭にしてかなり極められています。今後の航空機は当たり前の様にステルス性を備え、今後の空戦はレーダーに頼らないものになるかもしれません。

そうなれば、第二次世界大戦のような有視界での機関砲の打ち合いなんかも起こるでしょう。

その時は光学迷彩で透明になるステルス機などが出てくるのでしょうか?

 

 

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