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未来の通貨?ビットコインの主な使われ方とそのしくみ

ビットコインの価格が今年初めて1万ドルを超えたことから、仮想通貨への注目度が高まっています。これはバブルであると断ずる意見もあれば、価格はこれからも上がるという意見まで侃々諤々のありさま。

しかし、基本的にビットコインとは支払いの手段として使える「通貨」なのです。通貨であるからには、値動きを見張って売買して利ざやを得る以外の使い途があるもの。本記事では、ビットコインがどのように使われているか、またビットコインと従来の通貨の重要な違いを見ていきます。

ビットコインが従来の通貨と違う点

ビットコインは基本的には通貨である――といっても、普段の生活で使う日本円や電子マネーとは根本のシステムが違っています。

ビットコイン(そして仮想通貨全般)と従来の通貨の重要な違いは、誰がどれほどの額を持っているかを少数の責任者が管理するか、あるいは全員で共有して管理するかという点です。

つまりどういうことなのか?それぞれの管理システムを見てみましょう。

従来の通貨の場合、誰がいくら持っているかという情報は金融機関が管理します。銀行の利用者は口座開設手続きの際に銀行側に個人情報を提供します。手続きが終われば銀行は利用者に特定の口座の利用を許可して、出入金や取引の額、口座の残高といった情報を利用者の個人情報と併せて管理します。

この場合、口座の記録を管理する責任は銀行にあります。電子マネーでも基本は同じことで、誰がどれほどチャージして、残額はいくらあるかという情報の管理は電子マネーを発行する団体が行います。

金融機関や電子マネーを発行する組織は、利用者が増えれば手数料などで利益を上げることができます。利用者にとっては自分でお金を管理するよりもセキュリティーの面で有利であり、送金や支払いも手軽にできるという利点があります。

このように双方に利益があるシステムではありますが、これは情報を管理する側の権限が利用者に比べてはるかに強く、したがって不正を働きやすいシステムでもあります。そのために不正を防ぐための内部手続きや法規制が存在し、金融機関は不正がないよう厳しくチェックされるのです。

一方のビットコインには、銀行のように残高を管理する団体はありません。その代わり、どれほどの額のビットコインがどこからどこにいつ受け渡されたかという情報を全員が共有し、それをもとにして残高を管理するというシステムになっています。

説明をシンプルにするため、5台のコンピューターをネットワークにつなぎ、ひとつのファイルを移動させる場合を考えてみましょう。移動するファイルがビットコイン、各コンピューターがビットコインのアドレス(口座)に当たります。そして、あるアドレスから別のアドレスにビットコインを送金することは、ちょうどこのコンピューターからファイルを移動させることに相当します。

この5台のコンピューターには1~5の番号が割り振られ、ファイルが移動するごとに何番から何番のコンピューターに移動したかが記録され、それを全てのコンピューター上で共有します。例えば1→4→3→2という順にファイルが移動した場合、「1→4に移動した」、「4→3に移動した」、「3→2に移動した」という記録が1~5番のコンピューター全てに保存されるのです。

こうして保存された移動の記録を集めてまとめれば、ファイルは1→4→3→2という順で移動し、今現在2番のコンピューターにファイルがあるとわかります。

そして、どれか1つのコンピューターの記録が万一改ざんされたとしても、他のコンピューターの記録と見比べればどの記録が正しいのかを検証できます。コンピューター5つの例では改ざんは簡単ですが、実際にはビットコインを保持している人は膨大な数に上るので、個別の取引記録を全て改ざんすることは現実的に不可能です。

さらにユーザーが個別の取引記録のまとめと検証を行うことで報酬としてビットコインを得られる「マイニング」というシステムがあり、ユーザーはビットコインの信頼性を高める検証作業を行うだけでも利益を得られます。つまり、ユーザーが自発的に正確な記録をまとめる仕組みがビットコインの中にできあがっているのです。

マイニングで得られる報酬をマイニング報酬と呼びますが、マイニング報酬はビットコインの送金手数料などで構成されているため、ビットコインが使われれば使われるほど報酬が増えます。

このマイニングを専門に行うユーザーも存在し、そうした多数のユーザーによってビットコインの信頼性が確保されているため、ビットコインでは銀行のような組織がなくとも残高の管理とセキュリティーの確保ができるのです。

通貨として見た場合、ビットコインには支払い時の手続きや制限がない、支払いの匿名性が高いなどの長所があります。銀行振り込みは銀行の営業日でないと手続きが行われませんが、ビットコインは手続きが不要なのでネットワークを介していつでもシンプルな手順で送金ができます。

また、金融機関の都合で送金が制限されることもありません。例えばPaypalは日本から寄付を目的とした送金ができませんが、これは日本の法律との兼ね合いでPaypal側が手続きを行っていないことが理由です。一方、ビットコインの流通は何らかの団体が手続きを踏んで行うものではないので、基本的には送金が制限されることはないのです。

加えて、ビットコインのアドレス取得には個人情報の入力が必須ではありません。そのためビットコインのアドレスと個人情報が紐付けられることはなく、送金を受けるため自分のビットコインアドレスを世界中に公開しても、そこから持ち主が誰かをたどることはできません。

ビットコインの活用事例

こうした性質を持つビットコインは、現にどのような用途で使われているのでしょう。

決済手段

実は、ビットコインを決済手段として受け付けている企業はどんどん増えています。ビットコインでの支払いを受け付けている有名な企業や組織をいくつか見てみましょう。

ウィキペディア

言わずと知れたオンライン百科事典。母体となるウィキメディア財団は非営利企業であり、ウィキペディアに広告を表示せず運営資金を寄付によってまかなっています。膨大な量の記事を有するウィキペディアの運営にはとんでもないお金がかかり、サーバー費用や人件費などを含めて年間4億円もの資金が必要といわれています。

寄付を求める通知はウィキペディアのページにたまに出てきますが、現在ではビットコインでの寄付も受け付けています。ウィキメディア財団の寄付ページ、あるいは寄付を募る通知にある「その他の寄付の方法」リンクをクリックすると、寄付方法の一覧が表示されます。そこからビットコインでの寄付ができます。

DELL

パソコンのBTO販売で世界トップクラスの販売台数を誇るDELLも、ビットコインでの支払いを導入しています。決め手となったのはクレジットカードより安価な手数料と、金融機関の拘束を受けずに決済ができる点。

ビットコイン決済導入はまず本国アメリカで始まりました。その後2015年にはカナダとイギリスからの購入にもビットコインで支払えるよう対象地域を拡大。今のところ日本からの購入には対応していませんが、今後さらに対象地域を広げる可能性は十分にあるでしょう。

DMM.com

DVDレンタルや動画配信、その他通販事業やオンラインゲーム事業、のみならず家事代行やエネルギー事業まで幅広く事業展開するDMM.comもビットコインでの決済に対応。

厳密に言えばDMM.comでのオンライン購入に使えるDMMポイントのチャージにビットコインが利用可能です。DMM.comは仮想通貨のマイニング事業にも乗り出す方針を発表しており、国内企業としては仮想通貨との関わりが深い企業と言えそうです。

この他にもビットコインで決済を受け付けている商店は規模を問わず多数あります。coinmap.orgというウェブサイトでは、地図上からビットコイン決済に対応している店を探すことができます。

オンラインギャンブル

オンラインギャンブルはかなり以前から多くのビットコインが動く分野でした。ビットコインのソフトウェアを開発したサトシ・ナカモトにちなんで名付けられたSatoshi Diceというオンラインカジノでは、カジノのビットコインアドレスに手持ちのビットコインを直接送金して賭けダイスを楽しめます。

オンラインギャンブルは現金を扱うという性質上、身分証明を行った上でのアカウント登録や口座開設、口座への入金など、遊ぶ前にいくつものステップを踏まねばなりません。その点Satoshi Diceは登録不要で、ただビットコインを送金すればダイスの判定が行われ、すぐさま勝ち負けが決まるというシンプルなシステムを実現しています。

ビットコインを使ったオンラインカジノはSatoshi Dice以外にも複数存在します。ビットコインでの賭けはかなりの規模で行われているようで、BetKingというサイトは2015年の賭け金総額を15万BTCと報告しており、Primediceというサイトでは2013年から2016年の間の賭け金総額は100万BTCを超えたと報告しています。

闇取引・ランサムウェア

どの団体や国家の制限も受けず、高い匿名性を保ったまま取引ができるというビットコインの性質は、悪用にもうってつけという負の側面があります

Silk Roadというウェブサイトは、ビットコインを使った闇市としては最も有名なものでしょう。Silk Roadはアメリカで違法薬物やマルウェア、海賊版コンテンツなどを販売していた違法サイトで、2011年の開設以来急速に拡大していきました。

かくてウェブ上の一大ブラックマーケットと化したSilk Roadですが、2013年、FBIの手によって閉鎖に追い込まれました。当時のFBIの調査では、Silk Road全体の収益は累計で約950万BTC、当時のレートで12億ドルに相当する莫大なものだったといいます。

このほかの悪用例として、ランサムウェア攻撃での支払い要求をビットコインで行う例があります。

ランサムウェアとは、コンピューターに不正に侵入し、ファイルを暗号化して利用できないようにするサイバー攻撃の一種です。犯人は暗号化したファイルを利用できるようにするのと引き換えに金銭を要求することから、身代金を意味するランサムという名で呼ばれています。

有名な事件には2016年、ハリウッド・プレスビタリアン・メディカルセンターという病院の一件があります。このケースでは病院側が犯人に40BTC、当時のレートで1万7千ドル相当を支払ったと発表されています。

ランサムウェアでの身代金としてビットコインを要求する例は2013年以降増加。その理由はもちろん、送金先アドレスから身元を特定されにくい匿名性です。

現実の通貨同様に流通している例

非常に珍しい例ですが、現在ベネズエラではビットコインが現実の通貨同様に扱われています

背景にあるのは、ベネズエラのハイパーインフレと電気料金です。

ベネズエラは石油生産を主産業とし、生活物資の大部分を輸入に頼っていました。ところが頼みの綱の石油価格が下落したことが原因で輸入ができなくなり、国内のモノが極端に不足。その結果、1ヶ月で物価が50%上昇するともいわれるすさまじいインフレが発生し、国が発行する通貨では生活必需品を買うにも困るという状況に発展しました。

そこで注目されたのがビットコインです。ベネズエラの通貨は価値が急落していますが、ビットコインの価格はベネズエラの通貨の価値とは無関係に推移します。なのでベネズエラの人々はビットコインをマイニングし、そうして手に入れたビットコインで国外から生活物資をオンライン購入しているのです。

こうした状況はベネズエラの電気料金の安さによって支えられています。
通常であれば個人では用意できないほどの大規模な設備を稼働させない限り、電気代の方が高くついて損をするものです。ところがベネズエラでは政策により電気代がタダ同然のため、一般人でも複数のPCでマイニングすれば1か月に約500ドル分の利益が出るのです。

今では海外からの買い物に加え、国内の商店でもビットコインで買い物をするというケースが増えてきているといいます。人々からすれば不本意な形かもしれませんが、これは国家規模でビットコインが流通するおそらく初めての例と言っていいでしょう。

政府もこの状況に注目しているようで、ベネズエラのマドゥロ大統領は「ペトロ」と呼ばれる独自の仮想通貨を導入する方針を発表しました。

ペトロについては詳細が不明で、実現を疑問視するむきもあります。とはいえマドゥロ大統領は将来の計画として、現実の通貨の廃止、またベネズエラの主要な輸出品である石油の取引をペトロで実施するなどを検討するとしており、仮想通貨導入に意欲的な態度を見せています。

仮想通貨が本当に通貨として使われるようになる日が来るのか、という問いは、仮想通貨にとって重要な問いかけです。今後の仮想通貨の展開を考えるにあたって、ベネズエラが重要なモデルケースとして知られる日が来るのかもしれません。

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