最近、アイスバケットチャレンジ(Ice Bucket Challenge)と言う、「頭から氷水を被る」か「100ドル(1万円)募金する」かを選ぶ活動が、ALS(筋萎縮性側索硬化症、別名ルー・ゲーリック病)のチャリティ活動の一巻として、SNSなどを通じて広がりつつあります。すでにビル・ゲイツ、マーク・ザッカーバーグ、孫正義、山中伸弥、浜崎あゆみと言った著名人達が参加していることでも有名です。
ALSと言うのは、中国の指導者である毛沢東や病名の由来となった米国の殿堂入りメジャーリーガーのルー・ゲーリックの死因でもあります。車いすの天才物理学者としても知られるスティーヴン・ホーキングが患っている病気であることでも有名でしょう。テレビや映画で話題になった「宇宙兄弟」でも、ALSの治療法を見つけるために宇宙飛行士になった女性飛行士などが登場しています。今年放送されたドラマ「僕のいた時間」でも、この病気が取り上げられています。
アイスバケットチャレンジチャレンジと言うのは、最近増えてきたチャリティ活動の一つです。今回の方式では、挑戦者が次の挑戦者を選んでから、氷水を被るか募金をします。狙いは募金ですが、お金がなければ氷水を被るという視覚的にインパクトのある挑戦を行い、次の挑戦者へと受け継がれます。もちろん、両方することも出来ます。
本記事ではアイスバケットチャレンジが世界中に広がっていった過程とALSと言う病気について簡単に説明していこうと思います。
ALS(Amyotrophic lateral sclerosis)筋萎縮性側索硬化症とは?
筋肉には神経細胞(ニューロン)が存在し、これが脳からの指示などを受け取って筋肉そのものに直接指示を出します。ALSとは、この神経細胞が次々に死滅していく病気のことです。
ニューロンといえば脳の神経細胞を想像しますが、五感を司る知覚神経や自身の意志でコントロール出来ない自律神経など、様々な活動に神経細胞であるニューロンが関わっています。自律神経は脳からの指示に関わらず自身が受け取った刺激に基づいて活動しますが、手足の筋肉を司る随意神経細胞は運動ニューロンと呼ばれ、脳からの情報伝達に基づいて活動するのが特徴です。
脳や心臓、自律神経などの神経細胞は侵さず、自身の意志で動かせる随意筋の神経細胞だけを破壊するのが特徴で、自分の意志で動かせる筋肉がどんどん動かなくなっていくのです。その症状はまるで、老齢で筋肉が弱っていくかの様に進行していきます。心臓などは自律神経により動いているので問題ないのですが、肺は自律神経と随意神経が協力して動かしているので、症状が進行すると、肺の機能が低下し呼吸不全に陥り死に至ります。
進行度合いは人によって様々で、スティーブン・ホーキング氏が発症から50年以上生き続けている一方、大部分の人は5年前後で死んでしまいます。治療法は現在のところ存在せず、発症した場合は障害者として扱われるようになります。
最近IBMからニューロンの働きを模したニューロコンピューターが発表されましたが、これはあくまで働きを似せたものであり、実際の神経細胞に代わるものではありません。
発声などにも影響を与えるためコミュニケーションが困難となり、スティーブン・ホーキング氏のように 重度障害者用意思伝達装置(左図参照)を使ってコミュニケーションを行って行くこととなります。
伝達装置の方式は様々ですが、基本的には画面上のキーボードの中から押したいアルファベットやひらがなを選んで行くという方式が主流です。眼球の動きを検出して選んだり、カーソルが自動的に動いて筋肉の緊張を検出すると止まると言うような装置など、患者の症状に応じて多くの装置が存在しています。
患者は明瞭な意識を持ちながら数年で亡くなるため、治療というよりは介護が重要な病気であり、研究費の捻出も含め、多くの人の支援が必要となっています。
アイスバケットチャレンジ(Ice Bucket Challenge)とその挑戦者達
今回のアイスバケットチャレンジは7月中旬からアメリカで始まり、その後Facebookなどを通じて世界中に広がっていきました。 8月20日時点で、30億円相当の寄付がALS Associationに対して行われ、例年の百倍以上になっているということです。
挑戦者に指名された人は、「次の挑戦者を三名指名」した後、「氷水を頭から被る」か「ALS患者のために募金をする」ことを選ぶ。募金して氷水を被っても問題はなく、募金先の指定はない。発案者が自身の友人のための募金を集めるために始めたということもあり、実に様々な団体対して募金が行われているようです。
これには多くの著名人達が参加しており、海外の参加者では、マーク・ザッカーバーグ、ティム・クック、レディ・ガガ、ジェイミー・キング、ジャスティン・ビーバー、ブリトニー・スピアーズ、リリー・コリンズ、ジェニファー・ロペス、ネイマール、スニガ(ネイマールから指名)。
日本の著名人では、堀江貴文、茂木健一郎、山中伸弥、浜崎あゆみ、亀田興毅(田村敦氏より指名)、田村淳(堀江氏より指名)などなど、まだまだ大きな広がりを見せています。
誰が誰を指名するのかと言うというのも一つ話題となっていますが、どんな氷水の被り方をするかにも注目が集まっています。
↓↓↓マイクロソフトの元会長ビル・ゲイツ氏は、氷水を被る装置を自作してしまいました。
↓↓↓ソフトバンクの孫正義氏はメディアの前で氷水を被り、氷入れやアヒルのジョウロの水もかぶっています。
ゲーミフィケーションと募金慣れ、SNS特化型のチャリティ
このチャレンジの注目すべき点は、チャリティ活動を民間や個人レベルでゲーム感覚で楽しみながら広げられると言う点にあります。氷水を被っている写真や動画をSNSに投稿し、次の挑戦者を指名するというのは、SNSの力を最大限発揮したチャリティ活動といえます。
氷水を被るというのは確かに過酷な挑戦ではありますが、挑戦そのものは簡単に出来ることです。さらに、今はアメリカや日本は夏ですので、氷水を被ると言う行為自体の抵抗感も少ないでしょう。何よりも、寄付の習慣がなかった人たちにまで、SNSのネットワークを通じてチャリティの輪が広がっていったことは十分に評価出来る活動です。
これは一種のチャリティモデルになり得ます。
今までは、SNSで「〇〇な人がいるので募金して下さい」に留まる募金活動でしたが、動画や写真の投稿をしながら友人を指名すると言うのは明らかにSNSに非常に特化したチャリティ活動と言っても良いでしょう。
氷水を被る以外にも、誰にでも出来るアクションと募金を秤に掛け、知人を指名すると言うのは非常に応用が効きます。そのまま同様に小売水を被っても良いのでしょうが、他には、日本流で青汁の一気飲みや一発芸を披露するか募金するかと言うやり方もありますね。
要は罰ゲームか募金かを迫ると言うだけなのですが、これが画像とSNSのネットワークが繋がる非常に効果的です。今回のような大規模なものにはならなくとも、動画や画像にインパクトがあれば容易に広がることが考えられます。ゲーム感覚での寄付が習慣化することで、長期的に見ても支援の必要な人々への手助けにもなるかもしれませんね。
「モリー先生との火曜日」ALS(筋萎縮性側索硬化症)に侵されながら、『時間があって幸せ』だと語る教師の物語
【関連ウェブサイト】
日本ALS協会 (日本における募金先)
Live Today For Tomorrow (ALSという疾患・治療に関するウェブサイト)
ALS Association (英語:米国での主な募金先)
ALS Hope Foundation (英語:病気の説明や支援活動)