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ギャンブル依存が世界でもトップクラスの日本、カジノ法案は本当に大丈夫なのか?

厚生省の調べで、日本にはギャンブル依存症の成人が536万人いることがわかった。実に、成人全体の4.8%に当たる割合は、世界でもトップクラスの数字だ。米国が1.58%、韓国が0.8%と言う数字に比べると極めて多い数字と言える。

この536万人という数字は厚生省の研究チームが全国の4000人の成人にアンケートを取って調べた結果から推測したもので、実際に病院などで依存症と診断された人の数ではない。ギャンブル依存の診断方法も様々で、症状も重度のものから軽度のものまで非常に幅広く、実際に生活に影響が出るレベルの依存症を抱えている人口ははるかに少ないだろう。

そんな中、安部総理が進めようとしている2020年の東京オリンピックに向けたカジノ法案が槍玉に上がっている。ただでさえギャンブル依存の多い日本で、外国人をターゲットにした巨大なカジノ施設など本当に作ってよいのだろうか?

カジノ法案(統合リゾート「Integrated Resort(IR)」推進法案)

カジノ法案とも呼ばれているIR推進法案とは、2020年の東京オリンピックに合わせて東京に集まってくる外国人観光客向けに、カジノを含めたホテルや劇場、ミュージアムなどの施設を整備しようという法案だ。

なんだかイメージが湧かないと言う人は、ラスベガス(下の写真)やマカオをイメージしてもらえるとわかりやすいかもしれない。IR推進法が通過すれば、IRのモデルにはマカオなどの施設が実際に参考とされることが予想される。

 ラスベガスやマカオの巨大ホテルの設備には、カジノや劇場、小さなアトラクション施設などが入っており、車やバスでいちいち移動しなくてもホテルに予約するだけで十分に楽しめるようになっている。海外に行ったことが無い、金持ちの娯楽など知らん、と言う人はもういっそ旅館の卓球台や麻雀卓、小さなゲームセンターを数倍大きく豪華にしたような施設だと考えてもらっても良い。それが、統合リゾート(IR)だ。

オリンピックに合わせて観光に来るのだから、観光のメインはオリンピックを見ること。昼間はオリンピックを見て、夜はホテルで一泊する。その際に、日本で楽しい夜を過ごすための施設がこの統合リゾートと言うことだ。

日本は観光地としても世界的に有名であり、治安も良く、外国人観光客からは人気の国の一つだ。しかし、経済成長を主眼に据えてきた日本は外国人のための法整備などは全く行っておらず、観光に来たのにビジネスホテルで一泊し、外国人向けの観光案内を見つけられずに退屈な夜を過ごした外国人観光客も少なくない。

クレジットカードや公衆無線LANの普及率も外国に比べると低く、「買い物は現金のみ」、「ネットは2年契約の後払い携帯で」が当たり前。日本という国は、「日本人向け」の設備で溢れている国だった。それも徐々に変わりつつあり、クレジットカード対応の店舗も増えてきて、プリペイド携帯や公衆無線LANも増えてきたお陰で、日本に数週間しか滞在しない外国人も観光を楽しみ易くなってきた。

それをこのオリンピックに合わせて、大幅に変革していこうと言う活動が民官一体でにわかに進んでいる。統合リゾート推進もその一つ。そ

こで、最大の疑問として浮上して来ているのが、
「いや、それで・・・カジノいる?」

と言う話。

何故カジノなのか?

カジノを含めた統合リゾートによる経済効果は数兆円に登ると推定されている。

物価の高い日本に観光に来る外国人は、当然相応のお金を持っている。それを効率よく回収できるのがギャンブルだ。お金でお金を買うとも言えるギャンブルで消費されるお金に上限はなく、人によっては一日で数百万落としていく。オリンピック向けに建設される統合リゾート施設は、日本の「おもてなし」の粋を集めた施設となり、それはもう世界トップクラスのリゾートとなるはずだ。そこに来る客は当然超お金持ちであり、カジノで落としていくお金は計り知れない。

カジノじゃなくても、パチンコやスロット、競馬や競艇とギャンブルには事欠かないと言う話もあるかもしれないが、三競オートと呼ばれる「競馬、競艇、競輪、オートレース」といった、「誰が勝つかを予想するギャンブル」には、少なからず知識がいる。一方、パチンコがここまで流行っているのは日本くらいのもので世界的な認知度は低い。スロットであれば外国人にも認知されているが、言ってみればそれしか無いと言う状態だ。

そもそも、パチンコやスロットは景品を通して換金するものであり、極めて黒に近いがグレー、つまりギャンブルではないと言う解釈になっている。ギャンブルみたいなものだからといって、そんな周りくどい換金方法を外国人に強いるわけには行かない。

カジノであれば、世界的に認知されていて、そこで提供されるゲームも千差万別。カテゴリによって客の好きなゲームでギャンブルをすればよい。と言うか、ギャンブルと言えばカジノと言うのが世界的な認識で、パチンコやスロットが出てくるのは日本くらいだ。

大きなリスク

しかし、カジノのようなギャンブルは風紀を乱したり、ギャンブルに依存する危険性があるとされ、日本で行えるギャンブルには非常に限りがある。今回の統合リゾート法案は、賭博を規制している法案を条件付きで緩めようと言う試みだ。これが可決されると何が起こるのか。

端的に言えば、ギャンブルの選択肢が増える。さらに、パチンコやスロットなどの業態が変化する可能性も高い。ルールがシンプルで、椅子に座っているだけのパチンコとは違い飽きにくく、誰でもすぐに出来るカジノのゲームは若者にも浸透し、ギャンブルが世間一般で当たり前に行われるものになると考えられる。

そうすると問題になるのは、ギャンブルへの依存だ。

適度に嗜む程度のギャンブルであれば、遊園地や映画にお金を払うのとやっている事は変わらない。しかし、それに依存し、無制限にお金を払い、生活が乱れ、借金までする様になると大きな問題となる。お金欲しさに犯罪に手を出す人間もいるだろう。

今回の調査で明らかになったのは、そのギャンブル依存が日本は世界的に見ても多いということだ。その最大の原因とされているのが、パチンコ店などの数の多さと言われている。確かに、駅前から歩いて5分圏内にほぼ必ず複数のパチンコ店が軒を連ねている光景は珍しくなく、かなり多いと言う印象は受ける。正直、ギャンブルを規制している割にはギャンブルが出来る店が多すぎるのだ。

そこで、合法のカジノが街に現れたら、ギャンブルへの依存が増えるのではないかと懸念する人が非常に多い。実際、選択肢が増えることで、ギャンブルに手をだす人の層が増えることは間違いないと考えられている。

ギャンブル依存の原因

ギャンブルをすれば必ず依存するのかと言うとそうではない。薬物依存とは違い、その行為や行為により発生するものそのものに依存性があるわけではない。つまり、人体が自ら生成する脳内物質は別として、特に脳に直接働きかけるような物質がギャンブルにより得られるわけではないということ。

強いていえば、負けるか勝つか分からないと言う行為自体に依存性があると言えるかも知れない。「負けても、次に勝てばチャラになる」「次は勝つかもしれない」と言う期待感とそれが簡単に得られると言う部分で、依存性を生む。

これは、別にギャンブルに限ったことではない。スポーツや勝負事全てに言えることで、これが依存の最大の原因かと言われると違うだろう。

実は、ギャンブル依存を発症する人の殆どが、元々不満や不安感、精神的な問題を抱え、これをギャンブルによって一時的に紛らわせることが出来るということでギャンブルに走るのだ。そして、これはアルコール依存や薬物依存などにも言えることで、「苦痛や不安を和らげる」からそれに依存する

つまり、特に精神的に問題の抱えてない人間がギャンブルをやっても依存症にはなら無い。逆に言えば、精神的な問題を抱える人がギャンブルをやると依存症になる可能性が高いということになる。

これは確かに大きなリスクだ。

精神的な疾患を抱えていながらも今までギャンブルに興味が持てなかった層が、ギャンブルによって依存症になる可能性は高い。ギャンブルへのアクセスが依存症の数に影響するというのも、同じことが原因だろう。今までパチンコ店など行ったことが無かった人が、通勤途中にパチンコ店が出来て試しにやってみたら依存してしまったと言うのはよくあることだ。

ギャンブルの種類やギャンブルへのアクセスが増えれば、ギャンブル依存は増えてしまう。

カジノは本当にダメなのか?

カジノ法案によって、依存症が増えるのかというと実は様々意見がある。

依存の原因がカジノそのものではなく人の精神面にあるという指摘もその一つだが、もう一つはギャンブルの質と運営者の変化

まずパチンコは全てが機械だが、カジノの多くはディーラーが必要だ。つまり、パチンコ点よりコストが掛かるため、ある程度収益の見込める立地と規模が必須となり、必然的に数は少なくなる。機械で行う簡易カジノもあるが、ディーラーのいるカジノほど人気はなく、そもそもゲームによって機械の種類が変わるという点でも、運営側から見たコストパフォーマンスはパチンコほどではない。つまり、パチンコほどカジノの数は増えない

パチンコ店の裏に非合法組織がいるというのも言われているが、カジノ法案で増えるカジノはある程度国のチェックが入り、規模もそれなりのものになると推定されている。つまり、今までのギャンブル施設の様に非合法組織の資金源になる可能性は低い。これは、ギャンブル依存予備軍とも言える客にお金を貸し付け、抜け出せないほど依存するまでギャンブルに浸からせてお金を巻き上げるような被害は減る。

さらに、一店舗で様々な娯楽を提供できるカジノ施設は、ギャンブルの質としてもパチンコやスロットより高く、店舗ごとの差別化も容易だ。これはつまり、パチンコやスロットの顧客が減ることを意味し、パチスロ店舗は今より数が減るだろう。ただし、パチンコ店がカジノのような店舗に変わる可能性も高く、一概には言えない。

正直、これだけでは、はっきり大丈夫だとは言えないだろう。

ただ、今の日本のギャンブル事情に何らかの形でメスを入れて行かなければ行けないのは間違いない。さらに、経済的に閉塞感の現状を打開するという意味でも、カジノは心強い武器になる。カジノをやるのであれば弊害に対してしっかりとした調査と対策を練り、今後の日本のギャンブル業界を改革するつもりで進める必要がある。やらないのだとしても、今のグレーゾーンとされているパチスロ業界を大きく規制するなり変革するなりは必要と言える。

どちらにしても、カジノ法案にまつわる議論から、日本のギャンブル業界を変えていかなければいけない。

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