暖房機器の動作原理によって暖め方や使い方が異なって来るというのは、前回の記事でご説明しました。
そして、前回は特に「空気の流れ」を利用した暖房機器にフォーカスしてみましたが、空気を暖める暖房機器と言うのは比較的イメージが掴み易かったのではないかと思います。しかし、今回は輻射熱・・・電磁波や光(光も電磁波の一種ですが・・・)を利用した暖房機器に焦点を当ててみたいと思います。
分かりやすいようで分かりにくいのが輻射熱。各製品ごとの特徴やメリット・デメリットと共にご説明していきたいと思います。
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輻射熱とは?
まず、今回の暖房機器では輻射熱で物を暖めると言うのが曲者です。輻射熱とは、輻射によって得られる熱の事ですが・・・普通、そう言われても良く分からないでしょう。
実は、熱を持った全てのモノは全て微弱な電磁波を発していて、この熱を持った物質が電磁波を出すことを「輻射」と言います。例えば、人間を赤外線センサーで見ると暗闇でもよく見えますし、海を潜って移動しているクジラを赤外線センサーで見つける事ができます。これは生き物だから「赤外線」を出しているわけではなく、熱を持った物質(細胞を作る分子)が電磁波を発しているだけなのです。
「赤外線って光じゃね? 電磁波じゃなくね?」って方がもしかするといるかもしれないのですが、実は光も電磁波の一種です。そして、これが実は重要なポイントの一つで、目に見えるほどの「光」を発している物体は、より沢山の熱を持っている事が多いのです。白熱電球が明るいのは、ある意味熱を作った副産物とも言えます。もちろん、LEDの様に電気のエネルギーを熱ではなく光だけに変えるライトも存在していますが、これらの特殊な光を除けば、光っているものは熱く、熱いものは光っていると言うケースが多いです。炎が明るいのもそのためですね。
要は、
「熱」と言うエネルギーを持っていると、エネルギーを幾分か「電磁波(輻射)」に変えようとする自然界の働きがある。
と考えて頂ければ結構です。
そして、次が一番重要です。
「電磁波」は、「熱」と言うエネルギーに変換可能である。
ということ。
「え、まさか・・・携帯の電磁波でも熱に変えられるの?」と思うかもしれません。実際、殆ど気づかないレベルで多少は熱を受け取っている可能性はありますが、殆ど影響はありません。これがもし、「電子レンジ」や「レーダー」レベルの強力な電磁波となれば、人体にも大きな影響が出るでしょう。
この事からも分かるように、電磁波は電磁波の種類によって特徴的な効果や持っている力が全く異なります。電子レンジは水分子に熱を与える電磁波を出していますし、レーダーは空にあるものを探す事に特化した電磁波を出しています。そして、それら電磁波の中でも特に人を暖める効果が高いと言われているのが「赤外線」です。
特に赤外線は体の内側(近赤外線と遠赤外線で異なる)まで入っていって熱に変わるため、非常に効果的に人を暖めます。そして、その赤外線を効率的に利用しているのが現代の暖房機器といえます。
つまるところ何が言いたいのかというと、
「輻射」とは熱を持った物質が電磁波を出す現象のことであり、「輻射熱」とはその電磁波を受け取って得られる熱のことで、その輻射熱を使って人を暖めるのがこれからご説明する各種ヒーターだという事です。
欠点としては、電磁波自体の空気を暖める効果は極めて低いことです。これらの機器は、壁や天井、ヒーター本体を暖めた後、熱を持ったそれらの物体が空気に熱を移してようやく部屋が暖まり始めるため、なかなか室温が上がらないのです。
まとめると、輻射熱を使って人を暖める暖房機器には、以下のようなメリットとデメリットが存在しています。
電気を輻射熱に変える機器―「電気ストーブ、パネルヒーター」
まず、輻射熱を作り出す代表的な暖房機器として挙げられるのが電気式の製品です。電気は利用しやすく、無駄なく電磁波に変えやすいエネルギーと言えるため、かなり普及しています。
実をいうと、電気を使っているかいないかで言えば殆どの暖房機器が電気を使って熱を作り出しています。そのため、厳密に言えば大部分の暖房機器が電気を使って輻射熱に変えているといえるのですが、今回は電気で直接的に輻射を行い、それによって人を暖めることを目的に作られた製品と言う意味で使わせて頂きます。
電気ストーブ
前回の記事で、輻射熱を出しながら対流を作り出している暖房機器として石油ストーブを紹介しましたが、今回は電気ストーブを紹介します。
ふと気づいた方もいると思いますが、ストーブというのは非常に広い定義で使われるので色々な物が当てはまります。これからご紹介するカーボンヒーターなども電気ストーブに分類されることもありますし、似たような機器でハロゲンヒーターと言うのもあります。そのため、ここでは電気ストーブというと「ニクロム線(カンタル線)」に電気を流して発熱させる機器のことを電気ストーブと呼ばせて頂きます。
ニクロム線を使ったストーブは非常に古くから使われていますが、上の電気ストーブが非常に一般的な「石英管でニクロム線を覆った」製品になります。安価に作れて丈夫、すぐに発熱して暖まる事が出来るので使い勝手が非常に良いのが特徴です。発熱体がかなり熱くなるので、その熱が周囲の空気に伝わって上昇気流を生み、僅かに対流効果もあります。
欠点としては、発生する電磁波の幅が広く、発熱体自体が非常に高い熱を持つため、無駄使いされているエネルギーが多い事が挙げられます。つまり、熱に変わりにくい電磁波や発熱体周辺にも熱が伝わってしまことで、発生させているエネルギーが人に伝わりにくいのです。やたら明るいのは、「可視光線」と言う熱に変えにくい光を無駄に発生させていると言う証拠でもあるのです。
しかし、最近ではニクロム線をメインに使いながら、そのエネルギーを効率良く遠赤外線だけに変える製品も登場しています。
コロナの電気ストーブは、写真の通りやや最初に紹介した山善の電気ストーブより暗い印象があります。
しかし、実はこれは電気エネルギーを電磁波に変換する際に熱に変わりにくい「可視光線」の発生が少ないからなのです。そのため、暖房効率が上がり、電気代が比較的安く済む上に効果範囲が広く、体の芯まで暖まる暖房機器になっています。
カーボンヒーター
このように名前をつけると電気ストーブとは全く違う製品の様に聞こえますが、原理は基本的には変わりません。ただし、ニクロム線の代わりに「カーボン」、つまり炭素を主軸にした物質に電気を流して発熱させています。
普通の電気ストーブとの違いは、カーボンを発熱させると普通のニクロム線よりも多くの遠赤外線が発生し、電気エネルギーを効率よく輻射熱に変えることが出来るのです。発熱体であるカーボンの発熱時に、エネルギーの大部分を電磁波に変えているため、カーボン自体の熱もニクロム線ほど上がりません。
試しに、暫く使った後に機器を止め、発熱体を保護している金網や空気の温度(発熱体自体は熱いの触らないで下さい)を測ってみてください。 電気ストーブは熱くて触れない、近づけないほど熱いのに、カーボンヒーターはそれほど熱くありません。場合によっては、金網に触れるほどの加熱で済んでいます。しかし、ヒーターの稼働中に体を近づけるとやたら熱く感じます。
これは、カーボンヒーターが人を暖める事に特化した電磁波を発生させているからで、人以外の物や空気を暖める事にそこまでエネルギーを使っていないと言うことを意味しています。つまり、相当出力を上げない限り対流効果も期待できません。
逆に言うと、カーボンヒーターを使えば、人は暖まるけど部屋はそれほど暖まらないということでもあります。
ちなみに、ハロゲンヒーターはカーボンやニクロムではなく、ハロゲンを入れた管を発熱させているだけです。人を暖める効果はカーボンの方が高いので、廃れつつあります。
パネルヒーター
さて、ストーブ類とは打って変わって全く光らない暖房機器です。
パネルの中に電熱線が入っていて、パネル自体を電気で暖めて暖を取る暖房機器。輻射式に分類させて頂きましたが、光を放たないということで輻射熱の効果はストーブ類ほどではありません。ただし、パネル自体がかなりの熱量を貯めこむので、その熱が空気に伝わって緩やかな上昇気流を生み、僅かな対流効果もあります。
火傷や火災に繋がるほど本体が熱くなることもないですし、ストーブ類とは違って体の近くに置いてもそれほど熱く感じません。その分電気代がかからないですし、構造もシンプルなので安価で軽量で薄いので持ち運びが簡単です。
トイレなどの狭いスペースや、足元などに置いて局所を緩やかに暖めると言う使い方が多く、部屋はもちろん人そのものを暖めるのには向きません。
こたつ [12/18 追記]
忘れてはいけない(初稿で忘れていました)のが、日本人が愛するこたつ。
テーブルの下に電熱線を入れ、輻射を発生させて 一番冷えやすい足元を暖めます。
今は電気式が主流ですが、昔は囲炉裏の上にテーブルを置いて使っていたようですね。実際に火を使うので危険な上に、石油系製品と同様に空気を汚して一酸化炭素中毒になる可能性もあるので、今では殆ど見られません。リビングの机と一体化出来るので、スペース的に邪魔になることが少ないのも特徴ですね。
基本的には脚を直接輻射熱で暖めますが、布団に覆われてこたつ内部が密閉されているおかげで、暖められた足や床が熱を持ち、それが空気に伝搬することで電気を消しても暫くは熱を持ちます。実際に火を使う方式に比べると、こたつ内部の空気の熱は大した事ありませんが、他の輻射方式に比べると圧倒的に発生させるエネルギーに無駄がありません。
ストーブ類の場合、発生させた熱は壁などを通して比較的早い段階で逃げていきます。しかしこたつの場合、体に当たった電磁波以外は、床と布団に熱が吸収され空気に伝搬し、それらの熱の多くは人の体を暖める事に再利用されます。そのため、比較的省エネな暖房器具と言えるでしょう。
ただし、見た目に電気が付いているか分からないので消し忘れが多く、結果的に電気を無駄に使っていることも多いのがこたつです。さらに、こたつがあるからと他の暖房機器を使わずにいると、空気が冷え過ぎてこたつの外に出られなくなるのも欠点?かもしれませんね。
流体を加熱循環させる機器
次に少し独特な暖房原理を使った機器を紹介します。
というのも、独特と言ってもヨーロッパでは主流ですし、最近の新しい家には標準装備されていることも多くなっている水やオイルを使った暖房機器です。別にお風呂や給湯器の事ではなく、熱を持った物質が電磁波を発生させるということを利用し、水やオイルを熱して家屋の周囲を循環させたり、暖房器具内部に熱を保持したりします。
ストーブ類とは大きく趣の異なる暖房機器であり、その特徴としては、水やオイルと言った熱を溜め込みやすい物質に熱を移すことで、長時間に渡って輻射と対流を使って緩やかに熱を広げていくことが可能な事です。自然な暖かさを生むことが出来るため、ストーブなどで体を直接温めたくない場合やファンヒーターで空気を乾燥させたくない場合には丁度良いです。
ただし、輻射の効果はストーブ類に比べればはるかに弱く、はっきり言って輻射の効果を体感する事は無いでしょう。人が気づかないレベルでジワジワ人や物を暖めるような形になります。その場合、部屋が暖まっているのか輻射熱によって暖まっているのか判別がつかず、輻射熱の効果だとは思わないかも知れません。さらに、部屋の断熱性が低いと、暖めるそばから冷えていくので、暖房効果が不十分であることも多いです。
対流式に入れた機器に比べると対流効果が極めて低いため、輻射式に分類していますが、対流式に分類されることも多い暖房機器です。
オイルヒーター
上記の製品は電気を使っていますが、ヨーロッパでは屋舎全体に管を通して、ガスや石油でオイルを暖めて循環させているパターンもあります。
オイルは水などよりも熱を溜め込みやすく、高温になります。高温のオイルをヒーター内部に保持していると、オイルの輻射が人や建物に伝わり、且つ直接ヒーターに触れている空気に徐々に熱が伝わっていきます。熱せられた空気が対流を生んで部屋を循環し始め、輻射熱が壁面などを緩やかに暖める事で、徐々に部屋や人が温まっていくようになります。
高温のオイルと言っても、ヒーター自体は火傷や火災に繋がるほどの熱は持ちません。緩やかに全体を暖めて行くので、急激に空気が乾燥することも無いのです。そして、一度温まったオイルはなかなか冷えないので、電気代も他の機器と比べると安く済む傾向にあります。
欠点としては、暖まるのが極めて遅いということ。30分以上稼働させなければ暖かくなったと言う感覚を得る事はできないので、すぐに暖まりたいときには使えません。さらに、大量のオイルを内蔵しているため、重くて動かしにくいというの使いにくさの一つです。
床暖房
流体を暖めると言いましたが、電熱線を入れる床暖房もあります。しかし、電気代はお湯やオイルを使う床暖房の方が安いので、最近では温めた液体を床下に流すタイプが主流です。
効果としてはオイルヒーターと似ています。ただ、床暖房は人が接する床を暖めるので、「伝導式」「輻射式」「対流式」全ての原理を利用しているといえます。
床暖房は、暖かいお湯を床下に流し、お湯の輻射(床を透過する)で人や物を徐々に暖めながら、床そのものを温めます。そうすると、床が温められた事によって対流がうまれ、部屋全体が暖まる用になります。最も冷たくなりやすい足が暖かい床に触れることで、暖かさを実感することも出来るため、非常に効率的に自然な暖かさを生むことが出来る機器です。
欠点としては、常に部屋全体を暖めようとする機器であり、設置に大規模な工事が必要で温水を作る燃料費も馬鹿になりません。自然に暖かい環境を作れるものの、極めて制約の多い暖房機器といえるでしょう。
カーボンヒーターや電気ストーブ以外は、輻射式以外に対流効果なども期待して設計されているので輻射式と厳密には言い切れないかも知れません。しかし、対流式や伝導式に比べれば極めて輻射効果の高い機器になっています。
基本的には対流式の補助として使われる事が多いですが、オイルヒーターなどは高い対流効果もあるため、単独で暖房機器として完結している機器でもありますね。
【その3: 直接体を暖める暖房機器 へ続く】