全四篇に渡って潜水艦乗りの戦いについて追ってきました。そこで分かった事は、潜水艦は強力な兵器ではあるもののその特性や任務は非常に極端であり、むしろ軍艦の例外とも言える存在だということ。
そこで気になってくるのが潜水艦と戦う水上艦の船乗り達。戦争は海だけで行われるわけではなく、むしろ本当に重要なのは陸での戦い。海軍の任務は海の安全を確保することですが、それは物資や人員を陸の目的地へ確実に送り届けるためであり、そして敵の物資や人員を陸の目的地に近づけないようにするためでもあります。
その際に最大の障害となるのが潜水艦。潜水艦に潜水艦を攻撃させるのも一つの手ですが、潜行中の潜水艦の索敵範囲は索敵機や水上艦の広域レーダーに比べれば非常に狭く、防衛の主軸にするにはどうしても心許ない。海軍力に劣ったナチスドイツのUボート艦隊などは例外ですが、任務の汎用性なども鑑み、多くの海軍で水上艦が主力になっています。
海中を静かに進む潜水艦に比べると、水上艦は騒音を出すのでみつかりやすい。そんな水上艦の船乗りたちは、一体どうやって潜水艦と戦っているのでしょうか?
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対潜哨戒ミッション-潜水艦を探せ!
潜水艦探すには、様々な方法がある。それについては、別の記事でもご説明しています。
その潜水艦を探す最大の手がかりは音。しかし、海面で水を掻き分けながら進む水上艦は、どうしても潜水艦に比べれば音の煩い船になります。加えて、潜水艦は深度を自在に変えながら音が伝わりにくい海域に潜めるのに対し、海上艦は常に海の上。潜水艦から隠れる場所などありません。もし、潜水艦が静かに航行していれば、水上艦が潜水艦から潜望鏡で見えるほど近い場所にいるのに、水上艦は潜水艦の存在に気づかない。などということも珍しくありません。
そして、戦うだけが水上艦の任務ではなく、多くの場合、水上艦は大型で騒音の激しい輸送船や空母を護衛しながら作戦行動を行っています。そうなれば、水上艦がいくら静かに行動したところで意味はありません。
水上艦は隠れるよりも、その多彩な能力を駆使して、航空機らと連携しながら広範囲で対潜哨戒を行うのが潜水艦を探す近道です。対潜哨戒において最も重要なのが航空機やヘリコプターであり、大型の水上艦であれば必ず艦載ヘリを搭載できるようになっています。陸から飛んで来る対潜哨戒機も重要で、水上艦と連携を取りながら集音機器を投下したり、赤外線・磁気探知機を使って潜水艦を探します。
水上艦が航空機やヘリと連携した際の索敵範囲は、潜行中の潜水艦などとは比べ物にならず、艦隊規模にもよりますが、数倍から数十倍と言ったレベルです。例えば、ヘリ空母「いずも」や「ひゅうが」が護衛艦を伴って対潜哨戒を行えば、半径数百キロをくまなく哨戒出来るのに対し、潜水艦は細かな位置が分かるのが広めに見積もっても十キロ圏内。大まかな位置でも、半径数十キロがせいぜいと言った所。しかも、自身の位置によっては近くても聞こえやすかったり聞こえにくかったりするので、潜水艦が対潜哨戒中のヘリ空母を擁する大艦隊を先に見つけられるかどうかは賭けになるでしょう。
問題は索敵範囲に潜水艦がいたとしても、対潜哨戒部隊が静かに航行する潜水艦を見つけられるかどうかが練度次第だということ。腕の良い潜水艦乗りが巧みに操艦する潜水艦であれば、哨戒部隊に気付かれずに対潜哨戒艦隊に近づけるかも知れません。そうなってくると、次は本格的な戦闘が始まります。
余談ですが、近代艦隊には潜水艦も組み込まれるのが基本です。つまり、空母クラスの大型艦を中心に水上艦が護衛艦隊を組んだ上で、潜水艦が艦隊より先行して索敵を行うのが一般的なのです。なぜなら、本気で隠れようとしている潜水艦を見つけられるのは潜水艦だけだから。特に、深海に潜った潜水艦は水上艦や対潜ヘリでは見つけられません。とは言え、水上艦や対潜ヘリの索敵限界より下に潜った潜水艦は水圧の影響で攻撃もできなくなる(撃った魚雷やミサイルが水圧で潰れる)ため、潜水艦を海深くに追いやるのも哨戒任務の一つといえますね。
対潜攻撃その1-「爆雷」
潜水艦は隠れるのが基本です。見つかったら攻撃を受けて終わり、などと言いました。しかし、そうは言ってもどうやって潜水艦を沈めるのでしょう?
潜水艦を攻撃するために最初に作られたのは爆雷でした。爆雷と言うのは水中で爆発する爆弾です。爆発の衝撃を利用して潜水艦の船体を破壊し、潜水艦を沈めます。爆雷の使い方はまんま爆弾と同じで、潜水艦の上から落とすだけでした。すなわち、潜水艦を見つけた水上艦は、すかさず潜水艦の真上に陣取ってマウントポジションでひたすら爆雷を落としまくる仕事を始めるだけです。魚雷発射管が前後にしか無かった昔の潜水艦は、上方に攻撃する術を持たず、そうなればひたすら耐えるしかありません。
上の写真は投射型の爆雷で、斜めの支柱の先に付いているドラム缶の様なものが爆弾部分です。投射型と言われるように、火薬の力を使って爆雷を遠くに飛ばして使います。爆雷がドラム缶のように見えるのは、初期の爆雷は船の後ろに付けた滑り台のような装置を使って爆雷を転がしながら海に落としていたからで、丸くて転がしやすい形状に意味があったんですね。
使い方が少し変わりますが、「ヘッジホッグ」と言う兵器も有名です。対潜迫撃砲とも呼ばれていますが、小さな爆弾を海上からばら撒いてぶつかったら爆発させると言う方式になっています。
先に音で敵を探すと言いましたが、設定した深度で爆発する爆雷は潜水艦が近くにいなくても勝手に爆発してしまします。すると、爆撃中は爆音のせいでソナーが使い物になりません。そのため、水上艦の攻撃中は潜水艦が逃げる絶好の機会でもあるのです。潜水艦側は水上艦が攻撃してきたら逃げて、攻撃を止めたら停止して・・・などと「だるまさんが転んだ」のような逃げ方をしていたようです。
そこで、沢山ばら撒いて当たったら爆発すると言うやり方が注目されたのですね。
昔はそんな苦労があった爆雷ですが、現代の爆雷は磁気センサーを搭載し、近くに潜水艦が来たら自動的に爆発するのでそんな心配はいりません。現代の爆雷もヘリや航空機であればそのまま上から落とすだけですが、艦船の場合はロケットなどを使って遠くに飛ばして使っているようです。時代が変われば、形も変わっていくのですね。
対潜攻撃その2-「誘導魚雷」
しかし、昔は最大の攻撃手段であった爆雷も今では下火になっています。
そう。誘導魚雷の登場です。
登場と言いましたが、昔は潜水艦を魚雷で攻撃すると言う発想自体がありませんでした。
というのも、潜水艦は海中を三次元的に行動するので誘導装置のない真っ直ぐにしか進めない魚雷では当たるわけがなかったのです。浮上航行中であったり、潜望鏡を使っていたりと海面スレスレを移動していた場合に魚雷攻撃を受けたことはあるようですが、数十メートルほど潜ってしまえば魚雷は頭の上を通りすぎてしまうのです。
しかし、誘導装置がついて魚雷が潜水艦を追いかけていくようになってしまえば、対潜攻撃は魚雷で事足りるようになりました。潜水艦の音がしたら、その付近に魚雷を投下して音源に向かって進ませるだけ。誘導魚雷にはアクティブソナーが付いているので、たとえ潜水艦が音を消したとしても、近づいてしまえば見つけられます。むしろ、潜水艦が魚雷攻撃を受けた場合、下手に音を消すよりは騒音を出して位置を誤魔化すのが有効です。
魚雷は足が遅いですが、潜水艦が遠くにいたとしても、魚雷をミサイルで飛ばせば済む(「アスロック」など)ことなので何の問題もありません。一方、対潜ヘリなどは、爆薬だけではなく誘導装置に推進装置までついた重い魚雷を多数抱えるのは無理なため、浅い深度なら爆雷、深ければ魚雷と使い分けているようです。そもそも、ヘリの場合は魚雷よりヘリの移動速度が速いので、自分で移動して爆弾を落とした方が手っ取り早いですから。
ちなみに、魚雷に限ったことではありませんが、誘導装置の索敵範囲から逃れない限り、誘導兵器は外れてもまたぐるっと回って再度追いかけてきます。特に、航行速度の遅い魚雷は外れたとしてもすぐに潜水艦を見失うとは限らず、一発の魚雷にいつまでも追い回されると言うことさえあり得ます。
見つかったら終わり、というのもよく分かることでしょう。
最も重要なのは、先に見つける事
爆雷に誘導魚雷。どちらも強力な兵器で、潜水艦を一撃で行動不能にすることが出来る兵器です。
ヘリや航空機からも使用でき、ミサイルやロケットに搭載して広範囲に渡って使用できるため、潜水艦の位置さえ分かれば勝ったも同然と言えます。
しかし、位置を特定する事が対潜水艦戦で一番難しいのです。攻撃を受ければ潜水艦の場所がわかりますが、潜水艦の装備も充実しており、水上艦が潜水艦の攻撃を躱しきることは困難です。もちろん、艦隊を組んでいれば一撃で全滅してしまう可能性は低いため、反撃は可能かもしれません。ただ、潜水艦が敵を見つけたからといって、リスクを犯してまですぐに攻撃してくるとは限らず、むしろずっと後ろからつけてきて位置情報を報告される可能性の方が高いのです。
潜水艦の任務は忍者と同じ。
暗殺任務も請け負いますが、情報収集が一番の仕事です。よくあるのが、港の近くにじっと潜んで艦船の出入りを静かに報告し続けるなど。そして、主力艦隊が出撃すれば、どこまでも付いて行き、いざという時には攻撃するのです。
フォークランド紛争では原潜コンカラーが巡洋艦を魚雷攻撃で沈めていますが、随伴していた駆逐艦は巡洋艦が撃沈されるまで存在に気付かなかったと言います。駆逐艦も反撃しようとしたようですが、位置を掴めませんでした。その時、原潜コンカラーは一隻しか撃沈命令が出ていなかったために駆逐艦を見逃していますが、おそらく駆逐艦を沈めようと思えば十分沈められたことでしょう。
世界大戦の際にも、枢軸・連合軍問わず数多くの艦船が沈められていますが、そのほとんどが至近距離からの突然の魚雷攻撃が理由です。護衛の駆逐艦が追いかけようにも、魚雷の爆発音で潜水艦の位置が分からなくなってしまったり、救助を優先させたりで、攻撃を受けながら反撃も出来ずに終わってしまったケースも多かったようです。
結局、潜水艦がいたのかいなかったのか、どこに逃げてどこに隠れたのかわからない。そうなったら、水上艦は毎日怯えて過ごすしかありません。
潜水艦がどこにいて、何をしているか分からない。
それこそが潜水艦が最も恐ろしいと言われる所以です。逆に言えば、潜水艦が何をしているか分かれば全く怖くはないのです。
潜水艦の場所が分かれば最高ですし、分からないとしてもあらゆる深度でくまなく対潜哨戒を行い、いるとすれば発射した魚雷が潰れてしまうほどの深海に隠れているというなら何の問題も無いのです。そのまま、潜水艦には深海魚と仲良くしてもらい、浮かんできたらすかさず発見すれば良いだけです。
潜水艦の攻撃可能な水深よりも対潜部隊の哨戒可能深度の方が深く、潜水艦が攻撃出来る状態だということは、哨戒部隊が見つけられるということと同義です。潜水艦の射程に入ってしまっても、攻撃されるよりも早く潜水艦を見つけられさえすれば、哨戒部隊の勝ちなのです。