潜水艦乗りの過酷な戦い(4):魚雷だけじゃない!対艦・対地・対空装備、海で最強の潜水艦

前回の記事では、潜水艦がどのようにして敵を見つけるかについて簡単にご説明しました。さて、敵を見つけたら今度は戦闘です。

海中の戦闘は海上の戦闘とは全く異なります。陸、海上、空の戦いは電波技術の進歩により飛躍的に変化しましたが、実は海中の戦いは世界大戦以来大きく変化していません。イージス艦が最強だとか、ステルス機が最強だとか、無人機が陸と空を跋扈するだとか・・・潜水艦とは無縁の話。

イージス艦のハイテクレーダーも、ステルス機の隠密性も、沢山の無人機も、未だ潜水艦の脅威にはなりません。海中にイージス艦のレーダーは届きませんし、潜水艦は世界中のどのステルス機よりも隠密行動に優れています。海中に無人潜水艦を送り込んでも、無人機の情報は結局浮上して電波を使うか、母線に繋がった有線で受け取るしか無いのです。

潜水艦が登場して百五十年が経った今でも、潜水艦と言うのは独自の立ち位置を取り続けています。

関連記事
そうりゅう型潜水艦の性能と任務、海自の切り札
耳を澄まして敵を探す潜水艦の戦い
潜水艦乗りの過酷な戦い(1):毎日が極限状態の海中の密室
潜水艦乗りの過酷な戦い(3):敵を見つけるための各種装備

海中を高速で進む爆発物、魚雷

魚雷というは、爆薬を積んで海中を航行し、敵船に衝突して爆発する兵器です。潜水艦の登場以前から存在し、海上船舶に搭載して使用されていました。

そして、魚雷と言うのは海上船舶を沈めるための兵器では最も強力な兵器であると考えられています。というのも、船を沈めるために最も有効なのが船の内部に海水を入れることであり、海水を入れるのに最も有効なのが喫水線下(船が海水に触れている部分)に穴を開けることだからです。

魚雷は海中を潜航し、視認しにくい上に船の底部付近で爆発して船体に大きな穴を開けます。当然、その穴から海水が勢い良く入っていけば、船はそのまま沈んでしまいますね。現代艦船の構造と魚雷の破壊力であれば、殆どの艦船が魚雷を喰らえば一撃で沈みます。イージス艦はもちろん、巨大な原子力空母でさえ、魚雷が急所に当たれば一発で沈み兼ねないほどの威力を持っています

これは、爆薬が進歩してミサイルや魚雷の破壊力が向上したというのもあるのですが、兵器の破壊力を装甲で防ぐより、装甲を軽くして「素早く避けるか、撃ち落とした方が良い」と言う考え方が現代では浸透している事にも理由があります。事実、魚雷はミサイルと比べれば遥かにゆっくり進むため、戦闘艦の速度(最大時速60km前後)で移動しながら避けるのが一番なのです。

誘導装置

さて、そんな魚雷ですが・・・爆薬も誘導原理もミサイルなどとは大きく異なります。というのも、水中では爆風や破片等の威力は水の抵抗であっという間に減衰されてしまうからです。当然、電波誘導したくともミサイルが使っているような電波は届きません。

そのため、誘導に関しては別の記事でもご説明しているように音や赤外線誘導で行われます。しかし、音だけで追いかけても、音を出すデコイや、回避運動時に巻き起こる泡や騒音で機械はごまされてしまいます。そこで、昔ながらのカメラと有線誘導なども駆使して、「今のタイミングでこの音がするのはデコイだ」とか、「泡と騒音で何も聞こえないが敵はここにいるはずだ」とか、逃げる側と攻撃する側で人と人との駆け引きが行われます。

空や海の戦闘は機械的にミサイルやデコイによって大部分が半自動的に行われますが、海中の戦闘は昔ながらの人と人の戦いが綿々と続いているのですね。

ちなみに、昔の魚雷には誘導装置などはありませんでしたので、距離と位置を計算して攻撃していました。その際、電波測距儀など、電波を出す装置は見つかってしまうので使えません。目標の実際の大きさと見かけ上の大きさから距離を割り出していたそうです。そのため、距離を誤魔化すための対抗手段として、海上船舶の中には大きさが分かりくくなる様な塗装や進行方向が分かりにくくなるような形状が採用された艦船もあるようです。あまり効果は無かったようですが、試みとしては面白いですよね。

爆薬

次に爆薬です。爆風や破片で船体を破壊できないわけではないですが、その分沢山の爆薬を積まなければいけませんでした。しかし、バブルパルスと言う水中で発生した高圧ガスによる泡の振動効果が解明されると、それを利用した水中爆薬(トーペックスやHBX)が発明されます。これにより、水中爆薬の破壊力は飛躍的に高まりました。

このバブルパルスと言うのは、高圧ガスが水中で微細な泡となって勢い良く膨らむと、膨らみ続けている内に勢いがなくなって水圧に負けて縮み始め、ある程度縮むと今度はガスの圧力が水圧に勝ち始めて膨らみ始めるため、振動の様になる現象のことです。まあ、ゴムやバネが縮んだり伸びたりするのと要領は変わりません。似たような原理で起こる現象にキャビテーションがあるので、そちらのほうが馴染みがあるかもしれませんね。

これを利用して、強烈な圧力を船体に与えることが出来るのですが・・・原理が非常に面白いのです。下の図を見て下さい。

20150120-1

まず、爆発で高圧ガスが発生します。高圧ガスが泡となって膨らんで途中で水圧に負け始めた時、泡は縮もうとするのですが、壁や船体に泡が接している場合、壁側から掛かる水圧は壁がない側の圧力より低くなります(一番左の泡)。すると、水の圧力は片側に集中し始め、泡の圧力だけでは耐えられなくなって、反対側へと貫通します。例えるなら、両手でゴムを引っ張って片方だけ離してみたと言うイメージに近いでしょう。勢いを殺しきれずに、ゴムを持っている方にバチンとゴムはぶつかりますよね。

このバブルパルスが大量に、且つ高圧・高速で発生すれば破壊力は凄まじいことになります。潜水艦の兵器というのは、魚雷一つとっても非常に独特なのです。