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海上自衛隊(1):海上艦艇の艦種とその任務、護衛艦隊の存在意義とは?

そうりゅう型の特集で日本の誇る最新鋭潜水艦について触れ、潜水艦乗りの特集では潜水艦の戦い方についてご説明しました。

しかし、潜水艦と言うのはあくまで海上戦力の一つに過ぎません。自衛艦の艦種でみても水上艦の方が圧倒的に多く、公開演習や日米合同演習などの映像を見ても、(潜っているので)その姿はどこにもありません。

そもそも日本は四方を海に囲まれていますが、広大な海の平和を守るには潜水艦だけでは全く足りないのです。そこで、自衛隊がどのようにして日本の海の平和を守っているのかについて、初心者にも分かるように簡単にご説明していきたいと思います。

海自の編成、様々な種類と役割

海上自衛隊には様々な艦種の船舶が所属しています。一応、潜水艦を捜索する対潜哨戒機などの航空機やヘリも保有していますがここでは触れません。

まず、自衛隊の軍艦を目的別に分けた種類だけで言えばそれこそ数十種類にも及び、何がなんだか分からないでしょう。そこで大雑把に分けると、戦闘に関わりつつ危険な任務に従事する「警備艦」と、それを補助するために比較的安全な任務に従事する「補助艦」に分けられます

危険な任務というのは、敵と相対して戦うことだけではありません。兵器や人員を積んで敵前で下ろすだけの揚陸艦や機雷を除去するだけの掃海艦なども警備艦に含まれています。無論、ミサイルを積んだイージス艦や魚雷を積んだ潜水艦などは当然こちらの「警備艦」に分類されます。

一方、安全な場所で補助するだけと言うのはどういうことかというと、平時に訓練を行う訓練艦や海底の形状などを調べる海洋観測艦、または燃料や物資の補給を行う補給艦などがそれに当たります。どれも敵がいない事を前提に活動するので、武装も殆どついていないことが多いです。

そして、警備艦に関してはそこから更に細分化していくのですが、どちらも戦場に赴くものの「戦闘に従事するか(戦闘艦)」「戦闘に従事しない(非戦闘艦)」かで大きな差があります。正式名称で言うと、「機動艦艇」や「哨戒艦艇」が戦う艦。「機雷艦艇」や「輸送艦艇」が実際に戦わない艦。ということが出来ます。

戦闘艦にはイージス艦やヘリ空母、潜水艦が含まれますし、非戦闘艦には機雷掃海艦や揚陸艦が含まれます。基本的に、戦場に赴く際にはどちらも編隊を組んで行動しますが、実際に戦闘が始まった場合には、「戦闘艦」のグループと「非戦闘艦」のグループに分かれ、非戦闘艦のグループは安全な場所に退避します。

実際にミサイルなどを撃つわけではないので空母などを戦闘艦から除外する場合もありますが、搭載航空機が戦闘部隊に置いて中心的な役割を果たす上、戦闘艦隊の中核として活動するので戦闘艦と言う扱いになることが多いです。

余談ですが、一般に「艦」といえば「大型で外洋航行が出来る船」で、「艇」といえば「沿岸のみで活動する船」と分けられます。もしくは、単に大きな船か小さな船かで分けることもあります。艦艇といえば、それらをまとめて「軍用の船」として、使うことが多いです。

戦闘艦の種類と変遷、潜水艦と駆逐艦の台頭

さて、戦闘艦一つとっても種類は多いです。

第二次世界大戦で用いられた艦種(級)としては、「戦艦」「空母」「巡洋艦」「駆逐艦」「フリゲート」「コルベット」「潜水艦」に分けられます。

戦艦は巨大な主砲と装甲を持った巨艦で、容易には沈まず、あらゆる艦艇を確実に沈めることが出来ます。空母は航空機を運用する能力を持つ大型艦で、艦載機を通じて超長距離攻撃を可能にしました。巡洋艦は外洋に出る能力を持つ大型艦で、機動性と攻撃力を併せ持った海上戦闘の主力を構成します。

駆逐艦は戦艦や空母を補完するような役割を持った小型艦で、防空や対潜を主任務としています。フリゲートは駆逐艦より小型の多目的艦で、機動性を活かして主に非戦闘艦の護衛などを行います。コルベットは沿岸防備等を主任務とする小型艦で、圧倒的な機動力で素早く展開できるのが強みです。

これらの定義は現代とさほど変わっていませんが、大きく変化したものもあります。駆逐艦などがそうですが、現代の軍艦にはそもそも「戦艦」が存在しなくなっています。「戦艦級」の巡洋艦(キーロフ級)などは存在するものの、大規模ミサイルプラットフォームと言う様相で、重装甲の戦艦という感じではありません。

巨大で鈍足の戦艦は敵のミサイル攻撃の良い的になる上、「敵の艦艇を確実に沈める能力」と言う意味では潜水艦が代替出来るようになったので、潜水艦が「現代の戦艦」的なポジションを得て、代わりに戦艦が絶滅してしまいました。原子力潜水艦などはまさに現代の戦艦で、地上攻撃、艦艇攻撃、核攻撃と敵を選びません。技術や資金投入の程度を鑑みても、旧来の戦艦並といえます。

一応、戦艦には地上施設を徹底的に砲撃すると言う役割もあったのですが、ミサイルが高性能でより安価になったのでその役目も駆逐艦などに引き継がれています。

潜水艦が戦艦並みの脅威になったのであれば、潜水艦退治を主任務としていた駆逐艦の立場は旧来よりさらに重要なものとなります。航空機の脅威も健在なので、対空・対潜能力が強化された駆逐艦は大型化が進みます。ミサイルの進歩により駆逐艦の火力も上がり、駆逐艦一隻で何でも出来るようになってしまいました。

世界大戦の頃であれば、戦艦が一番強くて、次に強いのが巡洋艦、一番弱いのが駆逐艦であり、フリゲートやコルベットは主力艦に数えられていませんでした。しかし、今では駆逐艦も巡洋艦もさほど能力に違いがなく、巡洋艦という名前が付いている船は「駆逐艦よりは沢山武装を積んでいる」だとか、「単に大きいから巡洋艦」だとか、「艦長のポスト的に駆逐艦はかっこ悪いから」と言う理由で巡洋艦と言う名称が残るだけとなっています。

巡洋艦や駆逐艦の定義に厳密な決まりはないので好きに呼べば良いのですが、少なくとも世界大戦の頃の感覚が全く当てはまらなくなっているのは間違いありません。

現に、昔は1万トン級の大型艦は巡洋艦に分類されていましたが、今では駆逐艦と言う分類にも関わらず1万トン級の大きさだったりします。ちなみに、昔の駆逐艦は3000トン未満の艦が殆どでした。


(巡洋艦_大淀)


(駆逐艦_雷)


(駆逐艦_あしがら [JMSDF])

排水量って?

船の仕様で出てくる排水量と言うのは基本的には重量と同義です。というのも、船が浮いているということは、「水から受ける浮力と重量が釣り合っている」ということであり、浮力は船が沈んだ際に掻き出された水の量と等しいので、「掻き出された水の量である排水量は重量である」こと言うことになります。

なんだかややこしいですが、「満杯のお風呂に入った際に溢れたお湯の分だけ自分に浮力が掛かっている」ので、もしそれで自分が浮いたら、「溢れたお湯の重さを量れば自分の体重がバレてしまう」ということです。同じ体積で比べた場合、人と水は殆ど似たような重さですので、肺に空気を入れたり出したりして少し体積を変えるだけで浮いたり沈んだりするのです。まあ、頭まで水に入れなければ正確な重量は量れないでしょうが、頭の体積は全体でみるとごく一部なので、大体はバレてしまうと思って良いでしょう。

ただし、潜水艦の場合は排水量の意味合いが少し異なります。潜水艦は海水を入れたり出したりして、浮いたり沈んだりするのですが、海水を入れるか入れないかで排水量(重さ)が変わってしまうのです。なので、水を入れた状態では潜水艦自体の正確な重さがわかりません。基準排水量を潜水艦自体の重さとし、水中排水量を潜水艦自体の大きさと考えるとすんなり理解できるでしょう。

しかし、船舶でわざわざ重量ではなく排水量としているのは、船舶にとっては「重量より浮力」の方が重要だからと言う事でもあります。というのも、船舶は基本的には荷物を運ぶための乗り物です。自身の重さよりも、「どれくらい運べるか」というのが、船の価値判断における重要な基準となります。

そして、重いものを運ぶには沢山の浮力が必要ということになり、沢山の浮力を得るためには(水を沢山掻き出すための)大きな船体が必要と言う事になるのです。そのため、排水量と言うのは重量でもある一方で、浮力と言う意味でもあり、そして体積に比例します。排水量が大きければ、「大きな船で沢山の荷物を運ぶ能力がある」と言ういうことが出来ますね。

海自の護衛艦と、護衛艦隊の存在意義とは?

海上自衛隊の主力を構成する水上戦闘艦は、総じて「護衛艦」と呼ばれています。この護衛艦には、上述の空母や駆逐艦などが当てはまります。「護衛艦」と言う名前のついていないものは、主戦闘から外れた哨戒艦であったり、非戦闘艦に分類されています。

海自の護衛艦には、「ヘリコプター護衛艦(ひゅうが等)」「ミサイル護衛艦(あたご等)」「汎用護衛艦(あきづき等)」「乙型護衛艦(あぶくま等)」が存在します。この内、海外ではヘリコプター護衛艦に関しては「空母」と言う扱いで、それを除けば全て駆逐艦と言う分類になっています。

昔ながらの定義に当てはめるのであれば、ヘリコプター護衛艦は空母でしょうし、ミサイル護衛艦は巡洋艦、汎用護衛艦が駆逐艦で、乙型護衛艦がフリゲート的なポジションになるかもしれません。しかし、自衛隊は旧海軍とは全く異なる性質を持った組織ですので、旧来通りの分類ができず、仕方なく護衛艦と言うような呼称になっています。

これらの護衛艦によって構成される護衛艦隊の主任務は、実のところ「敵潜水艦の無力化」にあるのです。

なんだか意外に思えますが、潜水艦が非常に脅威であると言うだけではありません。海自の存在意義を問われた時に、なんと答えるべきか。実は、自衛隊の複雑な事情がその裏に隠されています。

最近では弾道ミサイルの迎撃も任務の一つと言える様になってきましたが、実際に迎撃が出来るのは数の少ないイージス艦だけなので主任務とは言えませんし、陸自のミサイルでも可能です。仮に敵の水上艦艇が領海に入ったのだとすれば、日本本土に近いのですから海自よりも空自が対応する方が現実的です。

専守防衛の自衛隊は上陸作戦や空爆作戦を行う理由がないので、米軍の様に外洋に出て上陸部隊や空母を守る艦隊も必要ないはずです。敵の航空機が入ってきた場合にも、足の遅い船で迎撃するより空自の航空機で迎撃するのが理想です。もし敵が上陸しようとしてきたのであれば、本土に備え付けたミサイルで陸自が迎撃すれば良いのです。

しかし、潜水艦を破壊するための艦隊が必要だと言う場合であればどうでしょう?

潜水艦は海自や陸自ではどうしようもありません。そして潜水艦はその誕生以来、たとえシーレーンが領海内にあっても、船舶の航行を脅かし続けてきた最も恐ろしい兵器です。潜水艦が本気になれば、瀬戸内海や東京湾にだって入れます。そうすれば、日本のありとあらゆる港の船舶が港から出られなくなるでしょう。機雷で日本中の海を封鎖しても良いですが、船が移動できないことには変わりありません。

潜水艦にする対抗する艦隊が必要なのはわかりました。しかし、その艦隊は敵にとっても邪魔になるので、当然航空機や艦艇からの攻撃を受けます。その攻撃から身を守るためには、当然高性能なイージス艦が必要になります。そして、原子力潜水艦などの絶対に浮上しない潜水艦の捜索は困難を極めるため、潜水艦を捜索するための高性能な護衛艦や潜水艦の索敵に特化した対潜ヘリコプターが多数必要になります。

するとどうでしょうか。空母の様な巨大な護衛艦が必要になり、その護衛艦を守るためにさらに高性能な護衛艦が必要になります。そして、日本の海を潜水艦の脅威から守るために、世界有数の近代的な艦隊が生まれてしまいました。

何かの冗談のようですが、専守防衛を掲げる日本の軍隊はその存在意義の確立が非常に困難です。敵の空母を含めた大艦隊が近づいてきたからと言ってこちらから攻撃するわけにも行きませんし、攻撃されたら空自で良いと言われればそれまでです。

潜水艦を理由に挙げなくても、離島防衛や離島奪還などには海自の存在が不可欠ですので、そう言った理由で海自の存在意義を説明する事もできるでしょう。しかし、事実として潜水艦は空自や陸自にはどうしようもない強敵で、核兵器すら搭載している高脅威目標の一つです。

日本でなくとも対潜任務を主する海軍は存在しますが、日本の様に領海が広いと、対潜任務を主任務としてもこれほどの大艦隊が必要になるようですね。

ちなみに、日本の海自は質的には世界トップ3に入ると言われていますが、世界規模で活動する前提の米英露中の中に、専守防衛の自衛隊が入っているというは驚くべきことです。

 

【その2:護衛艦隊の運用】

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