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「大腸と腸内細菌」:意外な便の内容物と細菌の繁殖場-消化器官のしくみ(7)

小腸での消化吸収が終われば、次に食物は大腸へと送り届けられます。

この段階で食物の消化吸収の大半が終わっていて、消化酵素を使った消化は殆ど行われません。大腸に入ってきた食物の残骸はこの段階で既に「便」と呼んでも差し支えないものです。ただ、まだまだ水っぽい状態で色も茶色ではなく黄色い上、使える素材も残っています。

さらに、消化酵素による消化は行われないものの、腸内細菌による発酵が行われるのがこの大腸。この腸内細菌よる発酵で、食物繊維が分解されて人が吸収できる形に変換されています。つまり、大腸と腸内細菌は切っても切れない関係にあるのです。

本記事では大腸の働き以外にも、腸内細菌の働きについても簡単に扱っていきたいと思います。

消化器官のしくみシリーズ
「胃と胃酸」-胃液と消化酵素、胃が溶けない理由とは?
「十二指腸と膵液」-全ての栄養素を消化する、胆汁の変わった機能
「小腸の栄養吸収」-吸収の絨毛と消化の腸液、空腸と回腸の違い
盲腸は切っちゃダメ?要らない子と呼ばれた虫垂の大切な役割

大腸の構造と働き、消化系最後の吸収と排泄

 大腸は大きく分けて、三つの部分に分けられます。それが盲腸結腸直腸です。

盲腸(Cecum)

かなり長い間、盲腸は退化器官(昔は使ったけど今は使っていない器官)と考えられてきましたが、最近の研究で、盲腸は主に腸内細菌を備蓄・育成する部位詳しくは別記事参照)であることが分かっています。特に盲腸から伸びる尻尾のような虫垂では、かなりの数の腸内細菌が保持されており、細菌用の家と言っても良いでしょう。

食物繊維などの物質は、人が持っている消化機能では消化できず、そのままでは栄養として吸収できません。そこで、人は腸内細菌を使って人が吸収できる形に変換しています。

また、食物繊維は主に植物などに多く含まれる物質で、これらを主食とする草食動物類は体内に大量の細菌を飼っています。人間のような雑食性動物は盲腸だけですが、反芻を行う草食動物は一つ目の胃で細菌を飼育し、その上で吸収を行うようにしています。

ちなみに、虫垂炎(別名、盲腸)はそれらの細菌の拠点となっている虫垂(Appendix)が詰まることで起こり、虫垂内部で異常繁殖した細菌が細胞内部に入り込み、炎症を起こすことで発生しています。本来は虫垂で繁殖した細菌は腸内に入り食物と混ざり、通常の発酵を行うようになっています。

結腸(Colon)

結腸は主に水分やミネラルの吸収を行う器官で、大腸内に入ってきたまだ流動的な食物の残りを固形物にする働きがあります。小腸とは違って非常にゆっくりと食物が進むため、盲腸内で混ざった細菌が十分に時間をかけて発酵を進めることが出来ます。

大腸で最も大きな器官で、食物が上に向かう上行結腸、横に進む横行結腸、下に降りる下行結腸、最後に直腸へとうねるS字結腸に分けられ、各々筋肉の付き方などが微妙に異なります。さらに、結腸ひもと呼ばれるひも状の筋肉が結腸の周りに三本通っており、小腸と大腸を区別する大きな目印になっています。

図で見ると一目瞭然に見える小腸と大腸ですが、手術前で絶食中だと小さくなっているので大きさでは区別が付きません。そこで、結腸ひもで区別するのです。結腸ひもは腸を動かす筋肉が集まったものなのですが、小腸では万遍なく散らばっていた筋肉が、大腸では三箇所にまとまっているのでヒモのようにみえるのです。

直腸(Rectum)

直腸は便を貯蓄する器官で、溜まった便を検知する機能や排泄するための機能が備わっています。しかし、排泄するための機能は自律神経でコントロールされていて、自分の意志でコントロールすることは出来ません。つまり、いきんだところで直腸に力が入っているわけではないということになります。

いきんだ時に便が出るような気がするのは、腹筋によって直腸を圧迫しているからで、直腸自身が何かしているわけではないのです。実は、排泄時に人が随意にコントロールできるのは肛門だけであり、さらに肛門自身に「排出」のための機能は備わっていません。肛門にできることは直腸の出口を開けるか締めるかだけということです。

直腸に便がたまると、(不幸な事に)勝手に直腸の筋肉が便を排出しようという圧力を掛けます。肛門がなければそのまま垂れ流しですが、(幸いにも)肛門が閉じていれば便の圧力に負けずに、人の意志で排泄は阻止されます。肛門を開けば、直腸が勝手に掛けている圧力で便が排出されていきます。

基本的には一度の排泄で排出される便は直腸に溜まっている分だけですが、「排泄する態勢」になっている場合には、直腸に便が溜まる前に排出するように動くので、結腸に溜まっている分であっても、長時間トイレに篭っていればある程度は排便が出来る様になっています。

長々と説明しましたが、要は盲腸で腸内細菌と食物を混ぜあわせ、結腸で吸収・発酵を行い、直腸で排出するということです。以上のように、腸の働きは基本的には便を動かして水分などを吸収するだけですが、大腸で最も重要な作業は腸内細菌によって行われます。

腸内細菌の働き、栄養は細菌の排泄物?

哺乳類は高度な消化器官を保有していますが、基本的に植物の主成分である食物繊維を消化出来ません。そのため、腸内細菌の力を借ります。

細菌類は食物繊維を分解する事ができ、人の栄養となる代謝物を生成します。なんだか人が細菌の排泄物を使って生きているようで変な気分ですが、細菌達によって提供される栄養素は必須栄養素ではあるものの、人が活動するエネルギーのメインではありません。

腸内細菌の細かな活動については別の機会にご説明しますが、これらの腸内細菌は、基本的には有益な善玉菌と悪影響を与える悪玉菌に分かれています。善玉菌で有名なのは、ヨーグルトに入っているビフィズス菌やヤクルトに入っているヤクルト菌などで、腸内環境を整える働きを持っています。一方で、悪玉菌は発がん性物質を作ったり、悪臭のもとを作ったり、善玉菌に害を成す菌の事を指します。

(大腸菌)

善玉菌が適切に働いていた場合は、便の色が丁度良い感じの茶色になります。これは胆汁に含まれる黄色の色素を吸収して茶色の色素に変換しているからなのですが、腸内環境が腸内細菌にとって活動しにくい状態だと十分に変換できず、色が黄色いままで排出されます。

また、悪玉菌が増えすぎれば下痢になりますし、善玉菌が少なくなれば便秘になることもあります。食物繊維が足りないと便秘になるというのは、善玉菌の栄養素が足りず、十分に繁殖できていないためというのもあるようですね。

これらの腸内細菌の総数は実に100兆を超え、重さにして1.5キロもあるといいます。ふと気になるのが、これらの菌はどうやって体の中に入っていくのかということでしょう。

なんといっても、胃で大半が殺菌されてしまいます。ビフィズス菌などは胃で殺菌されやすいため、別の食品と一緒に食べて食品の中に隠れながら胃を通り抜けることで、腸内に届くようになっています。そのため、小さなカップのヨーグルトをそれだけで食べるより、フルーツと混ぜあわせて食べるような形が奨励されていますね。

一方で、胃酸に強いヤクルト菌などはそのほとんどが胃を通過して腸までたどり着くため、小さなヤクルトのボトルでも高い効果が期待できるのです。

このように、大腸は腸内細菌のための器官と言っても過言ではなく、これらの腸内細菌の働きをよく理解することで、健康的な生活を送れるようになるといえるでしょう。

便の内容物、結局何が排出されてるの?

便は臭いし汚い。ちなみに、これは全部腸内細菌のせいです。臭いのは悪玉菌が異臭を放つ物質を作って便に混ぜ込んでいるからで、汚いのは便の中に沢山の細菌が混ざっているからです。一部の動物は糞を食べてまた分解しますが、人間の場合には大量に発生した腸内細菌を上手く扱う機能が大腸以外に存在しないのでこれは難しいです。

腸内細菌は人間の生活には必要不可欠です。臭くて汚いのは仕方ないとしても、細菌以外にどんな物質が便に含まれているのでしょう?

実は、その大半が水分だったりします。

「おい。小腸で吸収して大腸でも吸収してそんだけ残ってるのかよ」
と突っ込みたくなりますが、実際の所、水分を全て吸収するのはどだい無理なことなのです。

栄養素は腸内の壁面で吸収されますが、便と腸が触れている部分の水をいくら吸収しても、便の中心部分の水はいつまでも残ったままです。そもそも、水分の足りない便は腸内を動かしにくいため、ある程度は水分を残しておかないと便秘になります。当然といえば当然ですが、便秘の場合は水分の割合が減りますし、下痢の場合は著しく多くなります。

また、吸収できなかった食べ物は、実は便の1割に満たない量だったりします。あんなに食べたのに便にはほとんど食べ物が入っていないと言うのは少々意外かもしれませんが、人の消化器官というのはそれだけ優れたものなのですね。

そして、死んでいるものも含めて腸内細菌類が1割弱。1.5キロも腸内細菌が生息していて、食べた食物繊維を使ってどんどん増えています。それを考えれば、食べ物の残骸並みの数がいるのも納得です。

面白いのが、実に1割弱ほど便に腸の細胞そのものが混ざっていることです。いくら食べ物を消化して滑らかにしたとしても、腸の壁をぐにゃぐにゃと動かしながら食べ物を動かそうとすれば、当然腸壁の細胞はズタズタになります。特に、絨毛の様なトゲトゲの小さな細胞が大量に腸内に生えていて、それが食べ物と擦れて破壊されないわけがありません。次々に生えてくるので大した問題ではありませんが、数メートルに渡って食べ物によって削り取られた腸内細胞は、最後は便に混ざって排出されてしまうのですね。

重量ベースなので割合で考えて良いのかどうかの問題はありますが、意外に便というのは水っぽいものなんですね。

ひと繋がりの消化器官

のど十二指腸小腸、大腸、と来て、食べ物の通り道としての消化器官の説明はおしまいです。

歯で固形物を小さく砕き、口の中で流動的な形にして、胃で殺菌と分解を行い、十二指腸で最終的な消化を進める消化液を混ぜあわせる。そして、小腸で栄養分を分解しつつ吸収し、大腸で消化しきれなかった食べ物を腸内細菌で分解させ、排出する。

一つ一つをつぶさに見ていくと、消化器官と言うのは非常に計画的に作られていることが分かります。口から入って肛門から出ると言うプロセスがこれだけ複雑な過程を経ていると言うのは、一種の生命の神秘と言えるものかもしれません。

 

消化器官のしくみシリーズ

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