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そうりゅう型潜水艦は、ドイツの216型やフランスのシュフラン(バラクーダ)級に勝てるのか?

オーストラリアが自国の通常動力型潜水艦「コリンズ」級の代替艦として、日本・ドイツ・フランスの潜水艦を候補に上げている事が話題になっています。

その中でも日本が最も有力とされていることについては、別の記事にて説明しました。しかし、対抗馬に挙げられているドイツやフランスと言えばどちらも強力な軍隊や技術力を持った潜水艦先進国。

ドイツの対抗馬は「216」型潜水艦で、フランスの対抗馬は「シュフラン(バラクーダ)」級原子力潜水艦を通常動力型に変更した型となります。はたして、日本のそうりゅうはこれらの潜水艦に勝てるのでしょうか?

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オーストラリア海軍が求めているモノ

「そうりゅう」が他国の潜水艦に勝てるか、と言うのはこの場合、実際に戦って勝てるかという意味ではありませんね。厳密に言えば、どれがオーストラリアのニーズにマッチしているかという意味になります。

潜水艦を必要としているのはオーストラリア海軍なわけですが、一体どのような潜水艦を必要としてるのでしょうか?

細かく挙げたらキリがないのですが、おおまかに言うと以下の4点。一つは、海軍ではなく豪州政府のニーズですね。

1.広い作戦行動範囲
2.米国製兵器の運用能力
3.高い信頼性
4.高い戦闘力
.国内雇用を生める(海軍ではなく、政府のニーズ)

広い作戦行動範囲(半径)と言うのは、オーストラリアの領海とEEZが広いために広い範囲をカバーできる潜水艦が必要だということ。このニーズを満たす最強の潜水艦は原子力潜水艦ですが、国内の歴史的・文化的・経済的要員から原子力潜水艦の選択肢はありえないようです。

米国製兵器の運用能力というのは、豪州が古くから米国製兵器を中心にして軍隊を編成してきたことや今までの潜水艦も全て米国製兵器の搭載を前提に建造されてきたからです。今までに使ってきた魚雷やミサイルをそのまま使えるような潜水艦でなければ、無駄なコストが掛かってしまいますね。

また、潜水艦は他の艦船に比べて長時間無補給で作戦行動に就くため、高い信頼性も要求されています。今回、豪州が海外製の潜水艦を輸入しようとなったのは、以前国内で作った「コリンズ」級の信頼性が低かった事が大きいからだと見られています。後述しますが、自国で作れるなら自国で作りたかったでしょう。

もちろん、潜水艦は戦闘艦ですので高い戦闘力も必要です。潜水艦の戦闘力とは、航行速度や静粛性、探知能力に他なりません。素早く戦地に展開し、敵に見つからないように接近し、敵より先に敵を見つけて攻撃するのが潜水艦の任務です。それを確実に遂行できる潜水艦が求められています。

そして、これは政府側の意向ですが、国内雇用を生めるような潜水艦というのも要求の一つとされています。潜水艦に限らず、大きな船舶の建造によって生まれる雇用は計り知れません。特に、4000トン級の大型潜水艦ともなれば、実に数千人の技術者が建造に関わります。逆に、作らないとなれば同数の雇用が失われる事になります。

国別比較:日本―そうりゅう型

さて、日本のそうりゅうを見てみましょう。

オーストラリアほどではないにしろ、日本の領海やEEZは広く、それをカバーするためにそうりゅうの作戦行動範囲は十分に広いものとなっています。燃料の搭載量や潜行中も発電できるAIP推進も搭載しており、豪州の需要を十分に満たすものと言えるでしょう。

次に米国製兵器の運用ですが、日本の潜水艦は魚雷やソナーなどの各種装備は基本的には日本製で運用されています。しかし、それらの装備の多くが米国製にある程度は準じたものになっている上、対艦ミサイルなどは米国製のものを利用しています。米国製の装備に換装するのもさほど難しいものではないとされています。ただ、元々想定されていなかった組み合わせや相性の悪さなどで起こる不具合をどれくらい減らせるかが未知数だとして、マイナス要員として見られているようですね。

次に信頼性ですが、これに関してはそうりゅうに最も分があります。というのも、他の二種類は計画中(未完成)でしかない潜水艦だからです。「なんじゃそら」とツッコミたくなりますが、今のところこれほど大型の通常動力型潜水艦を持っているのが日本だけで、運用経験や実績という面でも豊富なのがそうりゅうなのです。

性能に関してもこのクラスでは最高峰なのですが、唯一の欠点とされるのが搭載AIP(非大気依存推進)「スターリング・エンジン」の出力不足です。AIPと言うのは海上に出ないでずっと潜り続けるための推進機構のことですが、スターリング・エンジン方式は燃料効率や静粛性という面では高いメリットがあって、航続距離は長いのですが、速度が5ノット(時速9キロ)しか出ません。電池で航行すれば20(時速37キロ)ノットになるのですが、電池は長時間使い続けられるようなものではないので、適宜AIPで充電しながら移動するか、浮上しなければなりません。

豪州の国内需要という面でも不利な点があります。そうりゅうは日本独自の極秘技術を多数搭載しているため、設計図を渡して「そっちで作って良いよ」とする事はできません。日本国内で作り、ほとんど完成した状態で渡す形になります。これでは、豪州の造船所の雇用が失われる結果になります。

まとめると、
行動半径◯、米国製△、信頼性◎、性能◯、雇用✕

というところでしょう。

さらに詳しい性能については別の記事にて詳しく説明していますので、興味があったら読んでみてください。

国別比較:ドイツ―216型

計画中の潜水艦なので、多分に各所から出ている推測や予想が盛りだくさんなのですが、大まかに説明していきます。

216型は、現在ドイツで運用されている最新型212型をベースにした計画中の4000トン級潜水艦です。

ドイツの領海は狭いので、今まで作ってきた潜水艦は全て比較的小型のものでした。しかし、行動半径の広い潜水艦の需要も比較的増えてきたため、大型艦の建造計画が誕生します。

行動半径は間違いなくオーストラリアの要求を満たす船となるでしょう。水素と酸素を用いる燃料電池は日本のAIPより速度や航続距離に分があり、かなり広い作戦行動範囲になることが予測されます。

米国製兵器の運用ですが、ドイツは古くから潜水艦や水上艦艇を現地向けに改修して輸出していますので、米国製兵器が運用できるように潜水艦を改装するなどお手のものです。そのため、そういうニーズに答えるのであればドイツの潜水艦の方が良いのではないかとされています。

次に信頼性。「完成すれば」高い信頼性を持った潜水艦になるはずですが、そもそも完成するかどうか分からないというのが最も恐ろしいところです。というのも、ドイツに限らず、計画が発表されたけど中止になったり、仕様が大幅に変わったりする事はよくあることなのです。特にドイツ海軍的にはそこまで大量に使わないであろう大型艦なので、仕様が削られて豪州が求める水準にならなくなる可能性もあるので、不安材料がかなり多いです。

性能ですが、Uボートで名を馳せたドイツの潜水艦だけあり、これはおそらく「完成すれば」世界一の潜水艦になるはずです。「燃料電池」を搭載し、高速で静かでありながら、大型で広い作戦半径を持つ最強の通常動力潜水艦。

ドイツは豪州での国内生産を許可しています。「計画中の最新型を何故?」と思うかもしれませんが、これは輸出用にダウングレードした性能限定版です。ですので、豪州に肝心の最新技術が盗まれる事はありません。性能が多少落ちても優秀な潜水艦であることには変わりないので、十分ニーズはあるでしょう。豪州の造船所の雇用も守れます

残念なことに、これは多分に推測が入り交じっています。というか、推測だらけです。それを踏まえてまとめると、
行動半径◯、米国製◯、信頼性✕(計画段階のため)性能◎、雇用◯

豪州としては、完成していてくれれば迷うことなかったのに・・・という所でしょう。

次に、フランスの潜水艦です。

国別比較:フランス―シュフラン級

これも建造中の潜水艦です。とはいえ、計画中でないだけマシと言いたいところですが、実はこれは原子力潜水艦です。

このままでは豪州は運用できませんので、通常動力型に改修して使うことになります。簡単に言いますが、AIP推進とか電池とか考えなければいけない点は山積みです。

おそらく、基本設計はシュフランをベースにした豪州の独自艦となる可能性が高いでしょう。言ってみれば、今まで使っていたコリンズ級までのノウハウにフランス潜水艦のノウハウを組み合わせた新型艦ということです。この前提で性能を考慮してみましょう。

まず、シュフラン級はそうりゅう型より更に大きい5000トン級の潜水艦ですので、燃料や電池は大量に積めるでしょう。AIP無しではかなり行動範囲が狭まりますが、コリンズ級では普通にディーゼル機関で充電し、艦内に排気を貯めこんで時折シュノーケルで海上に排出する手法を取っていたので、潜水艦の運用的に問題ありですが十分なんとかなるはずです。

米国製兵器の運用に関しても、フランスは兵器輸出の経験が豊富ですし、豪州自身も改修を加える事になるので問題なく使えるはずです。

問題は信頼性です。基本設計はフランス製でも、機関部などの主要な装備は豪州の独自開発になります。コリンズ級でトラブル続きだった造船技術を見る限り、信頼性は十分とは言えないでしょう。

性能面でも不安が残ります。AIP無しでは定期的に海上付近に浮上する事になるので、潜水艦としては致命的です。さすがに何とかしてAIP推進を積みこむはずですが、どれほどの性能を達成できるか疑問です。

国内雇用に関しては、十分に雇用創出が出来るはずです。国防という面ではあちこちに不安が残る選択かもしれませんが、造船所で働く技術者達にとっては朗報ですね。

まとめると、
行動半径◯、米国製◯、信頼性△性能△雇用◎

総合評価

「日本―そうりゅう」
 行動半径◯、米国製△、信頼性◎、性能◯、雇用✕

「ドイツ―216型」
 行動半径◯、米国製◯、信頼性✕性能◎、雇用◯

「フランス―シュフラン級改装」
 行動半径◯、米国製◯、信頼性△性能△雇用◎

というような感じになりました。

△とか✕が付いているからと言って、必ずしもそうなるわけではありません。

米国製兵器の運用も注意深く行えば◯になるでしょうし、ドイツの開発計画がはっきりしてくれば信頼性は◯になるでしょう。また、豪州技術者の技術力もフランスの助力を得られば◯になるかもしれません。

見ての通り、性能と信頼性の面では日本のそうりゅうが好成績を残しています。

特に、豪州に輸出するそうりゅうはAIPの代わりにリチウムイオン電池を大量に搭載した型になる可能性が高いと見られているからです。これが現実になれば電気推進による水中速度や航続距離が飛躍的に向上することになり、性能面での不安を払拭して◎にするできることになるでしょう。

ドイツやフランスが「輸出? 欲しいならダウングレードで良ければ作ってあげるよ?」程度の軽いノリなのに対して、日本は「ぜひ作らせて下さい!ダウングレード?とんでもない、性能向上版を輸出します!」と本気で売りにかかっています。

少し大げさですが、普通武器輸出の場合には技術を盗まれないように性能をいくつか落として輸出するものなのです。それをわざわざ日本でもまだ使っていない性能向上型を提供するなんて太っ腹ですよね。

専門家の中には非常識という人もいますが、性能向上型の試験にもなるしいいんじゃないという話もあります。日本の軍備は対中、対露、対朝を軸に構成されているので大丈夫だろうという判断なのでしょうか。とはいえ、これが上手くいけば日本の兵器輸出に弾みがつきますし、日豪間の軍事的な連携も緊密なものになります。

日米豪はどれも強大な海軍を有しているため、米国としても日本と豪州の連携が強まることに期待しているようです。

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