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リチウムイオンバッテリーにまつわるよくある誤解とその原因 ー電池のしくみ(6)

前回、リチウムイオンバッテリーを長持ちさせる方法とその理由についてご説明しました。

それを読むと、「自分が聞いた話と違う」ということもあるかもしれません。では、どちらかが間違っているのかというと、そうでもないケースが実はあります。

どちらも正しいのだけれども、それが「正しい」とされる条件が違うのです。また、言葉の本当の意味が知られていない事で広がっている誤解というのも数多くあります。

そんなリチウムイオンバッテリーにまつわる誤解について紐解いて行きます。

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リチウムイオンバッテリーは使いきって使った方が良い?

リチウムイオンバッテリーを長持ちさせる方法とその理由では、これは「良くない事」としています。基本的には良くないことなのですが、「使いきって使ったほうが良い」と言っている人もいます。

これはどうしてでしょう?

一つには、ニッケル水素やニカド電池時代のメモリー効果を心配して使い切りを推奨していると言う場合もあります。実際、リチウムイオンバッテリーでも、陽極の素材によっては多少のメモリー効果が確認されており、一度使いきって容量を元に戻すリフレッシュ充電が必要になることもあります。

しかし、それは本当にごく僅かなものですし、どんなに多くても月に一度10%前後まで落とせばリフレッシュ充電の効果が十分あるとされています。そのため、毎回毎回リチウムイオンバッテリーを使い切る必要はありません。

使いきっても劣化しないと言う話もありますが、実は「使いきった」として電源が切れる制御はバッテリー側の制御装置に依存する部分があり、端末毎に「使いきる」電圧にかなりバラつきがあるのです。

早めに電源を止めてしまうバッテリーは使いきっても長持ちしますが、電池の容量を大きく見せるために電源を落とすタイミングを遅めにしているバッテリーは使い切ると劣化が進みます。

使いきったからと言って必ず劣化するとは限りませんが、使い切りにリスクがあるのは明らかです。

継ぎ足し充電は劣化する?

継ぎ足し充電は劣化するから、使いきった方が良いと言う話を耳にします。

使い切りが推奨される理由の一つとなっていますが、継ぎ足し充電で発生するメモリー効果は無視できるほどに僅かです。毎回使い切る必要はありません。

また、充電可能回数を根拠に、継ぎ足し充電は充電回数を減らすとして使い切りを推奨する場合もありますが、これも充電可能回数に関する誤解があるので正確ではありません

むしろ、継ぎ足し充電がガンガン出来るというのがリチウムイオンバッテリーの売りであり、敢えてそのメリットを消すような使い方をする必要はないでしょう。

充電可能回数って何?

充電可能回数と言うのは、その回数充電したら使えなくなるというものではありません。

メーカー側の耐久試験で、容量100%から放電して0%にし、それを再び充電して100%する作業を「充電一回」とカウントし、それを何度も繰り返し、電池が消耗して最大容量が一定レベル(50%前後)まで劣化したタイミングまでを「充電可能回数」と定義しているだけなのです。

それ以降は使えなくなるというわけではありませんし、充放電の耐久試験は実際の使用時より高い負荷をかけて行われるので、普通に使っているだけなら可能回数以上に使っても大きく劣化することはありません。

さらに、バッテリーの劣化は充放電の「回数」ではなく、充放電の「時間」「方法」「環境」に大きく依存します。充放電の回数を減らすために、使い切ったりする必要は殆どありません。

(次ページ: 充電しっぱなしはアリ?ナシ?)

充電しっぱなしはナシ?

充電しっぱなしで使うのは良くないと言われることがありますが、充電しっぱなしで使うこと自体に問題はありません

問題があるのは、充電しながら使って温度が上がってしまうことなのです。

充電しながら使わないに越したことは無いのですが、温度が上昇し過ぎない程度に使ったり、冷却装置を併用するか風通しの良い涼しい環境で使う分には問題ありません。

また、放電より充電の方が早いため、使いながら充電するとそのうち満充電になります。満充電の状態で温度が上がると劣化が早まるため、そう言う意味でも充電しながらの使用は控えた方が良いと言われるのですね。

温度にさえ気をつけていれば、充電しながら使っても全く問題はありません。極端な話、冷却装置でも付けてバッテリーの温度を低く保っていれば満充電のまま使っても長持ちします。

使わない時は満充電にする?しない?

使わない時はバッテリーに沢山電気を入れて電池がなくならないようにしたいところですが、バッテリーを長期保存する場合には、温度と容量は低めが鉄則です。

容量が多ければ多いほど温度の影響を強く受けますし、温度が高ければ高いほど劣化が早まります。そのため、少なすぎず多すぎずの容量にして、涼しい環境でバッテリーを保管しましょう。

バッテリーは放っておくと自然に放電して容量が減りますが、自然放電のペースを把握できているのであれば、30%前後の容量が適当です。普通のスマホのバッテリーであれば、1年放置しても容量が0になることはありません。ただ、それで自然放電が進み過ぎると過放電のリスクがありますので、よくわからないのであれば、半分以上は入れておきましょう。

仮に満充電状態で温度を気にせず放置すると、一年後には環境次第で劣化が加速し最大容量が3割程度減ってしまうこともあるようです。つまり、満充電で放置すると気をつけて使っている人より劣化するということになります。

100%って本当は満充電じゃないの?

100%になっても実際には満充電ではなく、さらに充電し続けられていることをご存知でしたか?

また、0%で電源が切れても電力が残っている事を知っていましたか?

100%が99%になるまでに少し時間がかかるのは、実は103%くらいまで充電されていたからです。

そもそも、バッテリーメーターの表示は電圧から算出しただけの非常にアバウトなものであり、温度によって大きく変動します。また、バッテリーの制御装置によって使いきった際の電源のオンオフが行われるため、温度を変えれば電圧が復活してまた動きます。

電池を使いきってもう一度電源を入れて見ると動くことがあるのは、電源が切れたことで温度が下がり、電圧が若干復活したからなのです。非常時には冷やして使えば、意外に長時間使えたりします。

ただし、冷やした状態で使用し、再び温度が上がると予期せぬ電圧降下が起こることになるので、あまり冷やしすぎると劣化するので気をつけましょう。

冷やしすぎると結露する?しない?

電池は冷やして保存すると良いとされていますが、冷蔵庫などに入れると出した時に結露して良くないと言われています。

これは正しいですが、バッテリー単体で冷やしたり、制御装置の組み込まれていないラジコン向け電池やタオルなどで結露対策をして保管すればそれほど問題にはなりません。結露というのは、湿気が入り込む事で起こりますが、完全に密閉されているバッテリーの内部で起こることは非常に稀です。

とは言え、スマホやパソコン、携帯ゲーム機ごと冷蔵庫に入れて保管するのはやめて下さい。

こう言った電子機器では、放熱のために空気が出入りする隙間が設けられていることがあり、そこから湿気が入り込み、温度変化で結露することは十分にありえます。

バッテリーの回路以前に、端末の電子回路が結露するので危険です。

まとめ

リチウムイオンバッテリーに関する誤解は解けたでしょうか?

これらは全てリチウムイオンバッテリーに限ります。また、陰極のリチウムイオンを貯蔵する部材や陽極の素材に新しい物質が使われていたりすると、この話も少し変わってくるかもしれません。

しかし、これらの多くの誤解は、「通説が広まった理由」を知らずに通説だけを盲目的に信じてしまったことによって起きています。

何故そんな通説が広まっているのかをよく理解していれば、その通説が真実かどうかは自ずと分かるようになるはずですね。

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