ロウソクの働きを不思議に思ったことはありませんか?
例えば、固体の蝋に火を付けようとしても木や紙のように全体が燃え上がる事はありません。さらに、融けだして液体になった蝋に火をつけても液体の蝋が油のように燃え上がる事はないのです。しかし、芯の部分に火を付けると、驚くほど綺麗に安定した炎を作りますよね?
ロウソクは燃えるはずなのに、どうして油や木材のように一気に燃えないのでしょうか?
そこには、炎のしくみを体現したろうそくならでは独特の機能がありました。
ろうそくの本体や溶けた蝋に火をつけても燃えない理由
炎と言うのは、気体や微粒子が空中に舞い上がりながら燃焼して光を放つ現象です。
固体の燃料も液体の燃料も気体の燃料も火をつけると殆ど同様の原理で炎を作りますが、これはロウソクでも同じです。炎と言うのは気化・分離した燃料が無くては成り立ちません。ということは、ろうそくの炎も気化・分離した燃料でなければならないということです。
しかし、木材や料理に使う固形燃料とろうそくは何が違うのでしょう?
乾いた木材や固形燃料が火を付けると勢いよく燃え出すのは、木材が熱で分離しやすい材料であり、固形燃料が気化しやすい材料であるという点に関係しています。つまり、固体の状態でも簡単に微粒子化して炎作る性質があるということです。
一方、その固形燃料とろうそくの違いを考えるなら、氷を思い起こしてもらうと分かりやすいかもしれません。氷に火を近づければ溶けて水になり、水に火を近づければいずれ蒸発して水蒸気になります。これがロウソクなら、気体になった蝋に火がついて炎を生みます。
しかし、水が蒸気になるのに時間がかかるように、液体の蝋が気化するにはかなりのエネルギーが必要になります。長い時間高温の炎で炙り続けていればいずれ、液体の蝋であっても気化(300度以上)して発火します。それなら、ロウソクの芯をある程度短くして火を付ければ、溶けた蝋と炎の距離が近くなり、熱せられて発火するような気もしますが、それだけでは上手く行きません。
なぜなら、ロウソクの芯に火をつけるとロウソクの炎で熱された空気で上昇気流が生まれるからです。つまり、ロウソクの炎の下から上へ気流が生まれることになり、炎の下の蝋は冷たい新しい空気で効率よく冷やされます。むしろ、ロウソクの炎のエネルギーが溶けた蝋に奪われ、ロウソクの芯が短すぎると流れてきた液体の蝋で炎は水を掛けたように消えてしまいます。
ろうそくの芯を使わずに火を付けたければ、コンロに溶かして300度以上になってから火をつける他ありません。つまり、かなり用意周到に火を付けないとロウソク自体を燃やす事は出来ないということです。こうして考えてみると、ロウソクというのは良く出来ています。
ろうそくが燃えるしくみ
ろうそくのしくみは中学校でも習うかもしれませんが、これを非常に細かく見て行くとかなり面白い事がわかります。
- ろうそくの芯に火をつける
- 芯に使われている繊維が熱で分離し微粒子となって飛散
- 飛散した繊維の微粒子が酸素と燃焼して炎を作る
- 炎の熱・光が空気を伝わって拡散
- ろうそくの蝋が熱で溶融(60℃前後)
- 蝋は熱源から近い順(放射状)に溶ける
- 中央(芯)付近が一番大量に溶ける
- 毛細管現象(表面張力の一種)で芯に液体の蝋が吸われる
- 吸われた蝋が毛細管現象で上昇、燃えている繊維に接近する
- 芯に吸われた蝋が高温(300℃以上)になり気化して拡散
- 高温状態の気化した蝋が酸素と燃焼して炎となる
- 4番へ(炎の熱が拡散)以下、繰り返し
これがものすごい速度で発生し、ろうそくの炎を作っています。
また、毛細管現象と言うのは、液体がもつ表面張力(分子間力)の作用で繊維のような毛のように細い管を伝って登っていく現象のことです。服を濡らすと水が一気に広がっていったり、タオルの端を水に濡らすと重力に逆らって水が登っていくのも全て毛細管現象によるものです。管と言ってもストローのような周囲を囲んだ管である必要はなく、細い糸と糸の隙間みたいなものがあれば十分発生します。
ろうそくの中央部が良く溶けるのは、炎に近いというだけではなく外側が上昇気流によって流れる新鮮な空気に冷やされているからと言うのも関係しています。外側を冷やし中央部を温めることで効率よく芯に蝋を送り込んでいるのですね。
このろうそくの原理のポイントは4-11番までの現象が繰り返されるという点にあります。
芯の繊維はもう燃えないのかというと、毛細管現象で登ってきた蝋が繊維を覆ってしまう上、気化した蝋の方が燃えやすいので、芯の繊維は蝋に燃えるための熱を奪われるので燃えません。しかし、蝋は下から供給されるので芯の上の方は蝋が足りず、芯が長くなればなるほど蝋不足で芯の繊維が代わりに燃えます。そうやって芯がドンドン短くなります。ちなみに、蝋が尽きれば芯が燃えて燃え尽きるのです。
ろうそくの最後に火が大きくなると言われますがその理由は単純明快です。最後に燃えているのは芯の繊維であり、蝋と繊維では燃え方(炎の質)が違うからです。これはつまり、使われている芯によって燃え尽き方が異なるということも意味していて、燃え上がるどころか逆に緩やかに燃え尽きるケースもあります。実際には、燃え尽きる際の炎が強いと危険なので、最近のろうそくで緩やかに消えるろうそくの方が多いかもしれません。
(次ページ:バースデーキャンドルが細い理由、宇宙の炎)
バースデーキャンドルが細い理由
バースデーキャンドルなどは先端が細くなったりして、蝋を溜め込まないようになっているケースが多いです。
当然、蝋を溜め込めないとろうそくが消えるのはあっという間ですし、垂れ落ちた蝋は無駄になります。しかし、これには非常に重要な意味がありました。
ろうそくを吹き消す場面を想像してみてください。もし、ろうそくの炎を吹き消した際にろうそくの真ん中に溶けた蝋が溜まっていたらどうなるでしょう? また、ケーキを運んでいる時に、傾けたり歩いた振動で溶けた蝋が激しく動いてしまったらどうなるでしょう?
高温の蝋が飛び散ったり、ケーキに落ちてしまうと極めて危険です。
しかし、先端が細いろうそくであれば蝋はろうそくの側面を垂れ、冷えてすぐに固まります。吹き消した際に溶けた蝋が飛び散ることもなく、傾けてもケーキに蝋が落ちる事もありません。
非効率に見えるケーキキャンドルにも、実は意味があったのですね。
宇宙におけるろうそくの炎
(地上の炎’(左)と宇宙の炎(右)‐ZME)
ろうそくは縦に長いと思われがちですが、これは重力があるからです。
例えるなら、水の中の空気が泡となって登っていくのは空気が水より軽いからですが、熱されて膨張した空気は冷たい空気より軽いのです。厳密には密度の違いなので軽い・重いの話ではないのですが、体積あたりの質量には差が出ます。
つまり、炎を作っている空気は軽いので重力下では上昇していき、炎は縦に長くなります。しかし、重力が無かった場合、熱い空気が上昇することはないので炎の形が細長くなることはありません。無重力空間では、熱で膨張した空気は均等に膨張し、上の写真のように円形になります。
また、気流が生まれないので酸素供給に偏りが出ることも無く、色も酸素の濃度に合わせて均一になります。
私達が普段から見ているろうそくと言うのは、あくまで重力下だけの独特な炎だったのですね。
気化した蝋は炎が消えても存在する
ろうそくの炎が気化した蝋によって作られているのはわかりましたが、炎が消えたら気化も止まっているのでしょうか?
ろうそくに水を掛けて消したのなら別ですが、炎に蓋を被せて消した場合、実は蝋の気化は止まっていません。
炎に蓋を被せると炎が消えるのは、ろうそくから熱を奪った(水で冷やした)のではなく、酸素を奪った(供給を止めた)からです。酸素を奪っただけでは、熱はまだろうそくの芯や周辺に残ったままです。すると、芯の熱が空気で冷やされるまではろうそくの蝋は気化し続けている事になります。
気化したけど燃えない蝋は、熱で生まれた気流にのって空高く登っています。では、この気化している蝋に火をつけたら再び燃えるでしょうか?
以下、炎が気化した蝋に乗って移動する実験の動画です。
凄いですね。気化した蝋は上昇し続けているので、ろうそくの遥か上に炎を持って行くと気化した蝋に引火して火が付きます。気化した蝋はろうそくの芯から伸びているので、気化した蝋を炎が伝って芯に再び着火するのですね。
手際よくやっているから良いですが、この気化した蝋が風で左右に広がっていると炎がどこに行くか分かりません。また、天井が低いと気化した蝋が天井に辿り着き、着火時に炎が天井に達することもあります。この実験をやる際には、風が無く、天井が高い燃えにくい場所でやりましょう。
まとめ
ろうそく一つとっても非常に奥深い世界があることが分かりました。しかし、この炎の世界はロウソクだけに言える事ではありません。
宇宙の炎はロウソク以外にも言える事であり、ガスコンロで料理をするのも無重力では大変です。炎が上に行かずに均等に拡散するので、コンロの上にフライパンを乗せてもなかなか温まりません。また、火を消しても気化した可燃物が空気中に存在するケースは多く、バックドラフトや火災の原因になります。
ろうそくを通して炎のしくみや性質を学び、炎の理解を深めることに繋げていきたいですね。