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レーダーに使われるフェイズドアレイアンテナとパラボラアンテナは何がどう違うのか? – ステルス(6)

前回、レーダーの仕組みについて簡単に解説しました。概要だけではありますが、レーダーがどういう原理で動いているのか分かったはずです。ですが、実はレーダー波を目標に向かって飛ばすというのはなかなか難しい話で、一つのレーダーで距離・方位・角度(高度)の3次元情報がはっきりと分かるようになったのはつい最近のことです。

電波を飛ばす機械と言うとアンテナを連想することでしょう。レーダー波を飛ばすにも当然アンテナが使われていますが、このアンテナの進歩がレーダーの進歩に繋がります。イージス艦などに搭載されるようになって注目されたのが「フェイズドアレイアンテナ」で、それまでは「パラボラアンテナ」が使われていました。パラボラアンテナは今でもよく使われているアンテナですが、この「パラボラアンテナ」と新しい「フェイズドアレイアンテナ」は何が違うのでしょう?

対空戦闘の核となるレーダー


(タイコンデロガ級ヴェラ・ガルフ_USN)

航空機を発見するためにはレーダーを活用するのが最も有効な方法です。そのため、対空戦闘を想定されたあらゆる大型兵器にレーダーが搭載されていますが、その全てレーダーが目標の正確な位置を把握できるようになっているわけではありません。

パラボラアンテナを採用していた従来のレーダーには、大きく分けて「広い範囲で大雑把な位置関係を把握するためのもの」と「狭い範囲で正確な位置を把握するためのもの」の二つがありました。

さらに言うなら、目標に対する「距離」「方位」「高度」の全てを把握しようとするとそれ以外の目標が見つけられなくなり、逆に沢山の目標を見つけようとすると、高度が分からなくなってしまうという問題があったのです。

実を言うと、パラボラアンテナのレーダーの多くが「二次元レーダー」と呼ばれ、必要な3つの情報の内の二つしか把握できません。それでも距離と方位が分かれば十分ですし、航空機でなくて水上艦艇を見つけるだけなら問題なかったのです。また、高度の情報が必要なときには、限定された方位しか把握できないものの高度が詳しく分かるレーダーを使って把握していました。

その状況を大きく変えたのが、フェイズドアレイアンテナを搭載した「フェイズドアレイレーダー」です。

フェイズドアレイレーダーは「三次元レーダー」と呼ばれ、「距離」「方位」「高度」の全てを一度に把握できます。さらに、広い範囲で沢山の目標を見つけることが出来るという従来のレーダーを圧倒的に凌駕する性能を誇っていました。まさに次世代のレーダーです。

では、何がこれほど大きな違いを産んだのでしょうか?

パラボラアンテナの原理


(パラボラアンテナの電波_radartutorial.eu

「従来のレーダー」を指すものがパラボラ方式だけというわけではありませんが、パラボラアンテナは登場した当初はかなり革新的な技術であり、ある意味アンテナ界を席巻したアンテナでした。今でもあらゆる領域でパラボラアンテナは使われており、これからも使われ続けることでしょう。

パラボラアンテナの最大の特徴は、電波が強い指向性を持って飛んで行くという点にあります。

車やラジオのアンテナのような棒状のアンテナは広い範囲に電波が拡散してしまうので、電波のエネルギーが使用に分散してしまって遠くまで届きません。また、反射波も広い範囲から返ってくるので正確な位置の特定も難しくなります。

しかし、パラボラアンテナでは上の図の様に「F」の位置から皿状の反射期に向かって電波を発射するだけで綺麗に特定の方向(A)に向かって電波が飛んで行く様になっています。

電波というのは多かれ少なかれ拡散してしまうものですが、このパラボラアンテナではその照射範囲をかなり狭めることが出来るため、アンテナとして大きな成功を収めました。

不要な方向に電波が飛んでいかなければ少ないエネルギーで遠くに電波を飛ばせますし、反射波が帰ってきた時にどこから飛んできたのかはっきりします。さらに、図の「A」からきた反射波も皿状の反射器に当たって「F」に収束するため、多少反射波が弱くても検知できるというのも強みです。

このパラボラアンテナは遠距離通信にも使われており、東京タワーやスカイツリーにも沢山見つけられます。

ただ、反射器の皿が向いている方向にしか電波が飛んでいかないため、広範囲を策敵するためにはアンテナをくるくる回す必要があります。その上、くるくる回す際には角度が固定されているので高度の把握には向きません。

つまり、回るアンテナで方位と距離を把握し、その後で上下に動いて角度算出が可能な指向性の強い別のアンテナで高度を把握することになります。正直かなり面倒ですね。

また、回りながら位置を把握するということは、一度見つけた目標を次に見つけられるのは360度回転した後になるということ。目標の動きを追跡し続けるには向きません。そのため、目標の正確な位置を把握し続けるためには、目標の方向に対してピタリとレーダー波を照射し続ける事ができる別のレーダーを使うことになります。

この方式でも目標が少なければ良いのですが、敵が多数来た場合には目標を追跡してくれるレーダーの数が足りなくなって目標を見落としてしまいます。

このように、パラボラ方式などの従来の二次元レーダーでは同時に多数の目標を追跡し続けるという能力が欠けていました。加えて、レーダーは敵が来る可能性のある間は常に動かし続けるものです。可動部のあるレーダーは壊れやすいという欠点もあります。

実は、フェイズドアレイレーダーはそれらの欠点を全て克服しているのです。

(次ページ: フェイズドアレイアンテナの原理)

フェイズドアレイアンテナの原理

 

 


(フェイズドアレイアンテナの電波_radartutorial.eu

フェイズドアレイアンテナは言ってみれば、小さなアンテナが沢山ついたアンテナです。

そして、この小さなアンテナは一つ一つ同じ周波数の電波を出しますが、そのタイミングが微妙に変えられるようになっています。微妙に変えると言っても、好き勝手なタイミングで電波を出すわけではありません。

それこそ、コンマ数秒のズレもないほど完璧なタイミングで「ずらしたり」「揃えたり」しながら電波を出しています。すると、不思議な事に上の図のように電波の波が綺麗に重なって任意の方向に飛んで行く様になります。

現象としては光が水面やガラス面で屈折(方向が変わる)するのに似ています。水やガラスで光が屈折するのは、水やガラスの内部では光の進む速度が変わり、空気中に比べて光の進む「タイミングがずれる」からです。

ガラスや水なら良いのですが、これを小さなアンテナでやるのです。一つや二つずれた程度では支障ありませんが、その他は本当に完璧に調整されたものでなくてはいけません。電子制御技術が進歩したおかげで可能になった技術です。

これの何が凄いのかというと、アンテナの向きを変えずに瞬時に電波の向きを変えることが出来るという点です。

なんてこと無い様に思えますが、一秒間に何千回というレーダー照射が可能であるということを考えると、一秒間に何千という方向に向けてレーダー波を照射できるということになります。つまり、事実上フェイズドアレイアンテナが向いている上下左右の方向全てに対してレーダー波の照射が可能です。

そして、目標が多数あったとしてもレーダーを照射する何千回の内の何回かを目標のいる特定の方向に向けて電波を絞って飛ばすだけで、目標の動きを追跡することが可能です。

つまり、広範囲を一瞬で策敵し、多数の目標を同時に追尾することができるようになるということです。

ただ、このフェイズドアレイアンテナは小さなアンテナの集合体なので非常に重く、素早く動かす事は出来ません。索敵範囲は上下左右45°~60°ずつ(正面90°~120°の範囲)なので、効果的に運用するためには4基、どんなに少なくとも3基のフェイズドアレイレーダーを別々の方角に向けて配置する必要があります。

実際、イージス艦では全部で4基のフェイズドアレイレーダーが配置されていますね。

これでも直上に若干の死角ができますが、可動式のレーダーでカバーすることはできます。

小さなアンテナを多数搭載することでより高性能になると聞くと不思議ですが、高度な電子制御技術と大量の情報を一度に処理する電算能力が必須であり、非常に高価です。イージス艦のみならず「フェイズドアレイレーダー」を本格的に運用している国は限られています。

圧倒的な対空戦闘能力

イージス艦が最強と言われるゆえんは、フェイズドアレイレーダーを駆使した圧倒的な対空戦闘能力にあります。

この能力は戦闘機だけではなくミサイルにも有効です。飛来する多数のミサイルを同時に撃墜することで敵の攻撃を防ぎつつ、ミサイルを発射した相手を攻撃する事ができます。

残念ながらレーダーは水中深くには届かないので潜水艦や魚雷に対しては普通の艦船と変わりませんが、空に関してはイージス艦の右に出るものはいないでしょう。

しかし、それは全てレーダーの性能があってこそです。このレーダーの性能が十分に生かせないステルス機相手にどれほど有効か分かりません。

現代の戦闘はレーダーを制する者が勝つということなのかもしれませんね。

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