レーダーの仕組みについて初心者にも分かりやすく解説 – ステルス(5)

ステルス技術について説明をしていると、ところどころにレーダーの話が出てきます。レーダーの仕組みについて詳しく理解していなくても、ステルス技術がどういうものなのか理解は出来ますが、考えてみるとそもそもレーダーというのはどういう仕組みでモノを見つけているのか不思議に思うこともあるでしょう。

電波を飛ばしてモノを見つける。やまびこのように返ってくる電波の反射波を検知してモノの位置を把握する。色々な説明の仕方がありますが、本記事ではそんなレーダーの仕組みについて簡単にご説明していきましょう。軍事技術についてよく知らない方向けなので、詳しい方にとっては退屈な説明になるかもしれません。

電波を飛ばすのは一瞬だけ

Radar screen

波はモノにあたると反射して返ってくる性質があります。これは音波でも、海の波でも、電波でも同じです。

レーダーでは、この電波が反射する性質を利用して物体の有無を検知していますが、実はコウモリやクジラが電波ではなく音を使って同じ事をやっています。音の場合はエコーロケーション(反響定位)と呼び、潜水艦のソナーなどにも応用されていますね。

言ってみればやまびこの反響の仕方や返ってくる時間から周囲の状況を探るようなものなのですが、『やまびこを聞く』には音を出す器官と音を受け取る器官が必要です。人間で言えば口と耳ですが、当然コウモリやクジラにもこれに類する器官が備わっています。

これはレーダーでも同じです。レーダーには電波を飛ばす機能と受け取る機能があり、これらを巧みに使ってモノの位置を把握しています。

しかし、飛ばす電波はどんな波でも良いわけではありません。やまびこの音を聞くのに『やっほーやっほーやっほー』といつまでも叫び続けていたら、自分の声とやまびこの音が混ざって何がなんだかわからなくなりますよね。電波も音も飛ばすのは一度だけで良いのです。

現在使われているレーダーは全てパルスレーダーと呼ばれ、電波を一瞬だけ飛ばして(発信)後は返ってくるのは待つ(受信)だけというシステムになっています。いわば、やまびこで一度だけ『やっほー』と叫んで後は静かに反響してくる音を聞くようなものです。

一瞬だけしか電波を飛ばさないと聞くと違和感を持つかもしれません。なんとなく、レーダーはずっと電波を飛ばしている様に思えるからです。そして、その感覚も別に間違っているわけではありません。

音と違って電波は地球上ではほぼ光速で進みます。モノに当たって反射波が届く場合、反射波は飛ばした直後に返ってきています。加えて、より詳しい情報を得るために何度も電波を飛ばしているため、人の感覚からすればずっと電波を飛ばしているようにしか感じられません。

レーダーというのは蛍光灯で夜道を照らすのと少し似ています。

交流が流れる蛍光灯は実は明滅しているですが、それがあまりにも早いので人にはずっと光っているように見えます。レーダーも同じように、電波の発信と受信を交互に行っているのですが、人からするとずっと発信しているように見えるのです。

レーダー波の発信から反射波の受信までの流れ

レーダーが発信と受信を交互に繰り返しながら索敵を行っている事はわかりました。では、レーダー波どのようにモノの位置を把握しているのでしょうか?

下の図を見てください。
レーダー波が発信され、目標に届き、反射波が受信されるまでのプロセスです。

1601104
(パルスレーダーの概念_ aerospaceweb.org)

上から順に、

  1. レーダー波の発信
  2. レーダー波の拡散
  3. 反射波の生成
  4. 反射波の拡散
  5. 反射波の受信

となっていて、このプロセスが一秒間に何千回何百回と繰り返され、レーダーは広範囲に渡って精度の高い情報を収集します。

上の図では、黒線がレーダー波、点線が反射波となっていますが、3番目と5番目の図で黒線や点線が二つに別れていますね。これは電波の一部は目標やアンテナを外れて広範囲に広がっていってしまうことを意味しています。

つまり、目標以外の物体が目標近くにあると同じように反射波が返ってきてしまいますし、レーダー機器の近くに別のレーダー機器があると自分以外のレーダーが放った反射波を受信してしまう可能性があるということです。当然、レーダーを扱う際にはこれらの特性も考慮して運用しなければなりません。

レーダーの性能が低いとまとまって飛んでいる飛行物体を一つの物体として認識しますが、高性能なレーダーであればレーダー波の範囲を小さく絞り込むことで他の物体にレーダー波が当たらないようにし、より詳細で確実な情報を得られるようになっています。

また、複数のレーダーを同時に運用にする場合にはレーダーの周波数を微妙にずらすなどして、自分が発信したレーダー波と他のレーダーが発信したレーダー波の区別がつくようにしています。

やっていることは電波を飛ばして返ってくるのを待つだけですが、実際に運用するとなると様々な課題が出てくるものなのですね。

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