旧式化したF4に置き替えられる形で自衛隊に配備されるF35。米国を始め多数の国々が参加した開発プロジェクトは様々な問題を抱えつつ長期化し、その開発費が上乗せされたことで機体の費用はかなり高額になりました。
また、様々な機種を1種類で代替できると謳われている一方で、戦闘機として中途半端な能力しかないと批判されるケースも多々あります。本シリーズではF35について詳しく解説していきますが、まずはF35が開発された背景と獲得した能力について簡単に説明していきます。
ステルス戦闘機って?
まず、基本的なことから始めましょう。知っている方は読み飛ばしても大丈夫です。
F35は最新鋭のステルス戦闘機です。ステルスとは「見つかりにくい」こと、隠密性のことを意味します。潜水艦などもステルス兵器に含まれますが、ステルス戦闘機と言う場合は「レーダー」に見つかりにくい戦闘機のこと。目で見れば見えますし、音や熱も出しているので近づけば簡単に見つけられます。
単にレーダーに見つかりにくいだけのステルス戦闘機がなぜそれほど重要なのでしょうか。戦闘機は、始めの頃は翼が二枚ある複葉機が主流で、それが進歩して翼が一枚で機動性の高い単葉機が生まれました。この頃から、目で見えにくいように空や海、森や砂漠などの色に合わせた迷彩塗装がステルス性を高める工夫として行われてきました。形は違えど、ステルス性というのはかなり昔から注目されていたのです。
そして、ジェットエンジンが開発されると音よりも早く飛ぶジェット機が登場し、レーダーとミサイルが戦闘機に搭載されるようになった結果、互いに見えない位置からミサイルを打ち合う空戦が行われるようになります。この目で見えない敵を見つける技術が「レーダー」だったわけですが、レーダーには光に似た特性があり、電波を上手く反射させたり、吸収したりすることで、見つかりにくくなることが判明しました。
こうしてレーダーの特性を上手く利用してレーダーから隠れるステルス戦闘機が登場したわけです。ちなみに、ステルス技術については別の記事でさらに詳しく解説していますのでこの辺にしておきましょう。
なんでもできるステルス戦闘機が欲しい
飛行機は音よりも早く、雲よりも早く飛べます。目では見えないほど遠くから、音が聞こえるよりも早く、目的の場所へ移動できるのです。そんな飛行機を見つけるためには、光と同じ速度で、光よりも遠くまで届くレーダーが必要ですが、ステルス戦闘機をレーダーで発見することは困難です。
レーダーに見つからなければ、敵の戦闘機も、軍艦も、戦車も、基地も簡単に破壊できます。ステルス技術が登場したお陰で優れたステルス戦闘機を沢山持っていた側が勝つ時代が到来したわけですが、ステルス戦闘機の開発は従来の戦闘機の開発に比べて金がかかり、何種類も開発するのは不可能でした。
世界で初めて実用的なステルス機を開発したアメリカですら、F35を除くとF117・B2・F22の4種類しか作っていませんし、最近まではアメリカ以外の国で実用的なステルス機を作った国は存在しませんでした。
「別に1機あれば良いじゃん」と言いたくなりますが、戦闘機と一口に言っても任務は様々です。空戦・爆撃・偵察・電子戦(妨害電波などを使った戦い)など複数の任務があり、状況に応じて使い分ける必要があります。特に「空戦」と「爆撃(地上攻撃)」は全く別の特性を持っており、分けて考える必要があります。
空戦では空の敵を発見する「対空索敵能力」とミサイル攻撃を回避し敵の背後に回る「機動性」が要求されますが、爆撃では地上の敵を発見する「対地索敵能力」と多数の爆弾を積む「積載能力」が要求されます。前者を重視したものは「(対空)戦闘機」、後者を重視したものは「攻撃機」や「戦闘爆撃機」、どっちもできるものは「マルチロール機(汎用機)」と呼ばれます。
米国は「対空戦闘機」としてF22を開発したわけですが、あまりにも高価になったので数が作れませんでした。対空戦闘機の数が足りない、その上で地上攻撃もできる戦闘機を作る必要があります。そこで、マルチロール機としてステルス能力を持ったF35を開発することになったのです。
どこでも使えるステルス戦闘機が欲しい
戦闘機は任務で種類が分かれるだけではなく、運用する軍隊・場所の違いでも種類が増えます。具体的には、飛行場だけで使うもの、大型空母で使うもの、揚陸艦や軽空母で使うものの三種類です。
飛行場で使う場合には離着陸に数百メートル以上の距離を取れますが、空母ではそうは行きません。大型空母で使う場合には数十メートルという短い距離で離着陸する能力が必要です。この能力を持った戦闘機は「艦載機」と呼ばれます。これには大きな翼と着艦装置が必要で、飛行場向けに作った戦闘機をそのまま使うわけにはいきません。
更に厄介なのが揚陸艦や軽空母で使うケースです。大型空母には「カタパルト」と呼ばれる加速装置や「アレスティング・ワイヤー」と呼ばれる着艦装置が備わっていますが、揚陸艦や軽空母には殆ど備わっていません。つまり、こうした空母で使うには特殊な離陸能力と着陸能力が必要になります。
有名なものが垂直離着陸のできる戦闘機「ハリアー」です。文字通り、滑走路を使わず垂直に離陸し、垂直に着陸できる能力(VTOL: Vertical Take-Off and Landing)を持つ戦闘機です。極端な話、空母を使う必要すらありません。
ただ、燃料を満載して武器を積むと重くなり、多くの場合は垂直離陸が難しくなるため、通常は短い距離で離陸して燃料と武器を消費して着陸する時だけ垂直に着陸する(STOVL: Short Take-Off and Vertical Landing)運用方法が取られます。大量に武器を積みすぎて使わずに返ってきた場合、着陸(着艦)前に武器を捨てることもあるので、気をつけて運用しなければなりません。
ハリアーは優秀な戦闘機でしたが、ステルス性もなく機動力も低いのが欠点でした。そこで、F35に全てやらせてしまうと都合が良かったのです。F35は汎用性の高いマルチロール機であるだけではなく、飛行場(A型)・空母(C型)・揚陸艦(B型)で使う3つのタイプが作られることになります。
(次ページ:ハイテク時代にステルスだけじゃ物足りない!)
ハイテク時代にステルスだけじゃ物足りない!
あらゆる任務をこなし、あらゆる場所で使える万能ステルス戦闘機を作ろう。これだけでも開発側からすればキレたくなる要求です。しかし、F35に要求されたのはそれだけではありませんでした。
ビジネスの世界ではコンピューターとインターネットの発達で情報化が叫ばれており、どこもかしこもクラウド化やネットワーク化で情報共有が当たり前です。ゲーム世界ではVRまで登場しており、目の前にありもしない世界が広がります。そして、ビジネス世界やゲーム世界できることなら戦闘機にもできるでしょう。
つまり、万能戦闘機をネットワークで繋いであらゆる情報を共有し、機体の四方にセンサーを載せて見えない場所も見えるようにするということです。F35はそれをやってのけました。仲間の情報を瞬時に共有し、ヘルメットに背後や真下の映像を投影したのです。
まるでゲームの世界ですが、ステルス戦闘機は目で見えない距離の敵と戦うように作られているため、センサーから送られてくる間接的な情報を見ながら、本当にゲームのような感覚で戦うことになります。前線で戦っていることには変わりないのですが、かなり雰囲気は違うでしょう。
さらに、イージス艦のものより優れたフェイズドアレイレーダーを持つことに加え、電子戦能力を持つ至れり尽くせりの能力を持つため、上述の「偵察」と「電子戦」までできてしまいます。
まさに至れり尽くせりなわけですが、「金がかかりそう」というのは全くもってその通りで、米国の同盟国に一斉販売することでようやく「なんとか買える」レベルの価格になります。高い高いと言われますが、これだけ詰め込めば高くもなります。というか、詰め込みすぎです。
全ての能力を詰め込んだ結果
というわけで、F35というのは思いつく限りの最新機能を全て突っ込んだ戦闘機になりました。開発に参加した国々全ての意向が反映されていることもこんな戦闘機が誕生した原因になっているのですが、「まるで中学生が夢想した戦闘機だ」という感想もあながち間違いではないでしょう。
開発にかなりの時間とお金がつぎ込まれましたが、それに見合う能力は獲得しました。ただ、これだけの機能を詰め込んだことによる犠牲が全く無かったわけではありません。しかし、大量に詰め込め過ぎたツケをどこかで払わなければならないことは明らかです。
次回、F35獲得した能力によって「何ができるようになったのか」と「何ができなくなったのか」について詳しくご説明していきます。