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潜水艦乗りの過酷な戦い(3):敵を見つけるための各種装備、音・電波・光を駆使した海の偵察

第一回では潜水艦乗りの過酷な生活についてご紹介し、第二回では最大の特徴である静粛性についてご説明しました。第三回と第四回は、潜水艦の戦闘に関わる部分について簡単にご紹介させて頂きたいと思います。

軍艦に限らず、兵器というのは戦うために存在しています。しかし、実際の戦闘はほんの一瞬。それは当然、潜水艦も同じです。毎日の様に訓練し、任務に就いたら四六時中音を出さないように海中で静かに生活し、いざ戦闘となれば、ほんの数十分で終わってしまう。

その一瞬のために、搭乗員の生活全てが存在するわけですが、その一瞬に潜水艦乗り達は一体どのような戦いを繰り広げるのでしょうか?

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戦闘の勝敗を分けるのは、乗員の練度と装備。
練度は日々の訓練や指揮官の技能に寄るので判然としませんが、装備を見ればその潜水艦の戦闘力は一目瞭然です。

装備の種類は多種多様で、時代と共に変遷しています。
潜水艦の装備は動力系や静音系装備を除けば基本的には「攻撃系の兵装」と「探索系の兵装」に分かれていますが、いつの時代も攻撃兵装の代表は魚雷ですし、探索兵装の代表はソナーでしょう。

戦闘は敵を見つけて、攻撃するまでが一つのプロセス。
まずは、どうやって敵を見つけるのかから考えてみましょう。

潜望鏡

ソナーやレーダーについて説明する前に、潜水艦の誕生以来ずっと搭載されているのが潜望鏡です。

「潜望鏡って何?」っていうのを簡単に説明するならこれ。

ペリスコープとも呼ばれますが、要は鏡を二枚使って自分の姿を隠しながら別の場所を把握するアイテムです。左図は玩具ですが、アウトドア(野鳥観察など)に本格的な潜望鏡もあります。どちらも構造そのものはシンプルで、誰にでも使える光学装置ですね。

潜水艦に搭載される潜望鏡は数メートルから数十メートル物長さがあり、海上に船体を出さなくても小さな潜望鏡だけを出して敵を判別する事ができます。過去から現代まで非常に重宝される装備で、潜水艦の探索方法の中でも唯一と言って良い目視によって敵を探す装置です。

もちろん、現代の潜水艦には赤外線カメラなどの多彩な光学装置がついていて、ただの鏡を繋ぎ合わせただけの筒ではありません。

海上の状況を把握するためにはもちろん、スクリュー音などで発見した船舶が敵か味方か把握するためにも使われます。非常に便利な装置ですが、海上近くまで浮上するため音を立てなくても船体の影や潜望鏡が目視で見つかってしまったり、衛星や航空機の熱源探知装置や磁気探知機などに発見されてしまうので、気軽に使える装備ではありませんね。

ソナー

前回の記事でもご説明した通り、海中では音が頼りです。音と言うのは物体が振動することで生まれ、その振動が伝搬することで伝わります。陸では空気、海中では水が音を伝搬する媒体となりますが、水は空気より遥かに音を速く・遠くまで伝えることが出来ます。しかし、水と言う物体を媒介にしている以上、水の温度や圧力の変化で音の届き方が変わり、海域や時間帯によって潜水艦の見つけ易さが大きく異なります。優れた潜水艦乗りは、海域の地形だけではなく海水の性質や音の伝搬の特性まで理解してソナーを使わなければ行けません。

ソナーにはアクティブソナーとパッシブソナーがあると前回の記事でご説明しましたが、アクティブソナーは音(跳ね返りやすい超音波)を発することで反響した音で敵を見つけます。反響音で敵を見つけると言っても、実際に耳で聞くわけではありません。人には聞こえない音であるため、機械を使って音を解析します。

次に、パッシブソナーは潜水艦を含めた全ての船舶が自発的に発している音を聞きます。これは、スクリューの音からエンジンの音、魚雷発射の音から乗組員がコップを落とした音まで様々です。そのため、機械だけでなく、実際に音を人が聞いて判別しています。海中で船舶並みの音を出す音源は少ないですが、雑音も多く機械だけでは判別できない音も沢山あるからです。

少し考えてみると、音だけでは敵味方が簡単に把握できないように思われますが、実はそうでもありません。なんと、スクリューの形状やエンジンの種類、船体の形状に至るまで、僅かな違いで潜水艦から発生する音が変わるのです。つまるところ潜水艦や船舶によって発生する音が全て違うということ。これを音紋と言いますが、これを使って敵味方を判別することができます。非常に僅かな違いであるため、機械を使って照合しています。昔であれば、敵味方の判別は海面スレスレまで浮上して潜望鏡をつかな分ければわかりませんでしたが、浮上しなくても音紋を使って敵味方を判別できるようになりました。

この音紋ですが、味方の音紋はともかく敵の音紋を採取するのは一苦労です。航行する音を録音するだけで良いのですが、初めて聞く音が一体何の船なのかなど普通はわかりません。しかも、可能な限りクリアな音でなければ実際に照合するのが大変なので、国によっては専用の音紋収集艦などを使って音紋を採取しています。ちなみに、魚雷などの誘導装置に音紋を覚えさせ、デコイや雑音に騙されずに誘導させる目的でも音紋は使われます。それに対抗して、音紋を発生させるデコイなどもあったり、音紋の採取と照合は現代の潜水艦の戦闘には不可欠な物になっています。

電波探査(レーダー等)

水中では使い物になら無い電波ですが、海上では最強の技術です。しかし、電波を使うと言っても一筋縄ではありません。アクティブソナー(やまびこ効果)と同じように、電波を発して反射してくる電波で敵を見つける「レーダー」。逆に、パッシブソナーと同じようにレーダーや無線を使って電波を出している敵を見つける電波探知機。と色々あります。

昔の潜水艦はちょくちょく浮上していたので、浮上時にレーダーを使って航空機を先に見つけて逃げたり、逆に輸送船を見つけて先回りするために使っていました。潜りっぱなしが普通になった今でもそれに近い用途でレーダーは使われますが、発生源を逆探知されてしまうため、隠密行動が目的の場合はレーダーは使われません。使われるとしても、艦隊の一部として展開し、見つかっても仲間が援護してくれる状態で使われます。とはいえ、普通は海上や空の警戒は航空機がやる仕事なので潜水艦がやることは稀ですね。

その代わりに、電波探知装置はよく使います。海上船舶や航空機は容赦なく電波を出しながら動き回ります。そして、障害物の無い海上では音よりも遠くまで電波は届くため、電波探知装置はソナーよりも遠くの敵を発見することが出来ます。それが航空機なら静かに潜れば良いですし、攻撃目標なら静かに近づけば良いのです。当たり前ですが、運良く通信中ならともかく、潜っている潜水艦は電波では見つけられません。

その他(赤外線・磁気センサー)

光(可視光線)・電波・音の他には、赤外線(熱)や磁気探知と言う方法が存在しています。

光は情報量が多い代わりに、近くの海上の物体しかみれません。電波は遠くまで把握できますが、情報量が少ない上に地上だけです。そして、音は海上・海中の目標を探知できますが使い勝手が悪いのです。そこで、熱源探知の赤外線センサーや金属に反応する磁気センサーなどが使われるようになりました。

これらの装備は探知範囲が狭いものの、「無音で潜水艦を確実に見つけられる」唯一と言って良い装備です。海中で潜水艦がいくら音を出していなくても、電池やエンジン、人が活動している以上水と同じ温度にはなりません。船体や艦内の部品に金属を使っている以上、多かれ少なかれ磁力を持ってしまうので磁気センサーからも逃れられません。水の影響で海中深くに潜られると反応がないとは言え、赤外線センサーなどは衛星や航空機からも使えるので、非常に使い勝手の良い装備といえます。

その4に続く

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