消化器官の中である意味最も地味なポジションでありながら、消化吸収では最も重要な器官とも言えるのが十二指腸。
十二指腸と言うのは、小腸と胃の中間に当たる短い腸っぽい器官のこと。見るからに腸の一部でしかないにもかかわらず、胃酸の中和や三大栄養素すべての消化に聞く消化酵素を分泌する場所であり、膵臓・胆嚢・肝臓と直接繋がっている部位と言う特性上、各種疾患時に症状が現れやすい箇所でもあります。
腸という名の通り、栄養吸収のための絨毛が存在し、基本的には小腸の一部です。しかし、膵液や胆汁が分泌されるという点を鑑みても、明らかに他とは違う器官といえます。十二指腸について、もう少し詳しく掘り下げてみましょう。
消化器官のしくみシリーズ
・「歯」-食べ物を噛み砕き、消化を助ける最初の器官
・「唾液(腺)」-炭水化物の消化や口内殺菌を行う
・「食道と咽(喉)」-何故食べ物が詰まるのか?気管と繋がっている理由
・「胃と胃酸」-胃液と消化酵素、胃が溶けない理由とは?
十二指腸の名の由来と目的
十二指腸と言うのは、その長さが指の幅12本分であることに由来しますが、長さにするとおよそ25cm。実際に両手を使って指を並べようとする(足りませんが)と、なんだか12本分に見えません。この「指の幅」と言うのは、大人の親指と言うかなりピンポイントな指定です。おそらく、最初に命名した人の親指の幅だったのでしょうね。女性と男性で平均的な長さや太さも違うので、女性なら女性の親指、男性なら男性の親指12本ぐらいと言っても間違いはないでしょう。
そんな十二指腸ですが、特別扱いされるのは膵液や胆汁が分泌される場所だからというだけではなく、その部位、見た目、太さなどもそれに続く小腸とは異なるため、機能を知らなくても少し違う部位なのだろうと言う予測は立つようです。
上図から見ても、かなり小さな器官です。幽門で区切られている胃とは違い、こうしても見ると十二指腸と小腸(空腸と回腸)の違いは不明瞭です。しかし、実物を見てみると、腸間膜と言う小腸の大部分に付いている「ぬるっとしたヒダ」が殆ど見られないため、外見的には胃から伸びている管に見えるようです。膵臓がべったりとくっついているのも特徴的です。
そして、小腸の長さが6m以上あるのに対して、十二指腸は僅か20cm-30cm程度の短い器官。栄養素を吸収する能力はありますが、食べ物が通り過ぎる時間から考えても「吸収」がメインの器官ということは出来ません。つまり、十二指腸は胃や口内と同じく、「消化」がメインの器官ということが出来ます。
消化をメインとする器官とは言え、胃のように長時間食物を溜めて置く機能は無く、単に消化液である「膵液」と消化を助ける「胆汁」を食物と混ぜ合わせるだけの器官と言っても過言ではありません。
この二つの分泌液はアルカリ性でもあり、胃酸を中和する働きを持っています。これが上手く混ざらなかったり、胃酸が多すぎると十二指腸潰瘍になってしまいます。とは言え、実際には分泌液の量の問題ではなく、全面的にピロリ菌が悪いという説もあるのでなんとも言えません。
脂質を柔らかく分解しやすくする胆汁
胆汁は主に、胆汁酸・胆汁色素・コレステロールで構成されています。
中でも胆汁酸には脂質を細かく砕く作用があります。脂と言うのは水に混ざらないため、水分と混ぜた消化酵素が上手く届きません。そのため、胆汁に含まれる胆汁酸が脂分に作用し、脂肪が消化酵素と混ざり易い状態に変えます。胆汁とは違いますが、牛乳や母乳なども、乳タンパクの働きで胎児が脂肪分を取り込みやすい様に脂肪が上手く水に混ぜられています。
こう言った作用を総じて乳化と呼びますが、乳が上手く脂肪分を水に混ぜ込んでいるから来ている名称なのですね。
さらに、胆汁にはコレステロールが含まれていて、体内で過剰となったコレステロールが肝臓を通して胆嚢に溜まり、胆汁として十二指腸に排出されます。しかし、そこは万病の元になるコレステロール。血液中に増えれば血管を詰まらせ、胆汁に増えれば胆嚢や胆管に結石を作ります。
こう聞くとコレステロールが酷く不快な存在に思えますが、コレステロールも脂肪であり、脂肪は人には無くてはなら無い栄養素です。何事も摂り過ぎなければ良いだけです。
そして、胆汁にはもう一つ変わった物質が含まれていて、それが胆汁色素と呼ばれる色素。これは単に体内のゴミと言うか、排泄物の一種なのですが色があります。これが、水分と一緒に吸収されれば尿と一緒に排出され、尿を黄色くなる原因になります。また、吸収されなかった分はそのまま食物などと混ざって排出されますが、これは大便が茶色くなる原因です。
愉快なことに、この色素は早い内に吸収されれば黄色ですが、大腸で腸内細菌などと作用すると茶色くなります。また、腸内細菌の活動が弱まっていたりすると、便の色は黄色いままになります。色素の色の変化は偶然ですが、胆汁色素は腸内細菌の活動を示すバロメータになるのですね。
三種の栄養素を分解する消化液「膵液」の力
そして、十二指腸最大の特徴である膵液の分泌。
膵液は、「炭水化物」「タンパク質」「脂質」のすべてを分解する消化酵素を有しています。そして、アルカリ性の性質を有しており、中性の唾液、酸性の胃液と合わせ、アルカリ性の膵液が二つの消化液がカバーできなかった部分を補完するようになっています。
消化酵素も非常に豊富であり、炭水化物の消化には「アミラーゼ」「マルターゼ」、タンパク質の消化に「トリプシン」「キモトリプシン」、脂質の消化に「リパーゼ」と、ありとあらゆる消化酵素を備えています。ちなみに、胃で分泌されたペプシンは胃酸が中和されると同時に失活しています。
さらに、核酸(DNA/RNA)の分解酵素でもある「ヌクレアーゼ」は、細菌類やウイルスのDNA/RNAなどを破壊する働きを持っていて、胃酸で倒せなかった連中を体内に入る直前で迎撃する最後の砦としての働きもある程度は持っているといえるでしょう。
膵液は胃液と共に出てきた食物を中和し、その上で大量の消化酵素を投入して消化を促進し、十分に消化酵素と混ざった状態で小腸へと送り出す場所であるといえます。そして、実際に消化が進むのは、短い十二指腸ではなく非常に長い小腸。腸液にも多少の消化酵素はありますが、この膵液が消化の要。ここで膵液が上手く食べ物と混ざるかどうかが今後の消化・吸収のすべてを左右します。
食物は吸収の段階へと進む
胃、十二指腸で消化のプロセスを踏んだ食物は、小腸へ流れてようやく吸収活動が始まります。一応、十二指腸でも吸収は行われていますが、短いので一瞬です。
しかし、小腸は長くうねっている非常に変わった器官です。ここを流れる食べ物は十二指腸で分泌された消化液とこれでもかというほど混ざり合います。混ざり合いながら、腸壁と擦れあい、吸収されながらどんどん進んでいきます。
これが吸収の最初のプロセスなのです。