北朝鮮は毎年のように弾道ミサイルのテストを行なっており、その技術は急激に進歩しています。2016年の時点で「中距離弾道ミサイル」「大陸間弾道ミサイル」「潜水艦発射弾道ミサイル」など、高度な技術が必要な弾道ミサイルの発射テストに成功しており、軌道上に人工衛星を乗せる能力まで獲得しています。
意外な進歩を続ける北朝鮮。本記事では北朝鮮が保有しているミサイルの種類と性能について簡単にご紹介し、日本に与える脅威についても解説していきましょう。
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北朝鮮が保有する弾道ミサイルの種類
北朝鮮は様々な種類の弾道ミサイルを保有しています。まずはその種類をリストにしてみました。
- 「銀河」シリーズ(テポドン2号)-大陸間弾道ミサイル
- 「白頭山1号」(テポドン1号)-中距離弾道ミサイル
- 「火星10号」(ムスダン)-中距離弾道ミサイル
- 「火星7号」(ノドン)-準中距離弾道ミサイル
- 「火星6号」(スカッド)-短距離弾道ミサイル
- 「北極星1号」(KN-11)-潜水艦発射弾道ミサイル
他にも幾つかの弾道ミサイルが存在しますが、日本に対して直接的な脅威となるものはこの6つ。これらについて、簡単に解説していきます。
「銀河(テポドン2号)」と「白頭山(テポドン1号)」-打ち上げロケットと称する戦略兵器
「銀河」シリーズはテポドンの名前で知られる弾道ミサイルです。テポドンには中距離弾道ミサイルに分類される「テポドン1号」と大陸間弾道ミサイルに分類される「テポドン2号」が存在しますが、北朝鮮的にはどちらも同じ「打ち上げロケット」です。
そのため、1号は2号のプロトタイプという扱いで1度しか発射されていません。2号は改良を重ねながら数回発射に成功しており、衛星軌道上に何かしらの物体を乗せたことが確認されています。実質的に、「テポドン」といえば「テポドン2号」のことを指していると考えても良いでしょう。
「テポドン2号」は性能的には大陸間弾道ミサイルとして十分な性能があります。数を集めて飽和攻撃できるほどの生産性と信頼性は無さそうですが、米国に届くほどの射程(13000km)と迎撃ミサイルが届かないほどの高度(1400km)にまで達するため、日本だけではなく米国を含めた世界中の国にとっても大きな脅威です。
ちなみに、北朝鮮では弾道ミサイルに「火星」という呼称をつける決まりがあるようですが、「テポドン2号」には「銀河」という呼称がついています。これはおそらく、北朝鮮が「テポドン」を打ち上げロケットに分類しているからなのでしょう。
「火星10号(ムスダン)」-十分過ぎる射程で日本を狙う中距離弾道ミサイル
火星10号は日本では「ムスダン」と呼ばれる中距離弾道ミサイルです。2016年に相次いで発射が行われ、5回連続で失敗したものの最後には成功させています。技術的にはまだまだ完成したとは言い難いですが、射程距離が4000km以上あり、日本全土を射程に収めています。
特に、余裕のある射程距離を活かして通常より高い高度を取る軌道(ロフテッド)や低い高度を取る軌道(ディプレスト)で弾道ミサイルを発射されると迎撃が難しくなり厄介です。
また、「テポドン」の発射実験が数年おきに行われている程度なのに対し、「ムスダン」は3ヶ月程度の間に6回もの発射実験が行われています。「ムスダン」は生産が比較的容易で輸出実績もあり、今後は改良を重ねて大量配備される可能性が高いです。「ムスダン」によって様々な軌道で日本全国を飽和攻撃でもされたら、迎撃ミサイルで全てを完璧に撃ち落とすのはまず不可能でしょう。
(次ページ: ノドン・スカッド・潜水艦発射弾道ミサイル)
「火星7号」(ノドン)-既に大量配備が進められている主力ミサイル
火星7号は「ノドン」と呼ばれている準中距離弾道ミサイルです。射程は2000km以下ですが、東京や大阪を含めた日本の大半が射程内に入っています。「テポドン」や「ムスダン」は発射場からの発射になりますが、「ノドン」は車輌からの発射が可能です。命中精度も高く、大量配備も進められています。
打ち上げロケットとされる「テポドン」や未だに開発途上の「ムスダン」とは違い技術的にも殆ど完成している弾道ミサイルであり、既に核弾頭が搭載されて実戦配備されている可能性も指摘されています。核弾頭が無理でも、化学兵器や生物兵器などの大量破壊兵器を搭載して発射する事が可能です。
この「ノドン」は今すぐにでも日本に大量に打ち込むことが出来る弾道ミサイルであり、日本にとって最も恐ろしい弾道ミサイルと言えるかもしれません。
「火星6号」(スカッド)-実績豊富な短距離弾道ミサイル
火星6号(または5号)はソ連で開発されたスカッド・ミサイルです。世界中で運用されている実績のあるミサイルですが、オリジナルの射程は600km程度であり、日本はギリギリ射程に入っていません。
しかし、改良して射程を延伸したタイプのものが存在すると言われており、これは日本がギリギリ射程に入ると考えられています。どこにでも打ち込めるというほどではありませんが、西日本や九州なら十分射程内でしょう。
他に比べると小型のミサイルではありますが、これらの弾道ミサイルの弾頭部に積める兵器の重量はどれもさほど変わりません。「火力」という意味でも他のミサイルと比べて遜色はありませんし、「スカッド」は「ノドン」と同じく北朝鮮が保有する弾道ミサイルの中では信頼性が高いです。十分に警戒に値する兵器であると言えるでしょう。
「北極星」(KN-11)-どこから撃たれるか分からない潜水艦発射弾道ミサイル
北極星は米国のコードネームでKN-11と呼ばれており、潜水艦から発射可能な弾道ミサイルです。上にあるように、既に発射実験時の映像が公開されており、それを見る限り水中から発射されているのが分かります。これはつまり、水上から全く見えない位置から突然弾道ミサイルが現れるということであり、日本近海で発射されれば対応は難しくなるでしょう。
弾道ミサイル防衛では早期発見が非常に重要です。この早期発見にはレーダーの集中照射が必要であるため、通常のミサイル防衛ではミサイルが発射される可能性のある場所に向けて予め探索用のレーダーが照射されています。
しかし、衛星で確認できるミサイルサイロや北朝鮮の国内から発射されることが分かっているミサイル発射車輌とは違い、潜水艦は海のどこから発射されるか分かりません。探索用のレーダーを向ける方向が分からないため、発見が遅れる可能性が高いです。発見が遅れれば対処が遅れ、迎撃が難しくなります。
慎重な対処が必要になる極めて危険な弾道ミサイルと言えるでしょう。
油断できない弾道ミサイル技術
スカッド・ミサイルのような短距離弾道ミサイルだけならともかく、大陸間弾道ミサイルや潜水艦発射弾道ミサイルなどは簡単に作れるものではありません。後進国と見られていた北朝鮮がここまでの技術を獲得したのは素直に驚きです。限られた資金と技術的なリソースを弾道ミサイル開発に一極集中させることによってここまでの技術力を得るに至ったのでしょう。
全ての弾道ミサイルに核兵器が搭載可能ですが、弾道ミサイルに搭載可能な核兵器を北朝鮮が実際に保有しているかは未だ不明です。しかし、核ミサイルの配備など夢の夢などと言われていたのは過去の話。全てがハッタリだと侮るわけには行きません。そこで、後編では自衛隊の対処方法について考えていきたいと思います。