ロッキード社の小型核融合炉とは?重水素とトリチウムを利用し、プラズマと超電導磁石を使った次世代発電

ロッキード・マーチン社が、今後30年かかると言われていた核融合発電をあと10年で実用化出来ると宣言した。

これが本当であれば驚くべき技術革新が生まれる事になる。核融合発電は、日本とアメリカの研究機関が中心となってリードしてきた技術だが、米国の防衛企業が大きくリードした。

核融合発電の方式は、トカマク型・ヘリカル型・磁気ミラー型・レーザー型などが中心であり、日米欧の研究機関が様々な方式を使って核融合発電を研究している。今回のロッキード社の小型核融合では、磁気ミラー型をベースにしたものが用いられている。

核融合発電とは?原子力発電とは違うの?

核融合発電は、原子力を使った発電方式なので厳密に言うと同じものだが、一般に使われる意味合いとは少し異なっている。

今日の原子力発電所は全て核分裂を使った発電であり、原子力発電と言うと核分裂によって発生するエネルギーを利用して発電する発電施設ということになる。核融合発電と核分裂発電では、エネルギーの元は同じでも、エネルギーを取り出す方法が全く異なっている。

例えるなら、核分裂と核融合は水力発電と太陽光発電ぐらいの差があると、少し大げさだが言えなくもない。

意味がわからないかも知れないので説明するが、太陽光発電も水力発電も元を正せば太陽のエネルギーを使っている。山の上から流れてくる水流を使って発電する水力発電が何故太陽エネルギーなのかというと、山の上に水を運んでいるエネルギーは、元を正せば太陽エネルギーだからだ。 海の水を蒸発させ、水分で雲を作る作業は太陽のお陰で成立している。

核分裂も核融合も、原子が持つエネルギーを使って熱を生むが、そのプロセスは全く違う。核分裂が重たい原子を軽くするプロセスになるのに対して、核融合は軽い原子を重くするプロセスとなる。

核分裂の重たい原子には強い放射性元素を用いて危険な上、一度反応が始まると次から次へと連鎖する性質がある。このため、今も福島原発では冷却が続けられているのだ。

一方、核融合の軽い原子には放射性元素以外を使う事も可能(放射性元素の方が簡単)で、反応を連鎖させるのが非常に困難であるのが特徴だ。反応が連鎖させづらいのが一番の難点であるため、一度事故で止まったら次に反応させるのが一苦労なのだ。

(下図が核融合反応、二重水素と三重水素を融合させ、ヘリウムと中性子を取り出している)
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数多くある核融合の方式

核融合反応で一番難しいのは、最初の核融合を起こすためのエネルギーの生成と安定だ。

核融合には1億度近い温度が必要と言われており、それは太陽の表面温度が5700度であることを鑑みると、太陽の表面より熱いと言える。

この温度に耐え得る物質は存在しない上、「炉壁などを溶かす=エネルギーの損失」でもあるため、真空中のしかも空間に浮かせた状態で反応を起こさなくてはいけない。さらに、これだけの高エネルギー下では、物質はプラズマ化する(気体よりも高いエネルギーを持つ物質状態)ため、非常に扱いにくい状態となる。

どのようにしてプラズマを一点に集め、反応を起こし続けるか、が最大の課題であり、この克服のために様々な方式が考案されてきた。

トカマク型、ヘリカル型は、環状の炉心を持つ独特な反応炉だ。特殊な電場を作り出し、プラズマを環状炉の中で周回させる事で反応を集中させる。環状炉の中心は空洞だが、その空洞に磁場が集まり、その周囲を回転させる構図は太陽の周りを回り続ける惑星に近い。

エネルギー発生量に対して投入エネルギ量が大きく、長時間の反応も難しい。高温で反応させることができれば元が取れるのだが、1万円で5000円を買うような状態が続いている。

レーザー型は、磁場ではなくレーザーを四方から当てる事で無理やり反応炉の中心にプラズマを押し留める方式。普通に丸っこい炉心で済むのはありがたいが、四方から強力なレーザーを当てるため、こちらも大量のエネルギーが必要になる。

ロッキード社の小型核融合炉

今回ロッキード社が使ったのが、磁気ミラー型

二つの巨大な電磁石を中心にして磁場を作り出し、プラズマを炉心で安定させる。サンドイッチのようなものだ。トカマク・ヘリカル式の様に環状の巨大な反応炉は必要なく、レーザー型のような高出力レーザーも要らない。シンプルで小型な反応炉と言える。

しかし、小型で扱い易いが、これの課題は他の方式に比べてプラズマを安定させることが難しいことにあった。どうやって制御しているのかは定かではないが、下の図だけでは分からない高度な制御方法を用いているのだろう。

原理としては、噴射装置から高速で重水素(二重水素)とトリチウム(三重水素)を発射し衝突させ、炉心でプラズマ状態を作り出す。そして、そのプラズマを安定させて高いエネルギーを作っていき、核融合を起こす。核融合で発生したエネルギーや高速の中性子はブランケットに吸収され、発電用のタービンへと向かうガスを温めてタービンを回して発電する。

この方式であれば、既存の天然ガス発電の施設を流用できるため、発電所建設のコストもかなり浮く。

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安全で応用範囲も非常に広い、課題はトリチウム

その他のタービンや加速装置などを含めてもトラック一台に収まるサイズで実用化出来るらしく、応用範囲も非常に広い。

小型で構造もシンプル。放射性物質も最初に投入するトリチウムだけで、生成物は安全なヘリウムであるため、既存の発電所への流用は勿論、船舶や航空機にも利用可能だ。

既存の原発の様に、放射性セシウムやらストロンチウムやらは出ない上に、事故が起きても反応がなかなか止まらないなどということは理論上存在しない。一番のネックは、何かの拍子に想定以上に大きな反応が起こってしまう可能性や人為的設計ミスによる暴走だろう。ただし、原発で核爆発が起こりえないように、正しく設計すれば致命的な事故が起こりにくいのが核融合だ。

核融合自体の危険性は既存の原発より遥かに低くなるが、問題は燃料となるトリチウムの扱いだろう。

福島原発で大量に発生している汚染水はトリチウムが原因だ。新しい小型核融合炉で事故が起きた場合に問題になるとすれば、トリチウム以外に存在しない。ただ、そのリスク自体も核分裂炉よりは小さい。

というのも、原発(核分裂)におけるトリチウムは生成物の一つであり、一度の反応でかなりの数が生成される。一方、核融合ではトリチウムは反応物(燃料)であり、一度の反応で一つしか使わず、使ったら安全なヘリウムになる。

発生エネルギーも核融合の方が大きく、同じ規模の発電量を持つ発電所であれば、事故の際に放出される可能性があるトリチウムは非常に少ないと言える。

30年で脱原発(核分裂)と言う議論も見られるが、もしかすると30年後には発電所の殆どが新原発(核融合)に置き換わっているかも知れない。