いよいよ、2014年11月30日12月1日以降の打ち上げに延期の「はやぶさ2」の打ち上げが近づいて来ました。
「はやぶさ2」は「はやぶさ」の基本機能を踏襲しながらも、様々な面でアップデートが施されています。世界初の新機能なども追加されており、最先端の高性能小惑星探査機といえます。
その基本ミッションは、小惑星を近距離で撮影しつつ小惑星に着陸、サンプルを回収した上で地球に持ち帰る事。前回のはやぶさのミッションでは、多数のトラブルに見まわれながらも、何とか世界初のサンプル採取に成功しました。
今回の「はやぶさ2」の目標は「1999JU3」と言う小惑星ですが、どのような過程でミッションに望み、さらに各ミッション毎にどのような機器を使っていくのかに吐いて解説を行っていきます。
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ミッション概要
2014年11月30日: 種子島宇宙センターより、H-IIAロケットにて打ち上げ。地球脱出軌道に乗る
(※この時点で脱出するわけではありません)
2015年12月: 地球再接近、スイングバイ(ロゼッタの記事に解説あり)
(※地球の重力を利用して加速し、地球圏脱出)
2015-2018年: イオンエンジンにて加速を続け、小惑星1999JU3の軌道に乗る
(※実に太陽の周りを一周半も回る長距離加速となる)
2018年7月: 小惑星に到着し、調査開始
2020年初め: 調査完了。地球圏へ帰還開始
2020年末: 地球帰還。サンプル投下と共に、はやぶさ2は大気圏で燃え尽きる[追記]後、地球と太陽のラグランジュ点に係留される予定。
以上のようなプランになっており、上手くいけば東京オリンピックに沸き立つ中ではやぶさ2が地球に帰ってくると言うシナリオになります。初代はやぶさも、ドラマチックな演出で私達を感動させてくれましたが、はやぶさ2もなかなかの演出家のようです。
余談ですが、1999JU3はコンピューターによって発見されたので名前が機械的に付けられてしまった[追記](※仮符号であり、正式名称ではありません。軌道が測定でき次第正式名が決まります)そうですね。初代はやぶさは「イトカワ」と言う分かりやすい名前小惑星に向かったので 覚えやすいのですが、ちょっと今回は小惑星の名前を忘れてしまいそうです。
では、各工程毎にどんな機器が使われるのかを簡単にご説明していきます。
打ち上げから小惑星接近までには様々な機器が使われますが、特筆すべきは「イオンエンジンμ10」と「アレイアンテナ」でしょう。
アレイアンテナ
(写真はGo Miyasaki氏による3Dモデル)
鍋のような形状をしていたパラボナアンテナから一転して、今度のアンテナは平べったい鏡のようなものが二つ搭載されています。実はこのアレイアンテナというのは、イージス艦などにも搭載されている最先端アンテナです。
電波というのは拡散する性質があります。拡散すればその分弱くなり、遠く離れれば離れるほど届きにくくなってしまいます。そのため、拡散する電波を一箇所に集め、相手のいる方向に向けて強い指向性をもった電波を飛ばして通信する方法が考えられました。これがパラボナアンテナアンテナです。
パラボナアンテナは鍋のような曲面を使って電波を一箇所に集めていましたが、アレイアンテナでは全く別方法を使います。
アレイアンテナには電波を発する素子(非常に小さなアンテナとも言える)が大量に並べられています。そして、その小さな素子がバラバラの位相(タイミング)で電波を発生させると、ある方向だけその位相が綺麗に重なって電波が強められる様になっています。
(図のような小さな点が無数にあるのがアレイアンテナ)
ちょっと良く分からないかも知れないのですが、すごく精密な合唱のようなものだと思って下さい。普通の合唱の場合、合唱団の団員は同じ所に固まっているので声がバラバラに聞こえる事はありません。しかし、もし合唱団のメンバー一人一人が遠く離れたバラバラの位置にいたら、声はバラバラに聞こえてきますよね。そこで、合唱団のメンバーは聞き手に声が届く時に丁度同じ声が聞こえて来るように、聞き手に近い人はやや遅く、遠い人はやや早く、バラバラのタイミングで唄うのです。
声の振動に比べると、電波の振動は非常に細かく、数ミリ離れれば電波の位相がずれてしまうので雑音になってしまいます。しかし、一人で唄うより皆で歌った方が声は大きくなり、一人一人が電気制御でタイミングを完璧に合わせられるのだとしたらそちらの方が便利です。
パラボナアンテナとアレイアンテナの決定的な違いは、「相手に合わせて電波の向きを変えることの容易さ」にあります。アンテナ素子の一つ一つが位相をずらすだけで電波の方向を変えられるので、制御はコンピューターにおまかせです。
パラボナアンテナは鍋型のアンテナの向きを適宜変える必要があるため、アンテナ可動部分や機体の向きによって電波を向けられる方向に制限があります。しかし、アレイアンテナではアンテナ全体を動かす必要はありません。電子制御でほぼ全ての方向に指向性のある電波を送れるようになり、パラボナアンテナより確実に通信を確立させる事ができます。
アレイアンテナがあれば、初代はやぶさのような通信トラブルに見舞われることもなくなるでしょう。
イオンエンジンμ10
イオンエンジンについては、別の記事では詳しく解説してありますのでここでは簡潔にご説明します。
イオンエンジンとは電気推進と呼ばれる電気的なエネルギーを使って、推進力を得るエンジンです。一般的なロケットエンジンは化学反応で熱エネルギーを得て膨張した燃料を後方に吐き出すことで推力得るのですが、イオンエンジンは電気で加速させた粒子を後方に吐き出すことで推力を得ています。
イオンエンジンの最大の特徴は、推進剤が他のエンジンと比べて遥かに長持ちすること。はやぶさ2の場合、フルパワーで数年間エンジンを使い続ける事が出来ます。積んで置いた推進剤(燃やさないので燃料ではない)が無くなるより先にエンジンがダメになると言われるほどのエンジンで、H-IIAのロケットエンジンは数分で使いきってしまうのと比べると、大きな差といえますね。
そんなに長持ちするなら、何故他の機体でも使わないのかと思うかもしれません。
実はイオンエンジンというのは、推力が非常に低いのです。ハッキリ言って、風に負けます。地球で使ったら空気抵抗で殆ど動かないレベルです。きっと、扇風機を後ろに括りつけた方がよっぽど効率的なエンジンになるはずです。
ところが、宇宙の旅であれば問題ありません。宇宙には空気がないため抵抗が存在せず、数年をかけて加速することが出来ます。数ヶ月、数年単位で加速すると考えてみた時に得られる速度は他のエンジンの比ではありません。
つまり、同じ重さの推進剤で好きなだけ加速して下さいと言われた時に、一番加速できるのがイオンエンジンなのです。
(後編に続く)