自衛隊の救難飛行艇US-2の実力は?(後編):ロシア製やカナダ製、世界の飛行艇と比較してみる

前編で海上自衛隊の新明和工業製US-2飛行艇が世界最高峰の性能を持っているという話をしたのですが、それは実際に比較してみなければなんとも言えません。

日本のUS-2の他に世界的に高い水準で作られている飛行艇は、カナダのボンバルディアエアロスペース製「CL-415」とロシアのベリエフ設計局開発の「Be-200」だけです。

ただ、他の国の飛行艇はUS-2とは別のコンセプトに基づいて作られているということもあり、一概に一つの性能を挙げて比較するのは間違いです。そこで、海外の飛行艇について様々な観点からUS-2と比較してみましょう。

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日本「US-2」、カナダ「CL-415」、ロシア「Be-200」の飛行艇

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(日本製US-2_JMSDF )

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(カナダ製CL-415_Wikipedia

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(ロシア製Be-200_Wikipedia

日本・カナダ・ロシアの飛行艇を並べてみました。どれも見た目が大きく異なっているのが分かります。

写真を見ただけで分かるのは、「大きさ」や「エンジンの違い」程度かも知れませんが、実はそれが重要な差異でもあります。

ロシアはジェットエンジン(US-2はプロペラ)ですね。そして、カナダもロシアもエンジンは2発(US-2は4発)です。また、ロシアとカナダはエンジンが翼より高い位置にある(US-2は翼と同じ)のも見て取れます。

素人が写真を見てパッと分かるのはその程度ですが、実はそれだけでも各飛行艇の特徴というのが分かるのです。

まず、ジェット機であるロシアの飛行艇はかなり速度で飛行することが出来る分燃料消費が激しくなり、飛行時間は短くなります。さらに、翼の前にプロペラがある飛行機と違ってエンジンの力を揚力に活かすことが難しいので、離着陸に必要な滑水距離と言うのはプロペラ機より長い傾向にあります。

一方、カナダの機体はプロペラ機ですがエンジンがUS-2に比べて少なく、プロペラの位置が翼より上にあるためエンジンが作った空気の流れが一部翼の外に逃げてしまい、揚力を生み出しにくくなるためUS-2より滑水距離が長くなります。また、エンジンの数も少ないのでUS-2より低速です。

つまり、ロシア機は速いけど飛行時間が短くて離着水距離が長い、カナダ機は速度が遅くて滑水距離が短いというのがわかりますね。

一般にプロペラ機の場合、エンジンが多いほど得られる揚力が大きくなって滑走距離が短くなり、速度も早くなります。その分、燃費やコストの面で不利になりますが、性能はその分高くなるのです。

これら飛行艇の性能については、新明和工業が諸元比較を行っています。

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新明和工業ウェブサイトより)

これを見てもらえれば分かりますが、各種性能で大幅に他機種を上回っていますね。速度でややジェット機に劣るものの、航続距離を鑑みればUS-2は低速で長時間飛行出来る事が分かります。

これは長時間海上で遭難者を捜索したり、不審船舶を追跡したりする任務に最適ということで、救難飛行艇としては最高の飛行艇ということが出来るでしょう。

これだけ見るとUS-2が最高のように見えますが、実は調達コストが他国の数倍かかるのです。

日本の様に裕福な国であれば良いのですが、他の国でこれほど高価な飛行艇を運用する余裕は無いでしょう。さて、諸元比較はこれくらいにして、単純な性能だけではなく、コストや任務の面からカナダとロシアの飛行艇について考えてみます。