ソナー性能-見つからない場所はどこか?
潜水艦が出す音が「潜水艦の姿」そのものであるとすれば、音を聞き分けるソナーの性能は「潜水艦の目」に当たる部分です。
潜水艦には巨大なソナーが艦首付近についていて、これによって水中の音を拾い、近くにいる潜水艦や艦船を探します。このソナーの性能で重要なのが「どこにいる敵をどれくらい正確に見つけられるか」ということ。
例えば、小さな音を拾えるソナーなら遠くにいる敵を発見できるということですし、様々な分析手法を用いる高性能なソナーを多数装備しているなら短時間で正確な位置を特定できる能力があると推測できます。
この情報が漏れれば、当然ながら相手はソナーに対する対策を練ることできます。音というのは潜水艦が動く時に出るので、相手のソナー性能が優秀なら慎重に動けば良いですし、劣っているなら大胆に動けるかもしれません。
特にソナー性能が漏れることで、「どれくらい近づけるか」がバレてしまうのは痛いです。潜水艦の重要な能力の一つが「相手に見つからないように相手を見つける」事にありますので、見つからない距離や音の大きさが分かるだけで潜水艦から隠れることが容易になります。
その他にも、ソナーの死角などの情報も重要です。
ソナーは多くの場合船首にあります。これは背後についている自身のスクリューが出す音の影響を受けないようにするためですが、耳が前についていることになりますので、前面の音を拾い易くなる一方で後方の音は少し拾いにくくなります。
また、最近の潜水艦では複数のソナーを併用するのが普通です。艦体側面にソナーを設置したり、後方に曳航式のソナーを取り付けることが増えてきましたが、それぞれに得手不得手があります。正確に音を聞き分けられる状況もあれば、そうでない状況もあるでしょう。
もしこのソナーの中に苦手な方角・波長・深度があれば、それは潜水艦の死角・弱点ということになります。
特に危険なのが上下と背後。水温・水圧が変わる上下では音の性質が変わるため、音の聞き取り方に特殊な技術が必要になります。後方にはスクリューがあるので雑音が多くて他の音が聞き取りにくく、それを避けられる曳航式のソナーはそもそも使いこなすのが難しいです。
こうして上下や背後に死角ができてしまった場合、この死角の位置を正確に把握できれば敵の潜水艦は完全に音を止めて待ち伏せし、ソナーの死角に入ったタイミングで動き出して攻撃する、やり過ごす、追跡するという戦術が使えるわけです。
もちろん、死角が可能な限り減るようにソナーの配置・機能・戦術に工夫を凝らしているわけですが、完璧とはいきません。「ソナー性能」に関する情報が外に漏れてしまうことは、すなわち弱点が漏れるということにもなり得ます。潜水艦にとっては死活問題ですので、絶対に漏洩させてはいけません。
敵に見つかるかどうか、敵を見つけられるかどうか
実質的に「雑音特性」は「ステルス性能」のことを意味し、「ソナー性能」は「索敵性能」のを意味しています。
もちろん、技術的にはこれ以外の技術も「ステルス性能」や「索敵性能」に関わりがありますが、「どの情報が重要か」と問われれば、この二つを真っ先に挙げるのではないでしょうか。
これらは潜水艦が任務を遂行する上で最重要の核となる情報です。そのためスパイ活動の中でも最も力を入れている部分となります。以前、日本の潜水艦の情報漏洩が問題になった時にもソナーに関する情報が一部含まれていたと聞きます。流石に全ての情報が漏れたということはないはずですが、重大な問題です。
とは言え、大切なのはどちらか片方だけでも守り通すこと。
ソナーの情報が漏れていても、音の特性を隠し通せていれば見つかりません。見つからなければ先に敵を見つけることができます。逆に音の特性がバレていても、ソナー性能を隠せていれば早期に敵を発見することができます。
敵を見つけられないなら、敵に見つからないこと。敵に見つかってしまったなら、敵を見つけること。究極的には、潜水艦の戦いはこの二つができるかどうかにかかっています。ここに関わる情報が重要でないわけがありません。
【その2: 行動範囲が分かる「潜水深度」「水中速力」「航行時間」】