海洋温度差発電で電気とレアメタルをまとめて収集!これがホントの再生可能エネルギー!

海洋温度差発電の利点

海洋温度差発電の第一の利点は、安定して継続的な発電が可能という点です。日照量や風量は日によって変化するので、太陽光発電や風力発電の発電量は時間と共に変化します。なので、電力が多く使われる時間帯に発電量が少なくなってしまうということが起こりえます。

一方で海洋温度差発電が利用する海水温度は、熱帯地域であれば年間でほとんど変化することはありません。装置を稼働させる電力は発電量の一部でまかなえるので、気象条件や季節に左右されず安定した発電をノンストップで続けることができるのです。

また、発電施設を洋上に造ることが可能です。大規模な発電施設を建設する場合でも土地を占有することはありません。この技術はハワイでも精力的な研究開発が進められていますが、このような特徴は土地の面積が狭い国や地域に利点があるといえるでしょう。

再生可能エネルギーは、発電コストを下げて市場での競争力を保つことが普及への課題です。この点を他の再生可能エネルギーと比べてみましょう。

海洋エネルギー資源利用推進機構によれば、海洋温度差発電の商用利用時の発電コストは、出力1万kW級の設備で20円/1kWh、出力10万kW級の設備では半分の10円/kWhとなります。kWhはキロワット時と読み、1キロワットの電力を1時間発電した場合の電力量を指します。

経済産業省発表のエネルギー白書2017によれば、現時点で日本の再生可能エネルギーの発電量は太陽光が最も多く、バイオマス発電と風力発電がそれに続いています。資源エネルギー庁の省エネルギー・新エネルギー部が公開している再生可能エネルギーの大量導入時代における政策課題についてを参考に、日本の太陽光発電と風力発電の発電コストを見てみましょう。

まず太陽光発電を見ると、現在の発電コストはおよそ21円/kWhに相当します。これは、1万kW級の海洋温度差発電施設の発電コストとほぼ同じぐらい。政府の方針としては今後コスト削減を進める方向に向かっており、非住宅用太陽光発電、つまり一般住宅以外に設置する太陽光発電設備の発電コストを2020年には約14円/kWh、2030年には約7円/kWhまで削減するという目標を設定しています。2030年目標にまでなるとさすがに発電コストは太陽光の方が低くなりますが、現段階で見れば海洋温度差発電の発電コストは十分安価といえるでしょう。

次に風力発電を見てみましょう。現在の発電コストは13.9円/kWhとなっており、10万kW級の設備より少し高い水準です。風力発電も今後コスト削減を目指す計画で、現在の目標は2030年までに発電コストを8~9円/kWhまで引き下げることです。この段階になっても、10万kW級の大規模な設備であれば同程度の価格競争力を維持できそうです。

こうしたデータを見ると、海洋温度差発電は発電コストの面でも優秀な技術であることがうかがえます。さらに日本を囲む海を最大限に活用すれば発電量もかなりのものに上ります。新エネルギー・産業技術総合開発機構が発光した再生可能エネルギー技術白書によれば、海の表層と深層の温度差が20度以上の海域に絞り、日本の排他的経済水域をフル活用して設備を構築した場合、年間発電量は約1兆3700億kWhに達すると予想されています。2015年時点での日本の年間発電総量が約9000億kWhなので、理論上は日本の電力消費を全てまかなうことができるのです。

発電以外の用途

海洋温度差発電の設備は、発電以外の用途にも活用できます。その一つに、建物の冷房があります。海洋温度差発電の施設は凝縮器を冷やすために絶えず深海から冷たい海水をくみ上げていますが、その水をただ捨てるのではなく、建物の配管に通して冷房に活用するというアイデアがあるのです。

さらに、海洋温度差発電が普及することで、海水中に溶け出したレアメタルを回収できるようになるかもしれません。

海水中には塩の他に77種類もの元素が含まれており、その中にはウランや金、電子機器に使われるリチウムイオン電池の原料となるリチウムなど、希少な金属もあります。海全体を見れば埋蔵量は莫大なもので、ウランなら約46億トンで、現在確認されている地上での埋蔵量の約1000倍。金は1400万トンに上り、人類がこれまで掘り出した金の総量の約100倍です。

これだけの希少金属が取れれば大もうけ……と思いきや、実はコストの問題が足かせとなって実現できないままになっています。海全体には膨大な量の希少金属があっても、海水1トン中に含まれるウランはわずか3.3mg、金はもっと少ない0.01mgです。まとまった量が欲しければ途方もない量の海水をくみ上げる必要があり、当然コストがかかります。

また、海水中には他の物質も多数含まれるため、それらの物質と目的の物質を分離しなければならず、こちらも相応のコストが発生します。このため、希少金属を採取できても利益にならないのです。

海洋温度差発電では、このうち多量の海水をくみ上げる作業を発電目的で行っており、発電のついでに希少金属を集めるることで海水からのレアメタル回収のコストは最小化されるのです。コスト面での課題が一部解決されるため、海水からの希少金属採取実現に向けて大きく前進すると期待されています。

日本のエネルギー需要のかなりの部分をまかなえるだけでなく、海水から資源まで得られる可能性を秘めた海洋温度差発電。まだまだ注目度は低いですが、いつの日か、海からの素晴らしい恩恵をこれまで以上に得られるようになる日が来るのかもしれません。