インターネットを蝕む陰謀論、SNSでQアノンが広がる理由

SNSプラットフォームのレコメンドアルゴリズムの仕様もあって、Qアノンはそれ自体がひとつのブランドになりつつあります。

今ではQアノンという名前が世界的に広まっているため、ローカルな集団がQアノンに言及することで知名度や求心力を得ようという動きが見られるようになっているのです。

たとえばドイツでは、Qアノンの主張が「帝国市民運動家」に強く共鳴していると報じられています。これは、現在のドイツ国家の正当性を認めず、秘密裏にアメリカに支配されているという説を唱えるグループ。

アメリカ社会の上層部に潜む「影の政府」に世界が動かされているというQアノンの主張は、アメリカの支配を否定する帝国市民活動のスローガンに沿っています。世界的に有名なQアノンも同じ旨の主張をしているから……という理屈で、自分たちの主張にハクをつけようという考えがあるのでしょう。

自分の信奉する陰謀論とQアノンを結びつける人が増えれば、事実上Qアノンそのものの影響力が高まっていきます。するとさらに人が集まり……というループで、影響力は際限なく高まっていくのです。

SNSプラットフォーム各社の取り組みと今後の課題

インターネット上での陰謀論の拡散は、SNSプラットフォーム各社も懸念しています。

2020年7月にはツイッター社が、Qアノンの陰謀論を広めるアカウントは歓迎されないという声明を発表。加えてトレンドページの関連トピックやレコメンデーションを削除したほか、Qアノン関連のアカウントを7000以上削除してもいます。

また8月にはフェイスブックでも、大規模なQアノン関連のフェイスブックグループが削除されたと報じられました。削除の理由はヘイトスピーチや偽情報拡散、ハラスメント関連の規約違反。メンバーは20万人を数える大規模なグループだったといいます。

ただ、SNSプラットフォームがアカウント削除や投稿の制限を行ったとしても、それだけでは対策として不十分という声もあります。

人が信じる考えを変えるむずかしさはSNSとはまた別の要素です。そして、情報が善悪の区別なく拡散していくというのは、いってみればインターネットそのものの本質だともいえます。

インターネットで情報が流通しなくなっても、たとえばテレビのニュースで批判的な報道がされれば、ある意味では情報の拡散に寄与することになります。ニューヨーク市の警察組合の組合長がテレビのニュースに出演した時、Qアノンのロゴが入ったマグカップがカメラに映って話題になったという事件もありました。彼自身はQアノンを知らずにそのマグカップを使っていたとしても、信奉者の空想を刺激するには十分でしょう。

まとめ

このように、Qアノンひいては陰謀論対策をするためには、SNSやインターネットだけでなく、メディア全体を視野に入れた上で情報の広がり方を考えていく必要があると考えられます。

ネットワークで結ばれた情報のダイナミズムを捉えるため、情報エコロジーという新しい学問領域が現れつつあるように、対策にはこれまでにない新しい発想が必要になってくるかもしれません。

またQアノンの唱える説自体、大衆の側に立つトランプ大統領が米国のエリート集団に立ち向かうという、社会のエリート層への反発といった趣が色濃いものです。こうした論を信じる人が増える背景には、富の配分の不均衡、社会的流動性の低下などが原因となる不公平感があるとも考えられます。

根本に社会に対する不満があるのだとすれば、陰謀論への対処はさらに難しいものとなるでしょう。