2020年初頭、アメリカでは新型コロナウイルスの流行にともなって銃器の販売が増えていると報道されました。奇しくもアメリカは大統領選挙の年。ここ数年の銃乱射事件の頻発もあって、銃規制が選挙の重要な争点にもなっています。
銃規制と一口に言っても、あらゆる銃を一度に規制することは現実的に不可能。議論の内容は常に、時々の状況や潮流によって変わっていきます。ということは、銃器産業でいま何が起こっているか、それがわかると現在のトレンドも見えてきます。
本記事では近年のアメリカでの銃規制のトレンドと、今後争点になるであろう課題をピックアップしていきます。
統計データが示す自殺の多さ
アメリカでの銃と死傷者の現状はそもそもどうなっているのでしょう?
銃による死者は他殺よりも自殺の方が多く、他殺と自殺の割合はおよそ4対6となっています。
2017年時点で、10万人あたりの死者数は他殺4.6人、自殺6.9人。記録され始めた1968年当時はそれぞれ5.2人と6.3人となっており、人数比で見ると銃による殺人は減っているのです。
一方で、銃乱射事件の件数は急激に増加しています。
1966年以降の銃乱射事件をまとめたワシントン・ポストのデータベースからは、近年の銃乱射事件の傾向が明確に変わったことが見て取れます。
増え続ける乱射事件
銃乱射事件といっても、実は普遍的な定義はまだありません。そのためここではワシントン・ポストの定義を使うことにします。ワシントン・ポストは1966年以降に公共の場所で起こった銃撃事件(強盗・家庭内での殺人は除く)のうち、犯人を除いた死者が4人以上のもの、と定義しています。
そこから読み取れる傾向は、発生頻度の向上、死者数の増加です。
6週間に1件、頻度も増える
1999年のコロンバイン高校での事件以前は、平均して6ヶ月に1件という発生間隔でした。
この事件を境に発生頻度が急増。これ以降は2ヶ月に1回と、なんと3倍ほどにまで上がっています。
もうひとつの転換点は、2015年に起こったチャールストン教会銃撃事件。これはサウスカロライナ州にある教会で21歳の白人男性が発砲し、9人が死亡した事件です。
この事件以降頻度はさらに上がり、平均すると6週間に1回となっています。
死者数も増加傾向に
チャールストン教会の事件を境に、死者数の傾向も急激に変わりました。
データベースの記録では、1966年からの総死者数は1196人となっています。そのうちのなんと1/3が2015年のチャールストン事件以降の死者。
頻度が上がっているのも原因のひとつだと考えられますが、大規模な死者が出るリスクも事件以降かつてなく上がっています。
アメリカの銃乱射事件で最大の死者を出した2017年のラスベガス銃乱射事件、その前年に起きたオーランド銃乱射事件(死者数はワースト2位)の例を見るだけでも、傾向が変わってきていることが見て取れるでしょう。
州法から連邦法へ、規制を広げられるか
こうした状況を踏まえ、現在アメリカでは何が規制の争点になっているのでしょうか?
州レベルでの規制を全国区へ拡大するというのがまず挙げられます。
アメリカには全土に及ぶ連邦法と、各州で独自に制定される州法とがあります。法律の内容が連邦法と対立しないかぎり、州法では独自の規制を定めることができるのです。
州法では基本的に、連邦法でカバーされていない、あるいは連邦法の定めよりも厳格な規制が設けられています。
例えば連邦法の定めでは、銃を購入するにあたってライセンス取得は不要です。
これに対して一部の州では、銃を購入する前のライセンス取得が州法によって義務付けられています。こうした追加の規制は連邦法と対立しない追加の規制なので、可決さえされれば問題なく効力を発揮するのです。
この他にも州によっては、所持している銃器の登録義務、そして一定の状況下での裁判所による一時的な銃の押収許可を州法で定めています。
州法レベルで行われている規制の中には、銃器による死者の減少と関連しているという研究結果が出ているものもあります。
こうした地域レベルでの規制をどこまで連邦法に組み込んでいくか、そこが重要なポイントのひとつなのです。