『マインクラフト』を教育現場に? アメリカの学校で広がる古くて新しいこころみ

ゲームを教育に活用する試みは、今更珍しいものでも新しいものでもない。

一昔前のニンテンドーDSの頃には問題集や漢字の書き取りのようなゲームが多く見られたし、ファミコンの頃にはすでに『さんすうあそび』という、計算問題を解くソフトがあった。
しかしこれらは問題を反復して解くことが主眼に置かれている。計算ドリルを説き続けることをゲームの中でやっているだけと言ってしまえば、別に大したものではない。

近年、まったく新しい発想でゲームを教育現場で活用しようとする試みがアメリカで広がりつつある。日本でも有名なゲーム『マインクラフト』を学校の授業で活用しようというものだ。

学校現場のための『マインクラフト』

授業で使うのは、『マインクラフト』をベースに授業で使うための調整を施した『MinecraftEdu』というバージョン。

制作者も公認した立派な正規品として販売されている。
調整されているとはいえ『マインクラフト』本来のマップ作りや行動の自由さはそのままなので、アイデア次第であらゆる学年、あらゆる科目の学習に役立てることができる。
クラス全員を一つのマップに配置してロールプレイをさせる、共同で何かを制作させるなど、活用例はさまざま。

実際に『MinecraftEdu』を活用した授業計画の一例を紹介しよう。
下記は、アメリカ・カリフォルニア州のDel Mar Middle Schoolで行われた「Digging for Truth」という授業の説明である。
この授業では『マインクラフト』であらかじめ作成したマップを使い、狩猟・採集の時代から帝国が発生するまでの文明の過程をシミュレートし、それぞれの時代ごとに定められた条件をクリアすることが目的となる。

一番最初の狩猟・採集時代の授業計画より抜粋する。

マ インクラフトの世界に飛び込んだ生徒達の課題はただ一つ――生き残ること! どうやって生き残るのか、生徒達に明確なヒントは与えられません。直感と旧石 器時代の知識を使って環境に適応し、闇夜を無事に過ごさなければならないのです。旧石器時代に存在しない(または、授業で触れられていない)道具は使えま せん。次に挙げるのは、課題達成のために生徒達が取り得る方法の一例です。
・狩猟、採集(食べものを探して歩き回ったり、小さな獲物を狩ったりする)
・木や石で道具を作る(シャベル、ツルハシ、クワ、剣)
・火をおこす(石炭と木材を使う)
・外敵から身を守る(ヤマネコ、オオカミ)
・簡単な住居を作る(石や土を使う)
・小規模なグループを作る

“体験”を通じた学びの提供

授業はこの後農耕時代や都市の発生、帝国の勃興へと進んでいき、それぞれの時代ごとに違った初期条件と課題が用意されている。
当然ながら、課題をクリアすることだけがこの授業のキモではない。
重要なのは生徒達が限られた条件の中で考えて判断することで、その体験を通じて、説明や写真だけでは得られないそれぞれの時代についてのより深い理解を得ることにある。

木や石で道具が作れるとわかっても、それでどうやって敵から身を守るのか。
材料を調達するにも歩き回らなければならず、その際の危険にはどう対処するか。
集団で動くのであれば、人数や役割分担をどうすればより安全に動けるのか。その際考えるべきことはなにがあるか。

生徒達は旧石器時代の人間に“なりきって”考える。その経験を通じてはるか過去の時代をより身近に感じ取り、その時代の特徴を深く学び取ることができる。
また、他者に働きかけてアクションを起こすという経験は現実世界でも活用しうる貴重なものである。

せめて姿勢を柔軟に

アメリカでこのようにやっているのだから、ただちに日本も教育現場にゲームを導入すべきだ! などと急きたてるつもりはない。
まず設備を揃えねばならない学校が多いことだろうし、当然ゲームの購入にも費用がかかる。そもそもの教員にPCゲームの扱いを指導する必要がある。
さらにこんなことをやったところでPISA調査の点が劇的に向上するという保証もない。

しかし、このような試みを行える時代である事実、それだけの環境が整っているという事実は頭に入れておいて損はない。
重要なのは取り得る選択の幅が増えたことである。その中から効果的な教え方が見つかるかもしれない。

こんな例もあるというだけでも覚えておけば、いずれまた新しい発想につながるのかもしれないのだし。