地球温暖化は嘘だった。または、温室効果ガスなんて言うものは政府の陰謀。などなど、数々の懐疑論が展開される中、2013年9月に「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」によって「第5次評価報告書」が発表されています。
この報告書は、世界中から集められた数千人の科学者達が賛否両論含めた様々な議論を経て合同で作成したものです。大きな議論を生んだ第4次報告以降、懐疑論に対する検証も深く行われ、その上で新しい報告書が作成されました。
結果から言えば地球温暖化の懐疑論の大半が否定され、「地球温暖化は進行中」で、且つ「温室効果ガスなどの人為的影響」が確かなものになったということです。では、ほぼ完全に否定されたと思しき懐疑論は一体何故ここまで大きく取り上げられるようになったのでしょうか?
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IPCC第5次評価報告書から分かること
第5次報告で注目するべきは、第4次報告では地球温暖化の影響が人為的なものである確率が90%程度とされていたのが今回の報告では95%に引き上げられている点です。ほんの5%の違いではありますが、この5%には否定された懐疑論が含まれています。
IPCCの研究者は温暖化賛成論者だけではなく懐疑論者も含まれています。しかし、その懐疑論の多くが、「理論上の欠陥」や「統計上の欠陥」などによって否定されました。
温室効果ガスと呼ばれるCO2の排出は増え続け、地球内部に蓄えられるエネルギーも増え続け、地球全体の熱エネルギーは上昇し続けています。その蓄積エネルギーの形は気温だけではなく海水温にも影響があり、適当に大気温のデータを抜粋しただけでは測れません。
海面上昇も確認されていますが、海面上昇による都市水没に関しては100年単位の時間が掛かりますので今の技術水準で急いで巨大堤防を作る必要はないでしょう。冷凍庫の温度を上げて溶け出す氷とは違い、氷山は「極端に暑い日の日中に一瞬溶ける」程度で、広大な海の水位を上げきるまでにはまだまだ時間が掛かりそうです。
世界の国々が取りうる政策としては、二酸化炭素は減るだけではなく自然界(木々など)に吸収される物質でもありますので、排出量を減らしつつ吸収量を増やすと言う政策になるでしょう。また、それと同時に熱暑に適応できるような社会づくりが必要になり、熱射病や作物の不作などにはより一層気をつける必要が出てきます。
要は、やっぱり地球温暖化は人間のせいで起こっていてすぐには止められないから、止める努力をしつつ温暖化した地球で生きていくための知恵を絞ろうと言うことです。
どうして温暖化の懐疑論が広まったのか?
温暖化懐疑論の数は非常に多岐にわたっており、「これが懐疑論」とはっきり言える物はありません。
懐疑論の中には「温度が上がっていない」「二酸化炭素の排出量と関係がない」「観測結果が改ざんされている」「政府の陰謀」「一部企業のお金目的」などがありますが、どれも決定力に欠けるものであり、科学的な指摘に対しては科学的に否定され、人為的な指摘に対しては証拠不十分として否定されています。
そもそもこれらの懐疑論はなぜ広がったのでしょうか?
理由は大きく分けると以下の4つ。後ほど、詳しく説明していきます。
- 気候変動を理解する事が難しい
- 温室効果ガス削減にコストがかかる
- 大規模な政策となったため欠陥が多い
- 世界的な問題で話題性が高い
気候を理解する難しさ
第一に、気候変動を理解するのは非常に難しいということが挙げられます。エルニーニョ現象やラニーニャ現象を始め、周期的に「自然な気候変動」が発生しており、今年暑かったからと言って来年も暑いとは限らないのです。気温が上がらないと思ったら代わりに深海の水温が上がっていたり、気候変動が止まったかと思えばすぐに変動が始まります。
地球の気候や自然現象に関しては理解できていない事がまだまだ多く、研究者たちも自然変動と人為変動の区別をつけるために様々な角度から検証することを迫られ、結論を出すためには膨大な検証費用と時間が必要となりました。それでも、数学や物理学のように99.99%正しい結論と言うのは導き出せません。
また、地球温暖化は数十年・数百年スパンの長い期間で見るべき問題であり、一方で短期的に見ると温暖化していないように見える統計データも出てきます。こうしたデータを取り上げれば、地球温暖化批判が可能になります。
人類の気候に関する理解の乏しさが懐疑論者を後押しする結果になったことは否めません。
温室効果ガスの削減には莫大な費用が必要
第二に、温室効果ガスを減らそうと思えば、火力発電所の代わりに新しく原子力発電所や風力発電所を作らなければいけなかったり、工場への大規模な設備投資なども必要になります。この費用を捻出すると言うのは経済的に非常に大きな負担となるため、経済活動を優先したい国家や企業にとっては、地球温暖化が温室効果ガスのせいだというのはできれば否定したいポイントになります。
上述のように気候現象に関しては100%の正解が無く、反論は容易です。否定できそうなポイントがあればすかさず批判し、少しでも経済的な負担を減らしたいのです。実際に、国内の経済界からの強い圧力があった米国は、2007年に温室効果ガスを削減しようという京都議定書に批准しませんでした。この米国の判断が間違っていないとするために、経済界の支援を受けた各種メディアが一斉に反対論を言い始めています。
企業の支援や圧力というのが懐疑論が隆盛した最大の理由とは言えませんが、大きなコストがかかってしまう温暖化対策は「お金の使い方を間違っている」と言う論点で政府批判がしやすく、利害の一致した論者や団体にとっては扱いやすいツールとなりました。
大規模な政策となったため欠陥が多い
第三に、大規模な政策・活動ともなれば、人為的なミスや政策の欠陥なども多いです。「統計データが改ざんされた」とか、「観測地点に誤りがある」とか、一部のミスや欠陥を取り上げて温暖化理論や温室効果ガスを批判するような懐疑論者も数多く存在しています。
また、気候変動について人類がまだ完全に理解していないことから、「すぐには否定しきれない妥当な批判」と言うのも少なからず存在したため、一部の政府関係者や科学者が改ざんしたデータを使って反論するようなケースも見られました。
さらに、恣意的なデータの改ざん以外にも、膨大な観測データの中には純粋な観測・統計上のミスなども存在するため、探せばいくらでも粗があるような状態になってしまっているのも懐疑論者を勢い付ける結果となります。
世界的な問題なので話題性が高い
最後に忘れてはいけないのが、地球温暖化の知名度や話題性の高さにあります。
世界中の人々が地球温暖化のために努力しようとなっている中で、「それは間違いだ」と声を上げれば目立ちます。オウンドメディアやブログなどが流行り始め、目立てば目立つだけお金が入るような状況になれば、なりふり構わず目立とうとする人も増えるのです。
もちろん、それが明らかな嘘だと問題ですが、国際的な影響力の低い小さな学術機関の統計データに誤りを見つけて、「地球温暖化は嘘だ!」と叫べば、それなりの信憑性を持って周囲には受け止められるでしょう。もしそれが、有名な団体による統計データであれば尚更話題性は高いです。
また、「私が仕入れた信頼できるソースの情報によると、政府が発表した温暖化の情報には嘘がある」と言う主張自体は真実でも、懐疑論者の大半が気象学に関する専門家ではなく、その情報を正しく扱う知識が無いケースが多いです。つまり、一般人・本人からすればすぐには間違っていると分からない情報を真実として主張できるため、話題性がある上すぐには反論されない主張が出来上がるのです。
完璧でない限り反論は止まらない
いくら数千人の科学者が集まって報告書を作ったとしても、完璧に理解できていない現象である以上反論の余地は残ります。
第5次報告や科学者達のたゆまぬ努力によってかなりの懐疑論を払拭出来た地球温暖化現象ではありますが、まだまだ懐疑論は減りませんし批判が無くなる事は無いでしょう。こうした懐疑論者の主張が国家政策や科学的理論の趨勢を左右する事はありませんが、世論と政策が乖離していく可能性は十分に存在しています。
もちろん、可能性は低くても地球温暖化や温室効果ガスの理論が間違いである可能性は0ではありません。
しかし、地球温暖化の対策は人類一人一人の意識改革が重要です。政府発表や科学者団体の主張に批判的な視点を持つのは素晴らしいことですが、その一方で安易に懐疑論を信じて温暖化を加速させる可能性が高い行為を受け入れないようにしたいですね。
参考文献:
気候変動2014 統合報告書 (http://www.env.go.jp/earth/ipcc/5th/pdf/ar5_syr_spmj.pdf)