金属の炎の成分:多彩な光を発して燃える金属と炎色反応 -火のしくみ(3)

前回の記事で、有機物の炎は主に炭素と水素、またはその化合物の燃焼によって生まれている事が分かりました。では、無機物はどうでしょう?

金属は酸化して錆びる事が知られていますが、条件さえ整えばその酸化反応は急激になり、燃焼と呼んでも差し支えないレベルで炎を作って燃え上がります。

ところが、金属は炭素を含まず、有機物とは違って炭素や水素(一部の金属化合物は含む)が燃える要素がありません。また、その炎の色が金属によって違うため、金属の炎色反応としても知られていますが、金属の炎と言うのはどのように生まれているのでしょうか?

金属の炎が生まれる条件

金属と言うのは世の中のあちこちで使われており、灰皿は金属製、鍋も金属製、家事になっても鉄骨などは最後まで残ります。

そんな金属が燃えると言うのは不思議な話ですが、金属の中でも燃えやすいモノと燃えにくいモノがあります。また、燃えやすい状態と燃えにくい状態があります。とりあえず火にくべておけば燃える有機物とは違いますね。

燃えやすい金属というのは、所謂卑金属であったり、イオン化傾向の強い金属であったり、化学反応が起こりやすい金属のことです。具体的には、リチウム・ナトリウム・マグネシウム・アルミニウム・鉄・カリウム・カルシウム、などなど。

燃えやすい状態と言うのは、粉末状であったり、薄く伸ばされていたり、重量あたりの表面積が広い状態の時です。砂鉄やアルミ箔は燃えやすい状態と言っても良いですね。

燃えやすい金属が燃えやすい状態で火をつければ、それこそロウソクや木材も真っ青になる勢いで見事に燃え出します。また、金属の燃焼の場合、「水に入れても燃える」というのが非常に面白いポイントの一つです。

燃焼には酸素が必要だというのは常識ですが、水はH2O、つまり酸素を含んでいる物質です。この水を分解して酸素(OもしくはOH)を金属が奪って酸化反応を勢い良く起こせば、燃焼反応は完成です。要は、燃えやすい金属は自ら酸素を奪って燃えられる変わった物質なのです。

鋭い人は気づくかもしれませんが、金属に火が付いている時に水をかけると、まさしく火に油を掛けたように火の勢いが強まります。「金属火災に水は使えない」というのは消防関係者には有名ですが、一般人にはあまり知られていません。

これらの金属は空気中の水蒸気をきっかけに燃え出すこともありますし、手で触れただけでも手の表面の水分を使って化学反応が起こります。汗を掻いた手で触れば、場合によっては発火してしまうかもしれません。

はっきり言って、燃えやすい状態の燃えやすい金属は「油より燃えやすい可燃物」です。

金属が燃えない条件

金属が燃えないと言うのは、金属が燃えにくい状態か、燃えにくい金属だからかのどちらかです。

燃えやすい物質である鉄であっても、ある程度分厚くなればまず燃えませんし、アルミ箔でも小さく丸めればそう簡単には燃えなくなります。金属というのはほんの少しまとまっただけで燃えにくくなるのです。ただし、ナトリウム・マグネシウム・カリウムなどはある程度まとめてあっても火をつければ簡単に燃えてしまいます。

どんな状態でも燃えてしまう金属もある一方で、どんな状態であっても簡単に燃えない金属も存在します。金や銀など、反応性の低い金属です。

金塊や銀塊が燃えるなんて想像もできませんが、砂金や砂銀であっても燃えません。理論上は一定の条件下(超高圧状態)で火をつければ燃えるとされていますが、そこまでしないと燃えないのであれば、「燃えない金属」と言っても過言ではないでしょう。

燃焼も化学反応であり、他の物質と結びつきやすい性質を持った金属ほど燃えやすいのです。また、塩酸や硫酸などをかけられても反応しない金や銀は、当然空気中の酸素や水の中の酸素とも結びつき難いです。じわじわと反応することはあっても、炎をあげるようなことはまずありません。

また、燃えやすい金属は火をつけなくても徐々に表面が酸化して燃えにくい安定な酸化金属になってしまうので、きちんと保管しておかなければなりません。

金属の炎の成分、燃える金属原子

有機物の場合、燃料となる物質が気化・分離して微粒子として舞い上がって燃えることで炎が生まれていました。炎が生まれる原理自体は、金属も同じです。金属原子が微粒子となって空中で酸化しています。

しかし、それも簡単には行きません。炎によって熱を得た金属も、「熱を受ける面積(表面積)」に対して「熱を受け取る原子の数(質量)」が多いと熱が分散してしまい、金属原子が分離して舞い上がらず、金属の表面に留まって酸化し、奥にある金属に酸素が届かなくなるので燃焼反応となりません。

砂鉄や薄く伸ばした状態じゃないと燃えにくいのはそのためで、要は炎の元になる微粒子達が空に舞い上がるだけのエネルギーを受け取れないということです。燃えると言うのは次から次へと酸化反応が起こらなければならないので、表面から舞い上がってくれないと燃焼が続かないのですね。

ちなみに、炎の燃焼で生じる物質は酸化した金属であり、常温では固体です。炎と共に舞い上がってもそのうち降ってきます。有害な物質であることも多いので、吸引しないようにしましょう。

金属の炎の光、炎色反応

金属が燃えると聞いて真っ先に思い浮かべるのは炎色反応ではないでしょうか?

大半が炭素の燃焼時の色である木材や油の炎に対して、金属は金属毎に別々の光を出します。これが炎色反応と呼ばれるものですが、これは反応時に放出されるエネルギーによって変化しています。

ガスの炎が酸素や水素量によって青くなったり、赤くなったりするのは反応時のエネルギー量に違いがあるからですが、これらの光も反応時に放出されるエネルギーによって変わります。つまり、燃やす際の炎が高温であるか低温であるかで炎の色が変わって来ますし、金属の中に別の物質が入っていれば当然変色します。絶対的なものではありません。

まとめ

金属が燃える、燃やすというケースは日常生活では比較的稀です。

普通に生活していて金属の炎を使って何かをする事は稀で、炎と言う意味ではかなり活躍の場が少ないでしょう。しかし、炎の性質を理解する上では重要な物質の一つです。

 

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