光触媒を利用した人工光合成によって水素を作る
(人工光合成のしくみ_産総研)
電気分解と石油の改質以外で注目されているのが、光触媒を使った人工光合成の利用です。
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これは、光触媒を利用した反応で自ら水素を取り出すという反応で、植物の光合成と同じような原理で水素が作られています。この方法であれば水素の生成に石油も電力も必要ないため、最も理想的な水素の生成方法だと言えるでしょう。
光触媒は発見された当初こそ水素を作るための手法として注目されましたが、太陽光からのエネルギー変換効率が0.1%程度というその効率の悪さから忘れ去られてしまいました。現在では、光触媒を利用した抗菌作用に注目して様々な分野に活用されています。
しかし、そんな光触媒の技術も進歩しており、太陽光からのエネルギー変換効率が2%まで向上しています。これが電力からのエネルギー変換効率であれば最悪(発電所では40%程度)ですが、太陽光からのエネルギー変換効率ですのでそこまで悪くありません。太陽光発電ですら、発見された当時は1%程度でした。また、植物の光合成によるエネルギー変換効率が0.3%程度であることに比べれば、非常に高効率だと言えます。
この人工光合成の技術は、水素エネルギーを利用した燃料電池の進歩と共に再び注目されるようになり、変換効率が2011年から4年で5倍以上になっています。人工光合成による水素生成が実用レベルにするためには変換効率が10%程度は必要であると見られており、2022年の実現を目指して研究が行われているところです。
さらに、太陽光を使うといえば太陽光発電が有名ですが、太陽光発電のエネルギー変換効率が現在20%前後なので人工光合成の効率が2%程度なら太陽光発電で作った電力の電気分解で水素を作った方が良いですね。
ただ、太陽光発電も人工光合成も必要なエネルギーが太陽なので、同じような場所に同じような形で設置されそうです。将来的には、水素生成施設と太陽光発電施設が同じ所に出来るかも知れません。
- 利点
- 太陽光から直接水素を生成出来るのでクリーン
- 電気分解のように生成に電力などが全く必要ない
- 欠点
- 水素の生成効率が極めて低い
- 新規の設備投資が必要で光触媒も高価
水素がクリーンなエネルギーであるために
水素がクリーンなエネルギーであるための課題は非常に多いです。
電気分解をするなら「電気分解に使う電力はクリーンなのかどうか」
石油改質を行うなら「水素生成のためだけに石油が消費されていないか」
人工光合成なら「設備投資に使われたエネルギーを回収できる効率があるか」
などが考えられます。
人工光合成であれば効率は悪くてもクリーンなので問題はないのですが、あまりにも効率が悪いため、設備に使った資材の分だけのエネルギーが回収出来るかどうかが課題です。また、人工光合成と太陽光発電はどちらも太陽光のエネルギーを使っているという点で共通しており、現状は人工光合成の設備を作るなら太陽光発電の施設を作った方が有用ということになります。石油の改質は、水素エネルギー社会が広がるまでの過渡期に使われる事はあると思いますが、将来的には減らしていきたい製造方法です。
光触媒は研究途上であり、現実的には電気分解による大量生成となるでしょう。しかし、電気分解に使われるエネルギーがクリーンな再生可能エネルギーでなければならず、そちらの整備もまだまだ進んでいません。
まだまだ発展途上ではありますが、再生可能エネルギーへの転換はどちらにせよ進めていく必要があることで、その中で石油に変わるエネルギーとして水素エネルギーが広がっていくことになるでしょう。
そうして水素が大規模に利用されるようになれば、水素エネルギー社会を支えるインフラの普及が不可欠です。そこで、次回は水素エネルギー社会を支える水素インフラについて、お話していきたいと思います。
【第5回:水素インフラとは?水素エネルギー社会を形作る重要なシステム】