「武士(侍)と騎士が戦ったらどちらが強いのか?」
そんな比較が何十年も前から行われて来ましたが、なかなか答えの出るものではありません。全てが過去の別々の世界で起きた出来事だからです。しかし、それでも武士や騎士の生き様やその姿は強さの象徴として知られているため、誰もが気になる点です。
既に様々な比較記事や議論がインターネット上で散見されますが、それぞれが武器や鎧の比較であったり、生き方や技術の比較に終止し、なかなか納得行く答えに巡り会えません。そこで、本記事では出来る限り幅広い視点から、武士と騎士の強さについて考えてみました。
武士や騎士における強さとは何か?
まず、彼らが何をもって「強い」とするかから考えましょう。
「強い」というのは、基本的には何かが「優れている」ということです。では、何に優れているのか。
それは彼らの役目から考えると自ずと答えが出ます。彼らは主君に仕える立場であり、主君を守り、主君の望みを叶える使命があります。そのために、武士や騎士は自身の「知力」と「武力」を駆使して存分に活躍することでしょう。
しかし、武士と騎士の比較をする上で、「知力」の比較はまず無理でしょう。それこそ、文化や求められる知性が違うため、比較のしようがありません。そこで、必然的に「武力」の比較になるわけです。
武力の比較をするのも容易ではありませんが、主君を守らなければならない上に、彼ら武士や騎士はいわゆる戦いを生業とする人間です。彼らが負ける時は戦えなくなった時。つまり、「戦う能力を失うか、死んだら負け」ということです。単純な話ですね。
また、「武士道とは死ぬことと見つけたり」という言葉がありますが、何も犬死しろという意味ではありません。どちらかというと、「死を恐れずに勇気を持って行動しろ」的な意味に近く、死ねという意味ではないのです。
話を戻して、「動けなくなるか死んだら負け」だということは、最後まで戦闘力を維持していた方が勝ちということです。つまり、生きていたとしても「敗走」したり、「捕虜」になったり、「体力を喪失」した場合には負けと言えるでしょう。
どうしてこんな回りくどい定義が必要なのかというと、勝敗が決まるのは何も相手を武器で殺した時だけではないからです。
大怪我を負わせれば十分ですし、武器を壊したり、身動きを取れなくするだけでも勝ったと言えるでしょう。さらに、敵だけが武士や騎士の戦闘力を奪うとは限りません。「飢え」「寒さ」「暑さ」など、自然のあらゆるものが武士や騎士の戦闘力を奪います。
良くある比較だと、「武士の刀と騎士の鎧どっちが強い?」というような物が多いでしょう。しかし、鎧や武器の性能だけを見ても、「武士と騎士の強さ」は比べられません。それを着た人間が実際に戦場に出てみたらどうなるかを考えてこそ、正しい比較が出来るのです。
どんな視点から比較をするべきなのか?
さて、実際に比較する前に、簡単に比較項目について確認します。
- 武器の性能
- 鎧の性能
- 環境に対する適応能力
- 戦場における戦術
- 装備や戦術に要する費用
足りない可能性もありますが、比較項目は上の5つです。
当然ながら、武器の攻撃力や扱いやすさは比較せざるを得ません。また、鎧の防御力や動きやすさも重要です。これに関しては、その重要性について説明する必要はないでしょう。なんといっても、それを使って戦うのです。装備の良し悪しが戦いの結末を分けるのは至極当然の論理です。
あまり比較される事がありませんが、過酷な環境下でもその装備を使って戦えるのかという点での適応能力の比較を忘れてはいけません。現代の戦争でもそうですが、過酷な環境だと能力を発揮できなくなるのであれば、当然能力から差し引いて考える必要があります。
どんなに優れた武器を持っていたとしても、彼らの戦い方がそれにマッチしていなければ意味がありません。また、いくら優れた装備を持っていても、その装備で行える戦術が限られていたのでは簡単に対応されてしまいます。幅広い戦術や技術も強さを考える上では大切です。
そして、基本的に武士と騎士で全く比較に上がることが無いのですが、費用や消費についてです。第二次大戦が良い例ですが、ドイツ陸軍とアメリカ陸軍のどっちが強いかと問われれば、勝ったアメリカ陸軍が強かったと答えるのが正しいでしょう。しかし、ドイツ陸軍の装備は世界屈指でした。国力の差もありますが、複雑で高価な装備は数で負けるのです。弱くてもたくさん作れるのであれば、それは優位な点として考える必要があります。
ちなみに、比較する際に参考にする年代は「おおよそ15-16世紀前後」とします。というのも、騎士は銃の発達と共に戦士としての価値を失ってしまうからです。両者が最も発達していた時期で比較しましょう。
武士と騎士の武器について比較する
武士の武器
- 近距離:刀
- 中距離:槍・長槍・薙刀
- 遠距離:和弓・(前装銃)
武士の装備は、基本的には刀を腰に下げて槍か弓を持つというスタイルだったようです。
西洋のような武器のバリエーションはありませんでしたが、刀も槍も「斬撃」「刺突」が可能な特性を持っている事が殆どです。武士の武器を考えるとなると、刀と弓の性能に終始します。
刀については、「切れ味がよく」「扱いやすく」「耐久性が高い」という評価のようです。しかし、突く・斬るという機能に関しては一級品ですが、それ以外に特筆するべき特性がありません。言ってみれば、剣としての機能を極限まで追求した武器です。また、一般に刀という「打刀」を指しますが、これは長すぎず短すぎず、十分な戦闘力を維持しつつ携行が容易な刀剣です。槍や弓を持ちながら、いざとなったら刀を抜くという戦い方が出来るの魅力でしょう。
弓については、西洋のものと違ってかなり大きい弓が使われていました。大きいので少々取り回しに難がありますが、射程は長く高威力だったようです。短い弓もありましたが、弓の下側を持つ形で利用したため騎射が可能で、高い汎用性を持っています。
槍については、両刃で「斬撃」と「刺突」の双方が可能という特性があります。西洋の槍は刺突がメインであり、戦い方に合わせた使い方出来るでしょう。また、槍にも長さがあり、騎兵用の短い槍もあれば、歩兵が持つ対騎兵用の長槍もありました。十分な貫通力があり、足軽の主兵装でもあったことから扱いやすい武器でもあります。
まとめると、一つの武器で様々な状況に対応できるようにしているのが武士と言えるでしょう。
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