意外と重要な「通信手法」「排熱特性」「磁気特性」-潜水艦の機密情報(3)

磁気特性

磁気特性というのは、潜水艦が「どのような磁気を帯びているか」または「どれくらいの磁気を帯びるのか」ということです。

潜水艦の艦体は高い水圧に耐えるために全体が強固な鋼板で覆われており、その他にも様々な部位に金属部品を使っています。可能な限り磁気を帯びにくい金属を選んでいますが、プラスチック・木材・炭素繊維など軽量で磁気を帯びない素材を選べる水上艦艇とは違って多かれ少なかれ磁気を帯びてしまい、それによって地磁気が必ず乱れます。

この地磁気の乱れを検知して潜水艦を探す手法(磁気探知)があるのです。

言ってみれば潜水艦が近づいた時に方位磁石がどのように振れるかというイメージで考えると分かりやすいかもしれません。もちろん実際に方位磁石を使うわけではありませんが、磁気探知装置の原理はこれに近いものです。

水上レーダーや水中の音波ほど広い範囲で探知できるものではありませんが、気候の影響を受けやすい赤外線探知装置や水中で著しく減衰するレーダーに比べると、潜水艦の捜索においてはかなり使い勝手の良い手法です。

しかし、問題は潜水艦がどれくらい地磁気を乱すかという点にあります。

ステルス技術の一つに「船体消磁」と呼ばれるものがあり、これは潜水艦が帯びた磁気を除去する技術です。潜水艦や艦船が帯びた磁気を消すことができ、地磁気を乱さず航行することが可能となっています。とは言え、「船体消磁」は完璧ではありません。母港で行う強力な「船体消磁」は一時的なものですし、艦内に搭載できる消磁装置による消磁能力には限界があります。

問題は帯びる磁気の強さや地磁気の乱し方にあります。

地磁気が局地的に大きく乱れるようなら十中八九潜水艦や艦船なのですが、地磁気は常に多かれ少なかれ乱れています。そのため、ヘリや飛行機で空から探索する場合、深い位置にいる潜水艦や磁気をあまり帯びていない状態の潜水艦では地磁気の乱れが弱く、通常の乱れと区別がつかず、見逃すリスクが高まります。

この時に潜水艦の磁気特性を把握していれば、地磁気の乱れ方が微弱でも潜水艦を探知できる可能性があります。特に、その潜水艦が「磁気を帯びやすい欠点」を持っていた場合には尚更でしょう。

ただ、そこまで正確に磁気を探知できるものではありません。今はまだ過剰に心配する必要はないかもしれませんが、高性能な磁気探知機を搭載した機雷などが多数存在しており、秘匿しておくべき情報なのは間違いないです。

何が重要かを決めるのは情報を扱う側

ここまで3回に渡って潜水艦に関わる(機密)情報について扱ってきましたが、どの情報が重要かを決めるのは情報を扱う人間です。

ある人間が重要だと思っている情報は別の人間にとっては重要ではないかもしれませんし、その逆に重要ではないと思っていた情報が重要だと判断されることもあるのです。

太平洋では重要な「潜水深度」に関わる情報も、深度が浅いドーバー海峡では無意味です。また、待ち伏せや沿岸警備にしか使われないような潜水艦なら水中速力や潜水時間の情報が漏れたとしても大きな問題にはなりません。一方で、軽視していた排熱特性や磁気特性の情報についても、赤外探知装置や磁気探知装置の性能が飛躍的に向上すれば大きな意味を持ち始めるでしょう。

情報の価値は変化します。それに気づかないままでいると、知らない内に大きな損をするか、危険な目に遭うということは頭に入れておくと良いかもしれませんね。