スペースデブリの発生原因
宇宙開発の障害となりうるスペースデブリの発生原因は他でもない、過去60年間に行われた宇宙開発です。
この半世紀ほどの間に、実に5000回を超えるロケット打ち上げが行われました。現在主流のロケットは複数のエンジンを組み合わせた多段式ロケットと呼ばれるものです。多段式ロケットは複数のロケットエンジンを備えた構造になっており、それぞれを段階的に噴射して上昇。各エンジンには燃料タンクがついており、燃料タンクが空になればエンジンごと切り離すことができます。こうすれば上昇するにつれロケット全体の重量が減り、効率よく上昇させることができるのです。
このとき切り離されたロケットエンジンは回収されず、宇宙空間で切り離されたものはそのまま宇宙を漂い続け、大型のスペースデブリとなります。この他、機能停止した人工衛星やミッション中に投棄された部品などもそのまま軌道上に放置され、多数の大型デブリを発生させてきました。
アメリカの宇宙監視ネットワークが常時監視している大型デブリの数は2万個以上。総重量は7500トンにも上ります。
この他、軌道上での爆発や激突などが起これば微細なデブリが多数発生します。
こうした出来事の例は、切り離されたロケットエンジンの爆発、衛星兵器の影響、そして不慮の衝突事故があります。
ロケットのエンジンは燃料を使い切ってから切り離されますが、完全にタンクが空になっているわけではありません。微量に残った燃料はタンクの加熱などの要因で発火し、爆発を起こすケースもあります。
1961年に起きたアメリカのエイブルスターロケットの爆発は、そうした爆発事故の最初の例です。この爆発で高度800~1000kmの一帯に300個もの大型デブリが生み出されました。50年以上経った現在でも、そのうち60%近くがまだ軌道上を漂っています。
衛星兵器の影響でデブリが発生した事例として、2007年に中国で行われた人工衛星破壊実験があります。このとき中国は、運用が終了した自国の気象衛星を弾道ミサイルで攻撃。高度800km地点に3000個近い破片が散乱し、一帯のデブリの量を25%増加させる事態となりました。
不慮の事故による人工衛星の事故でデブリが発生した最初の事例は、2009年に起こりました。アメリカの通信衛星イリジウム-33とロシアの軍事通信衛星コスモス-2251がシベリア上空約800kmで衝突。アメリカ宇宙監視ネットワークがこれによって発生した大型デブリ2000個以上を記録しました。
(衝突事故から50分後のデブリ飛散状況:出典_Wikipedia)
スペースデブリ対策
ここまで、宇宙での活動がスペースデブリの発生原因となる実例を見てきました。ということは逆に言えば、ロケットや人工衛星を打ち上げ、宇宙で活動する際のルールを定めることでデブリの増加を緩和させることができるということです。
事実として、NASAや国連がこれまでにスペースデブリ発生緩和のためのガイドラインを公表しています。その中からいくつか対策を見ていきましょう。
一般的に行われるのは、ミッション関連デブリ(Mission-related debri)の削減です。ミッション関連デブリとは、宇宙空間でのミッション中に意図的に人工衛星本体などから切り離される物体全般を指します。例えばレンズやセンサーの防護カバーや、何らかの留め具がこれに当てはまります。こうしたデブリは数こそ少ないものの、衛星軌道上にとどまる時間が長いため、発生を防ぐことは有効な手立てとされています。現在では切り離される前提の部品はあらかじめケーブルでつないで回収できるようにするか、切り離した後にキャッチできるような仕組みが広く活用されています。
使用期間を過ぎた人工衛星の処分と、それをやりやすくするための設計もデブリ緩和策のひとつです。
低軌道の人工衛星の使用期間が終わる場合、衛星の高度を下げて25年以内に大気圏に突入するようにすることが推奨されています。大気圏に突入して燃え尽きてくれれば、それで処分は完了。
反対に高度を上げ、人工衛星の密度が低い高度2000kmの地帯に逃がすという方法もあります。こちらは静止軌道を回る衛星に対して使われる場合が多い方法です。静止軌道は高度が高いため、大気圏に突入させるよりも高度を上げる方が燃料を使わなくて済むからです。
宇宙空間での爆発を防ぐためには、パッシベーション(passivation)という対策が取られます。軌道上でのロケットエンジンの爆発を思い出してください。宇宙に残された人工衛星の残骸も、燃料が残っていれば爆発する危険性があるのです。それを防ぐために燃料を投棄し、バッテリーを空にして、発火装置を封印するのがパッシベーションです。
デブリ緩和には人工衛星の設計も重要になってきます。可能な場合は使用済みの人工衛星を大気圏に突入させるのですが、その時に衛星が燃え尽きず、地上に落ちてくれば大事故につながります。それを防ぐためには、大気圏突入時に十分細かいサイズまで分割され、個々のパーツがちゃんと燃え尽きるように設計する必要があるのです。
この他に、もう一つの軸として、積極的にデブリを除去することの必要性が叫ばれています。
欧州宇宙機関とNASAが行ったシミュレーションでは、今後一切の打ち上げを行わない場合でも、スペースデブリの総量は増えていくという計算結果が出ています。デブリ緩和策は確かに有効ですが、同時に数を減らすための対策が必要なのです。
欧州宇宙機関はスペースデブリの除去を目的としたクリーン・スペース・イニシアチブを推進しています。現在ネットやロボットアームで機能停止した人工衛星を捕獲する方法を研究中で、2023年からプロジェクトを開始する計画です。
デブリ除去に取り組んでいるのは公的機関だけではありません。
シンガポールで日本人が立ち上げたベンチャー企業「アストロスケール」は、企業の立場からスペースデブリ問題に対処しようとしています。
同社は使用済みの人工衛星などの大型デブリに処分用の人工衛星を吸着させて軌道を変え、大気圏に突入させることで処分します。「ELSA-d」と呼ばれるこのシステムは2019年前半に打ち上げが予定されています。
加えて、IDEA OSG1という衛星の打ち上げも実施予定です。こちらは低軌道に存在する大きさ100マイクロメートル以上のデブリの情報を収集し、デブリの「地図」を作成するための衛星。IDEA OSG1が作る地図は将来の宇宙開発に役立てられることが期待されています。
(ELSA-d実験模式図:出典_アストロスケールHP)
まとめ
宇宙は遠い彼方のようでありながら、地球の衛星軌道上にある衛星からはGPSや衛星写真、長距離通信などのさまざまなサービスが提供されています。なのでスペースデブリは、身近なテクノロジーにも影響を及ぼしうるのです。
今後宇宙探索が進むにつれて人間と宇宙の関わりはどんどん広がりを見せていくことでしょう。しかしその前に、もう少し地球に近い周辺に注意を払い、探索や開発の足かせとなりうるデブリ問題への対策をしっかりと行うことが重要になってきます。