F35を護衛艦いずもに載せると自衛隊の戦術はどう変わる? -F35特集(4)

防衛型空母か攻撃型空母か、飛行場だけじゃダメ?

いずも型の改修案が「防衛型空母」と呼ばれるのは主任務が前述のような防衛任務になるからですが、これを「攻撃型空母」と呼ぶ動きもあります。これはどうなのでしょうか?

敵基地の攻撃には「戦闘機」の他に「攻撃機」「電子戦機」「偵察機」が必要で、搭載機が10機前後のいずも型の場合、単独で全ての任務をこなせるF35であっても、艦隊の護衛に何機か残したら攻撃に使えるのは6-7機となるのでかなり心もとない戦力となります。

それでも、レーダー施設やミサイル施設をピンポイントで破壊する任務は十分にこなせるので「攻撃型空母」と言えなくもないのですが、少々名前負けという感じです。ただ、いずも型2隻を同時に投入すれば20機前後の同時運用が可能となるため、敵基地の航空機・車両・司令部などをまとめて撃破することができるかもしれません。2隻の空母を保有している場合、普通は整備のために艦隊を分けてローテーションで運用するので現実的な作戦かどうかは別にして、無理をすれば大規模な攻撃にも使えるということです。

それ以前に「飛行場から発進するF35Aがいれば大丈夫じゃない?」という考え方もあります。戦闘機部隊は空軍基地以外でも一時的に地方の飛行場に駐留させることができるので、各諸島に小規模な飛行場があることを踏まえれば、リスクが増大した時に合わせて飛行場にF35Aを配備すれば良さそうです。

奇襲を受けるかも知れないと言っても、空母を運用する場合でも予めその近海に配置していなければならないので同じことです。艦隊防衛には飛行場が使えないこともありますが、空母を運用するよりも、イージス艦を増やすか汎用護衛艦の性能を上げる方が安上がりかもしれません。

ちなみに、短距離離着陸が可能なF35Bはジェット機が配備できないような小さな飛行場にも配備できるため、空母を使わなくともF35Bだけでも大きなメリットがあります。

こう考えてみると空母は意外と要らなそうに思えます。そもそも、空母を保有している国の方が少数派で、中国でさえ最近になって初めて空母を使い始めたばかりです。「防空は飛行場任せ」が大半の国の常識なわけで、「防衛型空母」という単語そのものに違和感を覚える人も少なくないでしょう。

ミサイル攻撃やステルス機の脅威

ただ、現実的な脅威を想定すると話はそう簡単ではありません。弾道/巡航ミサイルによる空爆とステルス機の存在です。

動かない飛行場は弾道/巡航ミサイルの格好の的です。弾道/巡航ミサイルの迎撃にはイージス艦やパトリオット級の高性能迎撃ミサイルシステムが必要ですが、大半の飛行場に配備されていませんので、あっさり壊滅します。

F35部隊と合わせてイージス艦かパトリオット部隊を展開する必要がありますが、核ミサイルと違って通常の弾道ミサイルは気軽に打てますし、巡航ミサイルに至っては無人機感覚で使ってくる場合もあるため、全てを防ぐのは困難です。ミサイルによる攻撃を受けた場合、離島の飛行場は簡単に壊滅します。

また、敵のステルス機も厄介です。飛行場と防衛するべき拠点が離れていた場合、レーダーで発見してからのスクランブルでは間に合いません。空中給油機を使って予めF35を空中で警戒させておくしか、ステルス機による奇襲に対抗する方法はないでしょう。

空母の場合、こうしたリスクを最小限にできます。移動する空母にミサイル攻撃をするためには偵察機や衛星などで発見した上で攻撃しなければなりません。運良く見つけられたとしても、弾道ミサイル・巡航ミサイル共に移動目標に対する長距離攻撃はそれほど上手くいきません。

移動目標に攻撃する場合、GPSやジャイロ誘導で大まかな位置に飛ばした後はミサイルが勝手に目標を探します。いずもの最大速度は時速50km以上なので、巡航ミサイルが到着する頃には数キロ離れた場所に移動していたなんてことも起こります。上手く艦隊を発見し、イージス艦の迎撃を受けてミサイルが生き残ったとしても、他の目標を攻撃してしまったりチャフやスモークの欺瞞に騙されたりする可能性があり、大規模なミサイル攻撃で艦隊に護衛されている空母を無力化することは容易ではありません

ステルス機の奇襲を受けても、現場付近に展開していれば間に合わないというケースも少ないでしょう。もちろん、発艦する間も無いほど近づかれてしまった場合はどうしようもありませんが、どちらにせよその時はどんな対策も通じません。

まだまだ先の話

いずもの空母化構想は始まったばかりでどうなるかわかりません。予算に見合わないとか、国の方針に合わないと言う形でも見送られる可能性もあるので実現するかどうかは不明です。ただ、実現すれば艦隊や航空機部隊の運用に柔軟性が増え、防衛力は確実に強化されます。

また、実現にはいずもの改修の他に、搭乗員の訓練や海自と空自の連携強化などやることは山積みです。一朝一夕でできることではないので「いずもを空母化しよう」と決めたところで、実際に運用が始まるのは5-6年後になるでしょう。それでも「こんな風になるかも」とイメージすることで、日本の国防を真剣に考える機会になるのではないでしょうか。