人工知能が映像を合成し、映画や写真が大きく変わる

人の顔の画像を人工知能によって自動生成する技術は大きく進歩しました。実在する人間の顔と区別できないレベルになっています。

素晴らしい技術の進歩です。凄いというだけで終わるのは勿体無いでしょう。なぜなら、これが意味するところは人間の映像を作るのに本物の人間が必要なくなるということだからです。私達が知らない内に、ファッション雑誌やグラビアに掲載される人間が自動生成されたものになっているかもしれません。

人間の顔を区別できるなら顔も作れる

人工知能の画像認識技術を使えば、人の顔を見分けることができるというのはすでに常識です。ところが、人の顔を見分けられるなら、人の顔をも作ることができるというのはあまり理解されていないのではないでしょうか。

「GAN(Generative Adversarial Network)」と呼ばれる技術が好例なのですが、これは「顔を見分ける人工知能」と「顔を作る人工知能」を用意して、「作った顔」と「本物の顔」が区別できなくなるまで学習させる技術です。

顔を見分ける人工知能はすでにあります。問題は顔を作る側です。理想を言えば、顔を作る側にもある程度の事前学習を施して少しは顔っぽいものが作れるようにしておくべきですが、その方法が分からないのであれば本当に適当に画像を作らせてしまっても良いかもしれません。

適当に作った画像の中で人間の顔に似たものが偶然できあがり、見分ける側がそれを人間の顔だと判定してくれれば、それを参考に色々な人間の顔を作っていけば良いだけです。繰り返し繰り返し作りながら、人間の顔の作り方を学びます。

GANは全体では教師なし学習のシステムですが、実際にはシステムの中に「教師役」と「生徒役」がいて、共に成長していると考えても良いでしょう。何にせよ、正しく見分けられるならいずれ作れるというわけです。

すでに様々な画像が合成されている

以下はGANを使って生成された画像です。
Gif画像になっていて、様々な画像がアニメーションの形式で並べられています。

prosthetic knowledge

これを見ると分かりますが、人の顔以外にも動物・乗り物・建物・家具と様々なものを合成していることが分かります。また、上手くできているものもあれば、歪んでしまっていたりボケてしまっていたり上手くいっていないものちらほら存在します。

3次元だけではなく、2次元のイラストの自動生成も可能です。以下の画像はGANで作ったイラストです。

 
Chainerで顔イラストの自動生成


Chainerを使ってコンピュータにイラストを描かせる

よく見るとそこまで綺麗なイラストではないのですが、それっぽい画像が多数作られていることが分かります。イラストレーターなら安心するところですが、これは学習期間が短いですし、2015年と古い実験結果です。本格的に研究すれば、綺麗なイラストを描ける人工知能が登場するのも時間の問題なのですが、アニメ業界が本腰を入れて研究を始めたという話は聞きません。

画家であるレンブラントの作風を真似て人工知能が絵を合成するなんてことはすでに行われています。画家と同様に、イラストの場合は同じキャラクターの絵でも描き手によって画風が違いますし、それこそ「特定のイラストレーター風」のイラスト合成になりそうです。しかし、そちらの方が使い勝手は良いでしょう。アニメーターの労力を減らす手助けにはなります。

実在しない人間が登場する雑誌や映画が生まれる

3DCGを駆使して人間そっくりの女の子を作ることはすでに可能です。こちらは人間のセンスの成せる職人芸であり、人工知能による合成技術とは別物ですが、どちらのケースでも、人間そっくりだけど実在しない人間を映像の中に作り出せるという点では同じです。

では、この技術で何が変わるのでしょうか? 
難しいことはなく、単純にイラスト感覚で人の写真が使えるようになります。

雑誌の編集者であれば、モデルとカメラマンと衣装を準備し、衣装を替え、ポーズを替え撮影していたところがソフトウェアを弄るだけでファッション誌に乗せる画像が作れるようになりますし、スタイルに自身があるなら顔だけ合成画像に差し替えて自分の写真や同僚の写真を使うのも手軽です。

今のところは静止画の合成が中心ですが、今後は動画の合成も行われるようになります。そうなると、CG映画を作る感覚で実写のような映画が作れるようになり、アクションシーンやファンタジックな世界観の再現が容易になるでしょう。すでに映画の世界では合成技術がふんだんに用いられていますが、これらは殆ど技術者による職人芸によって作られており、コストと時間がかかっていました。これが人工知能によって変わります。

10年後には高校や大学の映画研究会が作った映画が現代のハリウッド映画並のクオリティになっているなんてこともあるかもしれません。なんにせよ、人工知能によってCGと実写の境界はどんどん曖昧になっていき、映画製作にかかるコストも減っていくはずです。