盲腸は切っちゃダメ?要らない子と呼ばれた虫垂の大切な役割

ただ、「盲腸で手術が要らない」と言う可能性は、近年非常に高くなってきています。原因が細菌などの過剰発生である異常、抗生物質での治療が可能です。部位や原因がはっきりしているため、適切に効く抗生物質も増えてきており、薬物療法での治療も可能になっています。

しかし、盲腸がある以上再発の可能性があり、異物が入り込みやすくなっていた場合は高い確率で再発する事になります。そのため、虫垂炎を外科手術で取り除かない理由としては、「手術の傷」や「入院」が手間だという程度でしか無く、「腹腔鏡手術」など、小さな穴を開けるだけで手術できる手法が確立された今となっては、虫垂を取り除くためのハードルが非常に低くなりつつあります。

虫垂が備えていた人体に必須の機能

問題を起こしやすい要らなそうな器官とはいえ、免疫系に重要なリンパや抗体を作る機能を備えていたり、草食動物などでは植物の消化に必要な細菌を蓄える貯蔵庫としても機能しています。これだけ聞くと重要な器官なのですが、それだけであれば人間は別の器官で代用したり食べ物から直接摂取することが可能で、無くても代用が出来るレベルなのです。腎臓が二つあるからと異常が起きたら問答無用で切られる様に、代用が出来るなら要らないのです。

虫垂の機能については、様々な研究によりある程度は明らかになっていましたが、今までの見解としては、「虫垂が持つ機能は、人間の食生活の発達や衛生管理・医療技術の発達により不要になった退化器官」と言うのが一般的でした。つまり、栄養面や衛生管理と言った面で不安のある途上国などでは必要になることもあるが、先進国の衛生・栄養レベルであれば要らないと言う程度の器官と言う認識だったのです。

しかし、この度の研究で、「虫垂にしか出来ない機能」として、IgA陽性細胞の生成というのが発見されました。

IgA細胞というのは、免疫グロブリンA細胞と呼ばれており、ここ10年の間に注目されるようになった細胞です。腸内細胞の免疫機能において、最も重要な細胞だと考えられており、腸内細菌のバランスを整える働きがあります。腸内バランスと言うと、乳酸菌を思い浮かべますが、この乳酸菌もIgA細胞の生成の手助けをしています。つまるところ、乳酸菌でお腹の調子が良くなるのは、虫垂で作られる細胞の働きを補助しているから、と言う言い方も出来ます。

 zu

 

この上の図の、ナイーブB細胞というのが虫垂で作られる細胞であり、この細胞がIgA陽性細胞と言う細胞を生成し、IgA細胞は腸内の細菌のバランスを整えています。細菌のバランスを整えると言うのは、具体的には増えすぎた細菌の活動を抑制し、必要な細菌の活動を活発化させることを意味します。

つまり、虫垂を切除することでIgA陽性細胞が少なくなると、細菌が過剰に増えすぎることで発生する、「炎症性腸疾患」や「食中毒」などの病気にかかりやすくなるということを意味します。

虫垂の切除は実はヤバかったのか?

え、じゃあ虫垂って実は切除しちゃダメだったの?

絶対にダメだということではないようです。まず、IgA細胞は常に作り続けなければいけない細胞ではないため、一旦虫垂が作った後は、腸内には必ず残り続けています。排泄とともに消えてなくなるわけでもないので、切除してすぐにお腹の調子が悪くなるということも無いでしょう。さらに、パイエル板と呼ばれる小腸内の器官でもIgA細胞を生成しています。

しかし、少なくとも虫垂にそう言った重要な機能が備わっていることがわかったので、今後は安易に取り除く様な事は少なくなるかもしれません。切ったとしても、腸内バランスを整えるための食生活や薬物療法などでフォローする事も可能であり、重度の虫垂炎であれば切除する事になるでしょう。

何にせよ、人体の不思議が一つ解明され、健康的な生活を送るための知恵が一つ追加されたことは喜ばしい限りです。

ところで、虫垂が尾てい骨の様な草食動物時代の退化器官ではなく、人体における重要な器官であることがはっきりしましたが、他にもそう言った器官はあるのでしょうか?個人的には、男性の乳首は要らないような気がしますが・・・実はあれも何かに使うのでしょうか?