ホルモンとは?種無しブドウが教えてくれるその重要性

ホルモンとは何かご存知ですか? 実は色々なものをホルモンと呼ぶことがあるので、一言で答えられる人はいないはずです。ホルモンと聞いて肉を思い浮かべても正解ですし、女性ホルモンや男性ホルモンも正解です。環境ホルモンなんかも時々耳にするのではないでしょうか。

肉のホルモンは除き、ホルモンというのは生き物に作用する一種の「情報伝達物質」です。情報伝達と言うと電気信号などのイメージがありますが、ホルモンとやらは情報伝達によって一体何をするのでしょう。その答えを1番分かりやすい形で表しているのが実は「種無しブドウ」です。ホルモンの正体と種無しブドウの関係について、本記事では簡単に解説していきます。

ホルモンって何?

ホルモンとは、肉の部位における内臓のこと。でも良いのですが、ここではそのホルモンではなく、生体の情報伝達物質として作用するホルモンについて扱います。ちなみに、情報伝達物質となるホルモンが内臓で作られていることから栄養価の高い内臓肉をホルモンと呼ぶようになったらしいので、無関係ではなさそうです。

さて、本題に入りましょう。実は、ホルモンの解説として情報伝達物質なんて言い方をするのはかなりアバウトな説明なのですが、ホルモンという単語自体も結構示す範囲が広く、かなり色々なものが含まれています。

例えば、興奮作用を持つ「アドレナリン」や血糖値を抑える「インスリン」、眠気をコントロールする「メラトニン」もホルモンの一種です。これらがどんな情報を伝えているかというと、アドレナリンは「ピンチだぞ、本気を出せ!」ということですし、インスリンは「血糖値が高いから下げようよ」ということになり、メラトニンは「寝る時間でーす」ということを伝えています。

女性ホルモン」は生理のコントロールや女性的な体の成長を促進しますし、「男性ホルモン」は精子の生成や男性的な体の成長を促進する作用を持ちます。そして、これらは「ステロイドホルモン」の一種です。

「ステロイドって炎症を抑える薬じゃないの?」という話については別の記事にて解説していますが、薬のステロイドも結局ホルモンのことを指しており、ホルモンの持つ情報伝達作用を利用して炎症を抑える薬として利用しているわけです。言ってみれば「炎症を起こす必要はないよ」という情報をステロイド薬で伝えるわけですね。

ホルモンはこのように、様々な形で体の機能を正しく働かせるための情報伝達を行っています。要するに、何でも良いから情報を伝える能力を持ち、その結果として体の機能に何らかの変化が起こるのなら、それはホルモンと呼んで差し支えないわけです。

だとすれば、様々なものがホルモンになり得るそうです。

植物だって成長する際に様々な情報のやり取りをしているはずですし、体の中には存在しない外の環境の物質が体の中に入り込んで意図しない情報を伝える可能性もあります。そして、植物に作用するホルモンなら「植物ホルモン」と呼ばれますし、環境に存在するホルモン的な物質は便宜的に「環境ホルモン」と呼ばれます。

ただ、ホルモンというのは厳密にはその生体内で作られる物質なので、体外で作られる環境ホルモンは正確には「内分泌かく乱物質」と呼ばれ、ホルモンには含まれません

これは環境ホルモンが体内に入ると正常なホルモンの働きを妨げ、正常なホルモンの作用を受けて働く内分泌系を誤作動させる(撹乱させる)ためにそう呼ばれます。ダイオキシンなどが環境ホルモンとして知られていますが、環境ホルモンは基本的には生物に悪い作用を引き起こすものをさすので、悪いイメージがつきまとうのですね。

種無しブドウは植物ホルモン活用の好例

確かに、体の中に本来存在しない情報伝達物質が入ってくれば悪い作用も起こるでしょう。しかし、ステロイド薬のように、体の中に本来存在するホルモンを人為的に作り、正しく活用することができれば良い作用も引き起こせるはずです。ただ、ステロイド薬には副作用もあります。

体内に無数に存在するホルモンは互いに作用しあっており、しかも1つのホルモンが複数の作用を持つこともザラです。それが絶妙なバランスで保たれているわけで、人為的に特定の目的のためにホルモンを投与すれば、予期せぬ副作用が起こるのも当然でしょう。

しかし、この副作用が人間にとって良い方向に作用することもあります。それが「種無しブドウ」です。

「良い方向に作用してそれを目的に薬を使ったらそれは副作用とは呼ばない」という話は横に置いておきましょう。種無しブドウを作る際には「ジベレリン」と呼ばれる植物ホルモンを使います。ジベレリンは植物の成長を促進する働きを持っており、ブドウの場合は受粉して生まれた種が果実を作るために生成するものです。つまり、ジベレリンは「種ができたから果実を作ろう」という情報を伝達する物質になります。

そうです。果実というのは地面に落ちた後に種が成長するための栄養になったり、動物に食べてもらうための当分を蓄えたりする機能を持ちます。本来の目的を鑑みれば、種が存在しなければブドウは果実を作る意味がありません。しかし、種無しブドウではこのジベレリンをブドウの種ができる前に人為的に投与するのです。

ジベレリンを投与されると、ブドウは種が果実を作りたがっていると思い込み、果実を作ろうと栄養をブドウの房に送り出します。ところが、このジベレリンは人間が人為的に投与したものであり、そこに種はありません。種がないまま房が大きくなり「種無しブドウ」が誕生するわけです。

果実がすぐにできて、しかも種もないなんて完璧過ぎる結果です。全てのブドウをそうやって作れば良いのですが、ジベレリンの投与は房の1つ1つに手作業で行わなければならず、房が急に膨らむため、窮屈にならないように間引きする作業も必要です。簡単なことではありません。

ちなみに、前述のようにジベレリンは種がブドウの果実を作るために作り出すものなので、人間が食べても影響はありません。普通のブドウにもジベレリンは含まれています。

まとめ

ジベレリンの本来の作用は「果実を作ること」なので、種ができる前にその作用を起こせば種無しブドウができるのも当然です。賢い方法ですが、人間で似たようなことをやると問題が起こります。

女性ホルモンの一種である「エストロゲン」には胸を大きくする作用があり、男性であっても投与すれば女性のように胸が膨らみます。人間で種無しブドウの逆ができてしまうわけですが、エストロゲンには豊胸作用以外にも様々な作用があるため、投与するタイミングや量を間違えれば強い副作用が起こります。

ホルモンの有効利用は簡単ではありません。ホルモンの作用を完璧にコントロールすることは非常に難しく、よく分かっていないことも多いのです。「種無しブドウ」も偶然の産物で発明されただけですし、まだまだ研究が必要な分野です。

それでも、ホルモンは生物にとって大きな可能性を秘めている物質です。ホルモンの研究が進めば、様々な問題の解決に繋がることでしょう。