ニホンオオカミとは何だったのか?狼の再導入による生態系再構築に光

ニホンオオカミと言う狼をご存知だろうか?

1905年に発見されたのを最後に発見されなくなり、絶滅したとされる狼だ。日本以外では生息せず、北海道に生息していたエゾオオカミも絶滅したことで日本には狼がいなくなってしまった。

狼がいなくなったことで、狼を天敵としていた動物達が大繁殖し、日本における自然の生態系が大幅に崩れ始めている。生態系を取り戻すには狼を再び日本に導入するのが一番だが、そこには様々な問題が存在している。

最近のニホンオオカミの研究と共に、日本の本来の自然環境を再構築するためにはどうすれば良いのかについて考えてみる。

ニホンオオカミはタイリクオオカミの亜種だった

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狼というのはイヌ科に属する種で、一般的に人間が飼育している犬との身体的な違いは少ないのです。そもそも、犬が人間に飼育されて家畜化した狼であると言う背景もあり、基本的にはただの巨大で獰猛な犬であると言えます。

とは言え、それだけで十分危険極まりないのですが、ニホンオオカミと言う狼は世界中の狼と比べてもかなり小さい・・・言ってみれば、犬っぽい狼だったことが分かっています。日本という山の多い島国で生活するために進化した狼は、他の大陸で見られるような狼とは違ってかなり小さく、軽快に山などを登れるような体つきになっています。

ヤマイヌと呼ばれた野犬とニホンオオカミが同一種であったという意見も存在し、ニホンオオカミはかなり犬に近かったようです。そんなニホンオオカミは骨格的に見る分には、世界中に分布しているタイリクオオカミ系統とは一線を画す存在で、日本の固有種であると言う意見も存在していました。

ところが、最近のDNAなどを用いた研究によって、ニホンオオカミのDNAがタイリクオオカミと比べて大きな差異が無いことがわかりました。これはつまり、ニホンオオカミがタイリクオオカミの亜種であるという事になります。

どういうことかというと、ニホンオオカミは日本で生まれた種族ではなく、まだ日本が大陸と地続きであったころに日本に渡ってきたタイリクオオカミが日本で独自の進化を遂げて、ニホンオオカミになったということです。

これはつまり、タイリクオオカミを品種改良することによってニホンオオカミに近いオオカミを作れるということを意味しています。

ニホンオオカミの絶滅

日本で生まれたわけではないとはいえ、日本で人間以上に長い年月を生き続けたニホンオオカミが何故絶滅してしまったのでしょう?

かつては日本全土で広く見ることが出来たニホンオオカミでしたが、その個体数は江戸時代を境に年々減少を続け、1900年に入った辺りで殆ど見られなくなり、絶滅してしまいました。

その原因は、森林開発よる餌の減少や駆除などの人為的な要因に加え、西洋から来た犬が持ち込んだ病気の流行にあると言われています。

狼と言うと人を襲うイメージがあり、人間世界が広がるにつれて狩り尽くされたと思われがちですが、農耕民族である日本では農作物を荒らす草食動物を駆除してくれるありがたい存在として崇められている地域もありました。

確かに人を襲うこともあり、家畜を食い殺してしまう事もある狼ですが、人は自然界で最も脅威度の高い種族です。ニホンオオカミはクマなどに比べると遥かに身体が小さく、狼が一匹であれば、成人男性が一人で追い払うことも不可能ではありません(噛まれたらアウトですが)。そんな狼が積極的にリスクを犯して人里を狙う可能性は低く、熊など同様に、十分な餌(草食動物など)がある限りは人里に出てくる事もありません。

そんな狼ですが、人間の生息域が広がり人口が増え、狩猟により草食動物の数が減少してくると、餌が足りなくなった狼が人里に現れるようになり、狼が人間の敵であると認識されるようになります。そこから駆除が始まり、さらに生息域が狭まり、そこに新種の病気が広まれば、どんな動物でも絶滅してしまうでしょう。

生態系の乱れと再導入の必要性

 こうして狼が日本からいなくなったことで、鹿や猿など狼を天敵としていた動物が大量発生して生態系が乱れました。これにより、特定の動物が大量発生し、特定の植物などが食べ尽くされ、食べ物を失った動物の大量死が発生するなど深刻な生態系の変化が起こるようになります。

生態系と言うのは、数万年と言う歳月の中で絶妙のバランスの上で構築されてきました。そこで、人間が急激な発展した事で、徐々に自然の生態系が崩れつつあります。自然の生態系が崩れすぎると、自然環境が激変し、更に多くの動物達が絶滅するなど更なる生態系の変化を引き起こします。

これを防ぐために、生態系が崩れた自然環境を改善するために、駆除してしまった肉食獣などを放獣して、生態系を再構築する試みが存在し、実際に成功を収めている地域も存在(イエローストーン国立公園)しています。猟師による積極的狩猟と言うやり方も存在しますが、日本の猟師の数は年々減り続け、お金になら無い狩猟を行う人も減り続けており、現実的な方法とは言えません。

日本でも狼の再導入の計画自体は存在していましたが、日本という特殊な環境の生態系の一翼を担ってきたニホンオオカミが絶滅してしまった事で、再導入は難しいだろうと考えられてきました。しかし、近年の研究でニホンオオカミがタイリクオオカミの亜種であったことが分かり、タイリクオオカミでニホンオオカミの代用が十分に可能であることがわかりました。

品種改良などを行って、よりニホンオオカミに近づけるようなプロセスは必要でしょうが、タイリクオオカミで十分可能であると言えます。問題は百年前にオオカミ達が存在した環境と比べると、今の日本は大きく変わってしまっているということです。

オオカミの存在しない日本で、オオカミへの対処法など知らない日本人。

ひとたび餌を求めて市街地に出れば、野生動物などほとんどおらず、要るのはペットか人間たち。放獣された地域で十分な餌を取れなかったオオカミが、市街地に出て人間に危害を加えないとは言い切れません。そんな時、対処するのは数の減った猟師ではなく、拳銃しか持っていない警察官かも知れません。

果たして、今の日本の自然の中で・・・オオカミは自分の生き方を見つけることが出来るのでしょうか?