飛ぶために進化した鳥達(後編):オオワシ、アホウドリ、ハチドリ・・・環境に応じて進化した鳥

前編では、鳥全般に言える翼の扱い方や羽ばたきの意味、羽根や身体の構造について触れましたが、ここでは特定の鳥の特徴に焦点を当てていきたいと思います。その中でも、翼の大きな大型種「オオワシ・アホウドリ」や、重さが数グラムしかない超小型種「ハチドリ」の普通の鳥との違いについて簡単に見て行きます。

大型種はその重量のせいで羽ばたきに必要なエネルギーが大きく、羽ばたける回数に大きな制限があります。一方、小型種の中にはその体の小ささを活かしてホバリング飛行を可能した種もいます。彼らはどのようにして、空を飛んでいるのでしょう?

前回:「飛ぶために進化した鳥達(前編):飛び方・体・翼に至るまで、飛行を追い続けた生物

大型の陸鳥「オオワシ」―滑空と上昇気流

20140921

オオワシは水辺に住む鳥で魚なども主食としているものの、大きく外洋に出て行くことはないため陸鳥に分類されます。

タカ目に属するオオワシですが、鳥の中でも非常に大きな鳥であり、爪の力も強く、人間を除き天敵らしい天敵が存在しません。しかし、その大きな身体を飛ばすための巨大な翼を動かすエネルギーは他の鳥に比べて膨大であり、雀の様にパタパタと動かした日には圧倒言う間に力尽きて墜落してしまいます。

鳥は翼が大きいほど飛びやすくなりますが、その分羽ばたきに必要なエネルギーは増加します。大きな翼による飛行力と必要エネルギーの割合では、必要エネルギーの方が多いため、基本的に鳥の場合「飛ぶために翼を大きくする」ことに関してはデメリットしかありません。これは飛行機にも言える事で、大型機は荷物を運ぶと言う目的があるため大きな翼を持っているというだけで、飛行力と言う点では小さな小型機の方が有利です。

ただ鳥の場合、大きな身体と大きな力は天敵を減らし、生存競争に勝ち残ると言う点では有利です。そこで、オオワシやタカ目の大型の陸鳥は、羽ばたかずに飛び続ける手段を獲得しました。それが「滑空」です。

滑空というのは、所謂グライダーのように推進力を使わず、翼を大きく広げて動かさない状態で飛行する事を良います。飛行機には動力が付いていますが、動力を切って飛行した場合も滑空と呼べます。

前編でも説明したとおり、羽ばたきとはあくまで推進力を得るための行為です。推進力を得て、空気を翼で切り裂くことで揚力という上昇する力を得て空を飛びます。つまり、ある程度速度が出れば羽ばたく必要はありません。しかし、空気には抵抗(粘性)があり、それは空気に接する面積が多ければ多いほど大きくなります。空気抵抗を受ければ、当然速度が落ちるため、速度が落ちれば揚力も落ちて飛びにくくなります。

一見すると、大型鳥の方が抵抗は大きそうですが、その分重さも大きくなるため、空気抵抗によって受ける減速度合いは小型の鳥より小さいのです。小型の鳥は空気抵抗を受けてすぐに減速してしまいますが、大型の鳥は減速度合いが小さく、一度の羽ばたきで得たスピードを小型の鳥よりは持続できます。つまり、大型で大きな翼を持っている方が、滑空には有利なのです。

問題は速度を保てても、一定速度を切ると徐々に降下していくことです。その度に羽ばたきで加速していたのでは、エネルギーロスが大きく、長く滑空していられません。そこで、大型の陸鳥達は山や熱などの影響で安定しない気流を利用する事を考えました。それが上昇気流の利用です。

地上では山の影響で気流が変化します。さらに、川や岩、草原や森は太陽の熱の溜め込み具合がバラバラで、場所によっては太陽熱の影響で上昇気流が発生している場所があります。これらの上昇気流を大きな翼で受け、上昇気流を通り過ぎないようにその場で回りながら上昇していきます。

グライダー飛行などでも利用されているテクニックであり、陸鳥ならではの技と言えます。

気流の乱れを利用する陸鳥は、予期せぬ突風などの影響を受けすぎない様に翼の先端の羽根に隙間を作り、突風を綺麗に受け流せるようになっています。さらに、下からくる上昇気流を適切に受け止められるように、やや長方形で面積の広い翼の形をしているのも特徴です。

このように、大型の陸鳥は翼と飛び方に一工夫することで、陸での滑空を見事に使いこなすようになっています。

大型の海鳥「アホウドリ」―洋上での長距離滑空

201409142

陸では気流が乱れ易く、局地的な強い上昇気流が生まれますが、 洋上ではそうは行きません。緩やかな上昇気流は確かに発生しますが、それ使って大型の鳥が上昇出来ると言うケースは少なく、万が一上昇気流が見つからなければ、海に落ちてしまします。ましてや、気流の乱れが少ない海。基本的には一定方向に風が吹き続けます。急な上昇に気流に遭遇することは滅多にありません。

万が一海に落ちても、アホウドリの足には水かきが付いているので海の上でも移動は可能ですが、洋上での滑空に上昇気流を使うのは賢い方法とはいえません。そこで、アホウドリのような海鳥は、常に一定の方向に吹き続け、且つ高度によって風速に差のある海の風を利用する事を考えました。それが向かい風と追い風を交互に使う滑空方(ダイナミックソアリング)です。

海の風は、高度が上がるほど強くなり、下がるほど小さくなります。これは風が海にぶつかって減速している事が原因なので、どこに行っても同じです。そこで、羽ばたきによって加速し、向かい風を受けながら上昇した後、高度が上がって強くなってきた風を背中に受けて追い風としながら、滑空します。すると、後ろから受ける風の影響で速度がどんどん上がっていきます。

追い風の場合、対地速度は上がるものの、翼が風を後ろから受ける状態になるので揚力が生まれず、上昇しにくくなります。そのため、速度は上がるものの高度が落ちていくと言う事になります。そこで、ある程度高度が落ちて来たら、再び速度を維持したままゆっくり反転し、向かい風に向かって飛ぶと、翼が受ける風の量が多くなり相対的に加速したのと同じような原理で、上昇が始まります。

つまり、追い風で加速し、向かい風で上昇するという独特の滑空テクニックを使っているのです。

この滑空テクニックを使うのには、揚力を生みやすい翼を持っている必要があります。揚力を生みやすい翼というのは、細くて長く、抵抗の小さい滑らかな翼です。陸鳥の翼は長方形で翼の先に隙間がありましたが、これは乱気流の中での滑空に適した翼の形であり、揚力を生むために最適とはいえません。