近代潜水艦の始祖、電気Uボート:ドイツで生まれ、大国が追随した潜水艦のパラダイムシフト

一方のソ連はまずXXI型のコピーである614型の設計に着手。614型の設計は中止されたが、後にはXXI型のデータを基に613型潜水艦の設計にかかり、1949年から生産を開始。西側諸国にはウイスキー級と呼ばれたこの艦は1958年までに合計236隻が建造され、後に一部が巡航ミサイル搭載艦やレーダーピケット艦として改修される。

戦後に設計された米ソの潜水艦を見ると、その設計思想には顕著な変化が起きたことがわかる。

アメリカ・タング級

ソ連・613型潜水艦

ディーゼルエンジン馬力

3400馬力

4000馬力

電動機馬力

4700馬力

2700馬力

水上速力

15.5ノット

18.25ノット

水中速力

18ノット

13ノット

水上航続力

10ノットで11500海里

9ノットで22000海里

水中航続力

3ノットで129海里

2ノットで443海里

前の表と見比べるとわかる通り、両国とも水上速力を犠牲にしてでも水中での速力・航続力を重視した設計にシフトしている。どちらの艦も完成は1950年前後。電気Uボートが両陣営の手に渡ったのが1945年のことで、そこからわずか数年での方針転換である。

また表にはないが特筆すべき点として、どちらの艦も甲板砲を搭載していないことが挙げられる。潜水しての行動が前提であるならば、撤去した方が水の抵抗が減って有利になるのだ。

特にタング級は対空砲や機銃さえ装備していないが、これは戦後のアメリカが”対潜水艦用”潜水艦の開発に注力していたことに起因すると考えられる。潜水艦同士戦うのに、浮上して攻撃することなどまずありえない。

このように戦後の潜水艦は水中での速力・航続力を重視して設計されるようになり、それに伴って艦の形状も変わっていった。今日の潜水艦と第二次大戦時の潜水艦を見比べても似ても似つかないのは、このようなパラダイムシフトがその背景にあるのだ。

電気Uボートの高性能を裏付けるような逸話がある。
哨戒に出撃したXXI型のうちの1隻であるU-2511は1945年4月30日にベルゲンを出港し、5月4日にはイギリスの重巡洋艦「ノーフォーク」率いる駆逐艦隊を発見、潜水したまま500mまで接近した。魚雷を撃てば確実に命中する至近距離だったが、戦闘行動中止の通信が届いたため、攻撃することなくその場を去る。イギリス艦艇は最後までU-2511の接近には気付かなかった。
戦後、U-2511艦長だったアデルバート・シュネーはノーフォークのクルーと対面を果たす。そこでシュネーは自身の体験を語ったが、信じがたい話として受け取られたという。

 2015/1/23
ノーフォークを軽巡洋艦と誤記していたのを重巡洋艦に訂正