「驚き」を科学する、あらゆる感情の起点となる全ての生物が持つ最も異質な心理状態

時に人は驚きますが、「驚き」という状態を持つのは人間だけではありません。形は違えど、感情を持たない虫に始まり魚から哺乳類まで、あらゆる生物が「驚き」かそれに類する状態を持っています。

「驚き」一つとっても、虫や魚が「驚く」のに比べると人の「驚き」は遥かに複雑な心理状態です。一見すると喜怒哀楽の一種とも取れそうな「驚」の感情ですが、実は人の持つ心理状態の中でもかなり異質な存在で、心理学的にも生物学的にもよく分かっていないのです。

なぜなら、「驚き」という感情は瞬間的に生まれて消える状態であり、観察が非常に難しく、驚いた本人ですら「何故驚いたのか」が良く理解できないことすらあるのです。そんな「驚き」について、本記事で詳しく考えていきたいと思います。

驚きが生まれる理由

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まず、何故驚くのかを考えてみます。

 

人が驚くケースは色々ありますが、実は全て「予想が外れた」時に生まれています

具体例を幾つか挙げてみましょう。

  • 車のクラクションが鳴って驚く
  • ボールが飛んできて驚く
  • 熱い油が跳ねて驚く
  • プレゼントを貰って驚く
  • 宝くじが当たって驚く
  • キリンを見て驚く

非常に断片的な情報ではありますが、これらのケースで人が何故驚いたのかはなんとなく想像がつくのではないでしょうか。

しかし、これをこのように書き換えると驚いたのが少し不自然になります

  • 車のクラクションを鳴らして驚く
  • キャッチボール中にボールが飛んできて驚く
  • 熱い油に水を注いだ時に油が跳ねて驚く
  • 誕生日パーティーでプレゼントを貰って驚く
  • 宝くじを千枚買って300円以上当たって驚く
  • キリンの飼育員がキリンを見て驚く

クラクションを鳴らされた方は突然大きな音が鳴るので驚きますが、クラクションを鳴らした方は今まで一度もクラクションを使ったことがないドライバーでない限り驚かないでしょう。また、観客やベンチに待機している選手の前にボールが飛んできたら驚くでしょうが、グローブを持って交互にボールをやりとりするキャッチボール中にボールが飛んできて驚く事はありません。

その他のケースでも、サプライズパーティーやそんなに親しくない相手からでもない限り、誕生日パーティー中にプレゼント貰うことはある程度予想出来るため、驚いたフリはしても実際にはプレゼントが出てきても驚かないでしょう。巨大なキリンを見たことがない子供がキリンを見て驚く事はあっても、日々キリンの世話をしている飼育員がキリンを見て驚くのはおかしいですね。

想像力を働かせれば何か事情があった(知らなかった・不注意だった)のだろうと考える事もできますが、基本的には予想しうる出来事が起こって驚くと言うのは不自然に感じるはずです。

驚きが予測・予想が外れた事で生まれる心理状態であるならば、「驚き」とは想定していた状態からの急激な変化に対応するための心理状態だと言うことができそうです。

感情をリセットするための驚き

静かでリラックスしている時に大きな音が鳴れば、人は驚き、その瞬間から人はリラックス出来なくなります。音の種類にもよりますが、クラクションを鳴らされたら「恐怖」や「怒り」といった心理状態に変化するはずです。

つまり、心理状態はこのように変化します。
平穏(平静)→驚き→恐怖(怒り)

予想外の事が起これば、それによっては人の心理状態にも何らかの変化が起こります。つまり、驚きという心理のクッションを置いた後に、心理状態がそれ以前とは違う方向に変化するのです。

一般に「驚き」と言うと、恐怖などのマイナスイメージが強いとされていますが、ポジティブな感情を生む事も多々あります。例えば、サプライズプレゼントを貰って驚いた後に喜んだり、化学反応を見て驚いた後に好奇心を抱くこともあるはずです。

人はどんな心理状態であっても驚く時は驚きます。そして、驚いた後に変遷する心理状態は驚いた理由によって千差万別。

大切な人の訃報を聞いて驚いた後に悲しみ、信頼していた相手に悪口を言われて驚いた後に不快感を覚え、泥棒だと思っていた相手が知り合いだったことに驚いた後で安心することもあるでしょう。

つまり、「驚き」とは予想外の出来事が起こった際に起こる心理変化の前に現在の心理状態をリセットし、別の心理状態へ促す役回りがあります。

ただ、リセットした後に必ず別の心理状態に移るとは限りません。恐怖を覚えている状態で更に追い打ちを駆けるような出来事が訪れて驚き、更に恐怖するかも知れません。

どちらにせよ、驚きを挟んで訪れる感情とその前の感情には何らかの変化が生まれているでしょう。