水素エネルギーに未来はあるか?(6):新しい社会作りのために越えるべき3つの課題と戦略

ステップ2:水素による発電と大量供給

次の課題は「大量供給が出来ない」という課題ですが、これには「大規模水素発電と未利用水素の輸入」が考えられています。

水素は電気分解で水から作れるとして注目されていますが、実際にはその大半が石油などの化石燃料の改質によって作られています。これらの改質の多くが石油や天然ガス利用時の副産物として作られており、水素を作るためだけの施設は殆どありません。そのため、国内の製造施設による供給には限りがあります

そもそも、化石燃料を燃焼した際に出るエネルギーの多くが微視的には石油に含まれている水素が燃焼した際のエネルギーであり、石油が高エネルギーなのは石油の主成分である炭化水素に大量の水素が含まれているからでもあります。この水素がちょくちょく余って出てきてしまうので、これを水素エネルギーとして活用しているだけなのです。

いわば、現在使われている水素というのは化石燃料を使った際に出てくる余り物です。大量に使おうとすると簡単に無くなってしまいます。

そして、大量に使われ始めてから大量供給の体制を作っても手遅れであり、水素利用の拡大がある程度の段階に来た時点で大量供給の体制を作る必要があるのです。しかし、大量供給の体制を作っても大量に使われなければ貯まるばかり。

そこで、水素の大量供給体制と相性の良いのが火力発電所で大量の水素を使うという試みです。

石油や天然ガスを燃やした熱で発電しているのが火力発電所ですが、これに水素を混ぜても何の問題も無く発電出来ます。そのため、溜まりすぎた水素は火力発電に使うことで消費できます。また、水素は石油より二酸化炭素を出さないだけではなく、実は調達価格という面で見ると石油より安いです。

水素は元々が石油利用の副産物であり、日本以外では大量に使うアテもありません。そのため、水素はその原料の石油よりも安くなります。燃料電池車に供給する水素は水素ステーションの特殊な設備のせいでその設備投資の分ガソリンよりも価格が高くなるのですが、火力発電所でそのまま大量に使うと考えると割安です。

また、この水素を使った火力発電所は現行の火力発電所を少し改修するだけで水素が使えるようになる上、石油を使う世界中の国々で水素が余っているのでどこからでも買い付けられます。特に、産油国の石油精製所では大量に水素を余らせており、これを利用する事で安価に水素を手に入れられると考えられています。

輸送にも、別の物質に水素を含ませる水素化と、水素を取り除く脱水素化を駆使することで解決される見込みです。

こうして考えてみると、水素を燃料電池で発電するのではなく、普通に石油に混ぜて燃やして発電していたり、自給できるはずの水素を輸入している点で首を傾げたくなるような使い方ですが、「大量に供給し、大量に使える社会を作る」という意味では大切なステップです。

ステップ3:クリーンな水素エネルギーを自給自足

「実はクリーンじゃない」という課題や「自給自足してない」という課題は、このステップで解決されます。

夢の水素エネルギー社会を実現するための最後のステップが、「再生可能エネルギー発電によって作られた電力によって水の電気分解によって水素を大量生成」するということ。

水素利用を促進する上で、ある意味一番の課題となっているのが「電気分解に使うエネルギーが無駄」だという点です。この課題が解決されないために「水素がクリーンで自給自足なエネルギーである」というのが単なるお題目と化しており、実際に使われる水素の大半が化石燃料由来で自給しておらず、製造過程で二酸化炭素も発生してしまっているのです。

また、電気分解で作ろうにも、電気分解に使われるエネルギーが石油由来であっては何の意味もありません

そこで重要になってくるのが、再生可能エネルギーによる発電。つまり、水力・風力・太陽光などによっては作られた電気によって水素を作るということです。核エネルギーでも良いのですが、核分裂の原料はなんだかんだで輸入であり、安全性にも難があります。核融合発電が可能になるまで待つ必要がありますね。

再生可能エネルギーが自然界のエネルギーを利用している都合上、場所と時間と季節によってその発電量は変わってきます。今まではそれが再生可能エネルギーによる発電のネックになってきましたが、実はそこに水素を噛み合わせると見事にハマります

例えば、太陽光は夏場の発電量が多くなって冬場の発電量が少なくなりますが、夏場に余った電力で水素を作り、冬場に足りなくなった際に水素を使って発電することで発電量の変動が緩和されます。需要に合わせた出力変化が出来ない原子力発電と組み合わせても効果的ですね。

こうした余剰エネルギーの水素化はあらゆる再生可能エネルギーに活用出来る手段であり、場所の制約も受けません。北海道や離島に作った大規模発電施設で水素を作り、パイプラインやタンカーで水素を運んで本土で使うという使い方も出来るでしょう。

今までは余った電気は電池に蓄えていましたが、水素は電池よりも遥かにエネルギー密度が高く、狭い場所に多くのエネルギーが蓄えられます。化石燃料と違って、燃やしても流出しても環境汚染はなく、環境負荷は極めて低いです。

こういった構想実現するための課題は、再生可能エネルギーの発電所を作るのに莫大なお金がかかることで、水素を殆ど必要としない今の社会では、その投資を回収できる目処が全く立たないという点です。

目標は2040年代とされていますが、これはステップ1とステップ2をクリアし、さらに再生可能エネルギー技術や核融合発電技術など、新たな技術革新が前提となりますので、理想的な水素エネルギー社会の実現はまだ遠い未来のお話ですね。

 

水素エネルギーに未来はあるか?:シリーズ一覧