鳥と昆虫の飛行とホバリングの秘密(前編):トンボとチョウの独特な飛び方

チョウの飛行


チョウのホバリングはトンボに比べると不安定で独特です。

先ほど水泳のバタフライは体が揺れると説明しましたが、あの体が前後に揺れる泳法の名称はまさに蝶の動きから名前が取られています。

チョウの羽は4枚(見かけ上2枚)ついていますが、上下の羽をほぼ同時に動かします。この4枚の羽で打ち下ろしも引き上げも同時に行うため、羽を動かした反動でチョウの胴体は非常に大きく揺れ動き、ひらひらという形容にピッタリの揺れるような飛び方をするのです。

この飛び方で飛行し続けるのは容易ではなく、本来であれば同じ場所に留まるようなホバリングは出来ません。しかし、チョウの翼は他の昆虫に比べて分厚く巨大で、羽ばたき自身も背中まで広げた羽を足元まで打ち下ろすという非常に大胆で大きな羽ばたきです。これによって作られる空気の渦は大きくて精巧で、他の昆虫に比べてより大きな揚力を生み出すことが出来ると考えられています。

つまり、不安定な分大きな揚力を生み出しているのがチョウのホバリングだと言うことが出来るでしょう。チョウの様な羽の使い方がホバリングに最適とは言い難いですが、急加速や急減速が容易な飛行方なため外敵から逃げやすく、動きを読まれにくい飛び方が出来るのも利点です。厳密には空中で「静止」はしませんので、ホバリングには分類しないケースもありますね。

このような飛び方をするのはチョウの他には蛾が挙げられます。ただし、チョウや蛾の種類によってはやや異なった飛び方を「好む」種類もあるので、必ずしも同じように飛ぶわけではありません。 

ドローン開発への応用

トンボや蝶がもつこのような特徴をドローンの発展に応用しようという研究も出てきています。

事実、南オーストラリア大学では、トンボの飛行メカニズムをモデルとして機動性とエネルギー効率を高めたドローンが開発されています。研究チームは75種類のトンボの翼を調査し、その高い空気力学的特性に着目。重い荷物を運びながら安定した飛行ができるドローンを開発できるのではないかと期待されています。


(出典:南オーストラリア大学プレスリリース

一方アメリカのボルチモア大学では、空軍研究所の支援を受け、小型ドローンを開発するために蝶の飛行ダイナミクスの研究が行われています。高速カメラ3台を使って蝶の羽の動かし方を事細かに分析し、羽ばたく蝶にかかる力を理解してドローンに応用しようというのです。

独特なホバリング法を持つ二種の昆虫

トンボとチョウの飛行法は、ある意味で両極端の性質を持つ飛び方だといえます。

かたや4枚の羽を巧みに駆使して自在に飛び回るトンボ。かたや大きな2対の羽を大きく振り回すようにしてふらふらと一見不安定そうに見える飛び方をするチョウ。どちらも昆虫類の中では非常に高い飛行能力を持っていることは変わりませんが、飛び方は大きく異なっています。

羽の形状や質も全く異なっており、進化の系譜も大きく異なっている二種の昆虫ですが、実は双方とも大きな羽を畳むことが出来ないという意外な弱点があったりします。

トンボもチョウも大きな羽を持ち長い時間飛行が可能ですが、あまりにも大きいその羽は草木に止まっている間も他の昆虫類のように畳む事が出来ず、開きっぱなしか揃えて上に掲げておくしかありません。この特徴のせいで外敵に見つかり易くなり、草木に止まっている間でも風や雨の影響をダイレクトに受けてしまいます。

両方ともある程度は水を弾きますし、風に吹かれても空を飛べます。しかし、羽が邪魔になるので歩行も苦手で、長時間雨が降れば餌を探せなくなりますし、草木に掴まっていても風に飛ばされやすいです。大きな利点でもある羽が時に欠点となることもあるのですね。

一方、ハチやハエは羽が小さく、背中に小さく畳んで収納する事が可能です。そのため、狭い所に隠れたり巣を作って集まったりが出来るようになりました。羽が小さいので長時間の飛行は苦手としますが、綺麗にホバリングしたり、急加速・急減速なども容易です。

これらハエやハチ、そして鳥の中でも安定してホバリングを行えるハチドリについては後編で扱っていきましょう。

 

参考:
生物の飛翔・遊泳時に発生する渦とその反作用の力