ステロイドが何かご存じですか?
おそらく、大半の人が「何かの薬」というところまでは分かるはずです。さらに薬としてのステロイドを深掘りすると、「副作用が沢山あって怖い薬」「アトピー性皮膚炎を治す薬」「炎症を抑える薬」など、色々な側面が見えてきます。
しかし、これらはステロイドがどう使われているかを示しているだけで、ステロイドが一体何者なのかを理解する助けにはなりません。もちろん、大半の人々にとって関心があるのは薬としてのステロイドであり、化学式や合成過程なんて知りたくもないでしょう。そこで、本記事では薬としてのステロイドが一体どういうものなのかを、誰にでも分かるように簡単にご説明していきたいと思います。
ステロイドは、形で分類した化合物の名前
まず知っておいて欲しいのが、ステロイドというのは上図のような構造をした化合物の名前です。要するに、特定の形をした化合物を「ステロイド」と呼んでいるだけで、ボンネットが突き出た形の車をセダンと読んでいるのに似ています。
そのためステロイドと一口に言っても沢山あるのですが、脂質の中には特に様々なステロイドが含まれていることが知られています。ちなみに、摂り過ぎは良くないと言われるコレステロールなどもステロイドの一種です。
ここからが本題です。
沢山あるステロイドの中には、体の中で合成されてホルモンとして機能する化合物があり、それは「ステロイドホルモン」と呼ばれます。
ホルモンというのは、体の中の一種の情報伝達物質です。体の中を縦横無尽に移動する伝令みたいなもので、伝令が細胞に届くと細胞たちは伝令達の指示に合わせた動きを見せます。この伝令の役割を担っている物質の中にステロイドの形をした物質があったので、ステロイドホルモンと呼ばれるようになったと考えても良いですね。
薬で使われるステロイドの正体
ステロイドホルモンは大きく分けて、「男性ホルモン」「女性ホルモン」「副腎皮質ホルモン」があります。そうです。男性ホルモンや女性ホルモンと言った性ホルモンもステロイドだったんですね。
「副腎皮質ホルモンってなんぞ?」
と感じたら鋭いです。
副腎皮質ホルモンとは、腎臓の上にくっついている副腎という臓器の表層にある皮質で作られているホルモンです。ややこしいですが、要するに腎臓らへんで作られていると分かれば良いでしょう。
実は、この副腎皮質ホルモンこそが私達が一般的に使う「ステロイド」です。化合物の構造のことを指してステロイドと呼ぶのは専門家くらいでしょう。
つまり、体の中で作られている副腎皮質ホルモンを人工的に作って薬にしたのがステロイド薬ということですね。
ここで終わっても良いのですが、ここから更に細かくしていきましょう。
副腎皮質ホルモンは、化学的にはコルチコイドと呼ばれていて、それは「糖質コルチコイド」と「鉱質コルチコイド」に分けられます。話が難しくなってきましたが実は単純な話で、糖質に作用するホルモンと鉱質(ナトリウムやカリウム)に作用するホルモンがあるというだけです。ちなみに、糖質コルチコイドは糖質だけに作用するのではなく、他にも様々な生理作用を持っています。
そして、炎症を抑える作用があるとして世界中の医療関係者を驚かせたのが糖質コルチコイドの中に含まれる「コルチゾール」です。
ステロイド薬の多くがこの「コルチゾール」の持つ抗炎症作用を狙って作られています。すぐに効果を出したい場合はコルチゾールの入った薬品をそのまま使いますし、少しずつ効果を出したい場合には体の中に入ってからコルチゾールに変わる物質やコルチゾールを集める作用のある物質を使うのです。
だったらステロイドじゃなくてコルチゾールと呼べば良いようにも思いますが、実は薬自体にコルチゾールが含まれているケースは少ないです。コルチゾール自体はすぐに消えてしまいますし、すぐに消えるからと沢山投与すると効果が出すぎます。
そこで、ステロイド薬は時間を経てコルチゾールになる副腎皮質ホルモンを活用しているケースが多く、コルチゾールと呼ぶよりはステロイドホルモンの抗炎症作用を活用している薬としてステロイド薬と呼ぶ方が正確なのですね。
余談ですが、副腎皮質ホルモンの中に抗炎症作用のある物質があることを発見した科学者は発見してすぐにノーベル生理・医学賞をもらっています。それほどまでに、画期的な物質だったのですね。
(次ページ: ステロイドの持つ免疫抑制作用と副作用の正体)