今後求められる技術革新
こうして復権した石炭は、今でも日本で多く使われています。
日本のエネルギー生産は2015年度時点で、約31%を石炭に依存。経済産業省が平成27年に策定した長期エネルギー供給見通しによると、今後は化石燃料依存を減らして再生可能エネルギーの割合を増やすことが計画されていますが、それでも2030年時点で発電量に占める石炭の割合は26%となる見込みです。
しかし石炭には、石油よりもCO2排出量が多いというデメリットがあります。
日本がパリ協定に批准し、排出量削減が叫ばれる現状で、このデメリットは無視できるものではありません。
そこで、石炭発電の高効率化とCO2排出量削減に向けて様々な技術開発が進んでいます。今後有望とされるものとしては、IGCC(Integrated gasification combined cycle、石炭ガス化複合発電)とケミカルルーピング燃焼(Chemical Looping Combustion)があります。
石炭をガスに変えるIGCC
IGCCとは一口に言えば、「石炭を天然ガスのように使うための技術」と言えます。
天然ガスはガスを燃やしてガスタービンを回し、続いてその排熱を利用して水を沸騰させ蒸気タービンを回すことで、無駄なく2段階の発電を行うことができます。
これをコンバインドサイクル発電と言いますが、IGCCは石炭でコンバインドサイクル発電を実現するための技術なのです。
石炭は微細な粉末にした上で加熱すると、メタンガスと炭素分子とに分解されます。その炭素分子が酸素と反応して一酸化炭素になり、メタンガスは酸素や水蒸気と反応して一酸化炭素と水素を発生させます。この反応を持続させると、やがて水素と一酸化炭素を多く含む燃料ガスが完成します。
こうするとコンバインドサイクルによる高効率の発電が可能なだけでなく、石炭ガス製造時にCO2を分離回収することで排出量削減にもつながります。
さらに、石炭をガス化させる過程で発生する水素を利用した燃料電池による発電も複合させたIGFC(Integrated gasification fuel cell cycle、石炭ガス化燃料電池複合発電)という技術も現在開発が進んでいます。前述のコンバインドサイクル発電に燃料電池を加えた3段階の発電で、さらなる高効率化が期待されています。
日本では2013年から、IGCCを導入した勿来発電所10号機が商用稼働を開始。また、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)によるIGFCの実証プロジェクトが現在進行中です。
CO2排出量を減らすケミカルルーピング燃焼
火力発電所ではCO2排出を削減するため、燃料を燃やして出るCO2が大気中に放たれないよう回収して隔離しています。
しかし空気中には酸素以外の気体が混ざっているので、空気中で燃料を燃やして発生した煙にはCO2以外の窒素酸化物などが多く含まれます。CO2排出量削減を効果的に行うためには、そうした不純物からCO2だけを効率よく分離・回収するための技術が必要となるのです。
ケミカルルーピング燃焼は、「酸素しかない環境で燃料を燃やせば、燃えて出てくるのは大部分がCO2になって回収が簡単になる」という、いわば逆転の発想が元になっています。
そんな条件をどうやってクリアするのでしょう?
その鍵となるのは酸化金属、つまり錆びた金属です。
錆びた金属は、金属原子に酸素原子が結びついた状態です。ケミカルルーピング燃焼は錆びた金属がもつ酸素原子を利用して燃料を燃やし、残った金属を別の炉に戻して再び酸化させるループを作り出すことで継続的に燃料を燃やし続けるものです。
こうすれば、燃料を燃やして出る煙の大部分はCO2と水蒸気だけになります。水蒸気は温度が下がれば水滴になって落ちてくるので、残りはほぼ純粋なCO2だけの気体となり、回収が非常に楽になるというわけです。
オハイオ州立大学は酸化鉄を使用することで、水蒸気から水素を作ることもできる試験用の石炭ガス発電機を開発。従来の火力発電装置より10~20%効率が上がっただけでなくCO2の100%回収に成功しました。石炭ガスを使ってのコンバインドサイクル発電に加え、鉄と水蒸気が反応してできる水素を使って燃料電池を使った発電も追加で行うことができるのです。
ここで見てきたように、近代産業の黎明期から使われてきた石炭は、今でも意外と身近で活躍しているのです。
自然エネルギーの活用が増えていくこれからの時代でも、石炭は一定量使われ続けることでしょう。これからも高効率化と排出量削減を目指し、絶え間ない技術革新が続いていくのです。