陸上での水素利用の現状
燃料電池はなかなか普及しないため、再生可能エネルギーの主流にはならないのではないか、という意見も見られます。こうした言説を考えるとき、本当にフォーカスすべき課題となるのは、水素エネルギーを大規模なレベルで活用するための社会基盤、すなわちインフラ整備なのです。
水素インフラについては過去の記事で詳しく解説されています。水素インフラを整える上で壁となるのは貯蔵の困難さ、および輸送に費やされるエネルギー源です。
水素エネルギーを大規模に活用する社会になった場合、水素の生産はちょうど現在の発電所のように大規模な施設で集中的に行われ、そこで作られた水素を各地域に輸送するというシナリオが現実的です。
運搬するためにはまず貯蔵しなければなりませんが、水素は普通の気体よりも貯蔵が困難な物質です。こちらの記事に水素貯蔵用の技術が複数紹介されていますが、どの手法も一長一短。
何より問題になるのは、水素の生成・貯蔵・運搬に使われるエネルギーです。
水素エネルギーが利用可能になるまでには、水を電気分解する、水素を貯蔵容器に封入する、水素の生産設備から都市へと運搬するという工程を踏む必要があり、それぞれのステップでエネルギーが必要となります。
各段階で必要なエネルギーを化石燃料で賄ってしまっては、完全な再生可能エネルギーとは呼べなくなってしまいます。電気分解、貯蔵、輸送を行う間、いかに消費エネルギーを減らせるかというのは、水素エネルギーの存在意義そのものに関わってくるのです。
海上の水素生成所
燃料電池を海上で使う燃料電池船であれば、陸上での水素利用にまつわるこうした課題をある程度回避できます。
第1に、燃料となる水素を船上で生産できるので、輸送のエネルギーが不要となります。
水素は水を電気分解することで得られます。なので船自体に水素生成のための設備を組み込めば、周囲にある海水を組み上げてどこででも直に燃料を調達できます。船の動力として使うのであれば輸送にエネルギーはかからず、貯蔵についても長期間の貯蔵は考慮する必要はなくなります。
水素の生成に必要なエネルギーの供給源も、エナジー・オブザーバーの実験課題のひとつです。エナジー・オブザーバーは燃料電池以外に、補助用の再生可能エネルギーを複数活用するための設備を備えています。水素生成にそれらのエネルギーを使えるので、いわばクリーンエネルギーの自給自足体制が確立されています。
(出典: エナジー・オブザーバー公式サイト)
こうした船はいわば、海上を走る小型発電所のようなものといえるでしょう。空いた土地に小規模な太陽光発電パネルを設置するようなもので、こうしたシステムを搭載した船舶が普及すれば、全体としての水素エネルギーのアウトプットを大幅に増やせると期待できます。
空いた土地の上に小規模なソーラーパネルを設置していくことで広がっていった太陽光発電のように、小規模な「移動式水素精製所」が海上に普及していけば、陸上での水素インフラ確立にもプラスに働くのではないでしょうか。