何気ない買い物のときにふと目に入るキャンペーン情報。最近多いのはレシートや商品バーコードを集めて送ると商品がもらえる懸賞です。ギフト券や商品券、中には高級品が当たる懸賞もある中で、ぱっと見のインパクトが抜群なのは「〇〇1年分」の懸賞。
「〇〇1年分」とは昔からある方式ですが、ちょっと考えてみると、何をもって1年分と決まるのかはちょっとした謎です。この記事では、1年分がどのように計算されるかを、実際にあった商品1年分の懸賞を例に出して紹介していきます。
1年分の基準とは
こうした「商品〇〇年分」という懸賞でもらえる商品の数量は、けっして適当に決めているわけではないのです。
基準として一番良く使われるのは、何らかの統計です。
つまり、ある製品について個人ないし世帯ごとの平均的な消費量を調べた統計を参考にして「〇〇1年分」の量を割り出すのです。
使われる統計には政府発表の統計もあれば、個別の法人が独自に調査した統計が使われる場合もあります。どこが発行したどんな統計を参考に使ったかは、大体の場合懸賞について情報が書かれたページないしパンフレットに記載されています。一体何を基準に、どれだけもらえるのかをイメージしてみるのも面白いかもしれません。
また、統計に頼らないシンプルな方法もあります。それは1日1個消費するという前提で、商品を365個贈呈するというもの。こちらは商品が1個2個と明確な個数で区切れるものでなくてはできません。つまり、量で計算する液体には使えない方法ということです。
ここからは個別の懸賞の事例をもとに、もらえる商品の量の計算方法を実際にみていきましょう。
1年分懸賞の事例
い・ろ・は・す 一生分
商品を1年分でなく「一生分」としたインパクト満点のこの企画。一生分と1年分では量が大幅に違いますが、計算の基本は同じです。
まずは「い・ろ・は・す」の1年分の消費量を推定する必要があります。ここで登場するのは統計。この企画では、一般社団法人日本ミネラルウォーター協会調べの年間消費量が基準になっています。
それによると、1人あたりミネラルウォーターの年間消費量は28.4リットルだとわかります。次に必要なのは、これをもとにした一生分の消費量の計算です。
そのためには「一生」が具体的に何年間であるのかを仮定しなければなりません。その基準となるのは平均寿命です。
まずは平均寿命をもとに、人間は平均して84歳まで生きるものと定めます。かといって自動的に「一生分」は「84年分」とするのではありません。一生分を計算する場合、カウントの始めは0歳からではなく、成人年齢である20歳からになるのです。そのため、この懸賞でもらえるものは事実上「ミネラルウォーター64年分」がもらえるというわけ。
では具体的にどれだけの量になるのでしょう?
もらえる総量は28.4ℓ×64年=1817.6リットルとなります。
もちろん、2000リットル近い量のミネラルウォーターを一斉に送ってくるわけではありません。量が多く物理的に配送や保管が困難な懸賞の場合、等量の商品が買えるだけのギフトカードを送るのが一般的です。
では、最終的にもらえる金額はいくらになるのでしょう?
い・ろ・は・す555mlの24本セット(=13.32ℓ)は2,570円(税込)。1817.6ℓ÷13.32ℓ=136.45≒137セットなので、懸賞の総額はい・ろ・は・す137セットが買えるだけの金額ということになります。
2,570円×137セット=352,090円なので、これだけの金額がギフトカードでもらえるというわけです。
【参考:https://www.softbank.jp/socialmedia/campaigns/list/dc_180810/】
フライドチキン1年分
これはケンタッキーのキャンペーンで、当選するとオリジナルチキンが1年分もらえるというもの。
こちらは量ではなく、1日1個消費すると仮定して365ピースを進呈するというシンプルなパターンです。こちらも一度に365ピースもらえるわけではなく、チキン365ピース分購入できる10万円のKFCカードがもらえるというもの。
とはいえ、10万円で本当に365ピース買えるのでしょうか?そこでケンタッキーのメニューを参考に計算してみました
オリジナルチキンは1ピース税込み270円。もらえるKFCカードの10万円を使えば370個買える計算です。なんと5個分オマケがついてきているんですね。
ちなみに、もう少し深く調べてみると面白いことがわかります。
こちらの情報を参照する限り、オリジナルチキンの可食部重量はひとつ当たり平均87g。
そしてこちらの統計を見ると、平成28年の鶏肉の年間消費量は1人あたりおよそ13kgであることがわかります。対して、オリジナルチキン370個の重量はおよそ32kg。
油や衣の部分を除いたとしても、鶏肉の年間消費量ベースで考えると軽く2人分は食べられることになります。これは事実上フライドチキン2年分といえるのではないでしょうか?
【参考:https://www.kfc.co.jp/news/201807191100.html】
ノートパソコン一生分
こちらはソフトバンクのLINE懸賞キャンペーン。
こちらも一生分なので、まずは期間を定めます。計算方法はミネラルウォーターと全く同じ。要はパソコン64年分となります。
この懸賞はなかなか曲者です。なぜならパソコンは飲食物と違って短期間に消費できるものではなく、年間にどれだけ消費するかという計算がしづらい商品だから。「〇〇何年分」という懸賞には非常に不向きな商品のようですが、そこをどう解決したのでしょう。
この懸賞では、パソコン自体の消費数や寿命ではなく、保証期間を基準にすることでその問題を解決しました。大手家電量販店の保証期間が平均5年であることに基づき、64年をそれで割った台数、つまり13台分を「一生分」と定めたのです。
この懸賞でもやはり現物を一度に送るのではなく、相当する金額をギフトカードで贈呈するという形式です。ところが商品がパソコンなので、厄介な問題が浮上します。それはパソコンの値段が機種ごとに違うということ。パソコンとひとくくりに言っても、スペックも価格も千差万別。パソコン1台の価格をひとまず定めなければなりません。
そこでこのキャンペーンでは、少し変則的な方法で商品を贈呈しています。最初の1台目を現物で送り、そのモデルの価格を基準にして残りの12台分の金額を計算したのです。
【参考:https://www.softbank.jp/socialmedia/campaigns/list/dc_180119/】
統計から逆算したものの数量
〇〇1年分の基準が統計だとすると、年間消費量の統計が参照できるなら懸賞でもらえる量がわかるということ。ということで、統計をもとにいくつかの品目について、1年分の量を紹介してみましょう。
アイスクリーム
一般社団法人日本アイスクリーム協会では、各国の1人あたりのアイスクリーム年間消費量の統計を公開しています。
それによると、2016年の日本のアイスクリーム消費量は1人あたり6.5リットル。
ハーゲンダッツのアイスカップがひとつ110ml入りなので、ハーゲンダッツ1年分の懸賞に当選すれば60杯分もらえると考えていいでしょう。(1日1個計算で360杯ほしいところですが)
ビール
キリンビール大学では、世界の国別に1人あたりビール消費量を調査しています。その結果を見ると、2016年時点で日本の1人あたり消費量は約41リットル。
1.8リットル入りの標準的なピッチャーに換算すると、年間でおおよそ23杯分飲んでいることになります。
ちなみに2016年のビール消費量チャンピオンはチェコ共和国。1人あたり消費量は2位を大きく引き離しての143リットルで、なんと2ドアの冷蔵庫の容量に匹敵します。
はちみつ
お菓子作りや料理などに活躍するハチミツ。ハチミツの消費量は、農林水産省が発表している「養蜂をめぐる情勢」という統計に記載されています。
その平成28年度版を見ると、平成27年度時点で日本におけるハチミツの年間消費量は全体で約3万9000トン。
同年の日本の人口が約1.27億人なので、1人あたり年間消費量は約300g。
ビン入りのハチミツは300~500g入りのものが多いので、少し小さめのビンひとつ分と考えればイメージできるでしょう。案外少ないのかも?
ここまで見てきたように、あの商品が一生分もらえる、という一見冗談のような企画であっても、その裏にはちゃんとした根拠と細かい計算があるのです。
今後どこかで懸賞のチラシを見つけたら、何の統計に基づいたものなのか、ちょっと見てみると面白いかもしれません。