各企業の取り組み
現在では、欧米の複数のベンチャー企業がDACの商業展開に取り組んでいます。
Climeworks
そのうちの代表例のひとつは、スイス発のベンチャー企業Climeworks。
ここが開発しているのは少し特殊な、モジュール式のCO2吸着用フィルターです。
原理はファンで空気を吸入し、内部にあるフィルターにCO2を吸着して保存するという基本的なもの。吸着した後フィルターを熱すると吸着したCO2が解放されるので、それを回収して処理すれば大気中からCO2を分離できます。
特筆すべき点は、小型のフィルターを組み合わせるモジュール式である点。
少数から設置でき、さらに積み重ねて配置することもできるので、広い土地が必ずしも必要ではないのです。建物の屋根に配置することもできるので、ごみ焼却場の施設屋上に設置するといった柔軟な活用ができるのが強みです。
Carbon Engineering
Carbon Engineeringは2009年創業のカナダ発ベンチャー企業。
先述の論文で発表された低コストDACのシステムは、実はここが採用しているもの。一番の課題である高コストを解消した画期的なシステムが強みであるほか、ある業界と協力関係を結ぶことでCO2回収技術の価値をさらに高めています。
その業界とはなんと石油業界。
実は石油会社のOccidental PetroleumがCarbon Engineeringと提携し、DACプラントの建設に協力しているのです。
どうして石油会社が関わるのか?そこには、CO2を使った石油採掘の手法が背景にあります。
原油増進回収法
石油は地中深くから油井で採掘されるものです。
石油がたくさんある新しい油田では、何もしなくても石油が噴き出してきます。これは油田内部の圧力が地上の気圧よりもかなり大きいため。
ちょうど空気を詰めた風船から勢いよく空気が出てくるようなものですが、これだけで採掘できる石油の量はごくわずか。油田内の石油の量が減ってくると圧力も減り、勢いは弱まってきます。
その段階になると、今度はポンプで石油を吸い上げます。
ただ、ポンプを使っても回収できる量は全体のわずか10~25%ほど。これ以上汲み上げるためには、水や天然ガスを入れて油田内部の圧力を高める必要がありますが、そこまでやってもせいぜい全体の50%を回収できるに過ぎません。しかもこの段階になると、採取しやすい液状の石油は取り尽くされており、砂や砂利が混ざって汲み上げにくいドロドロとした粘度の高い石油が残されます。
そこで登場するのが原油増進回収法という手法。
これは残された石油に直接天然ガスや二酸化炭素を送り込み油田内の圧力を高めつつ、粘度の高い石油にガスを混ぜ込むことで流動性を与え、採掘量を高めるための方法です。液体にガスを入れても普通はブクブクと泡が出てくるだけですが、特殊な方法でガスを入れると液体もガスに混ざって動き始めるのです。
そうして石油を回収し、油田の中にはガスだけが残されます。そのガスにCO2を使えば、油田内に送り込んだCO2は地下に封じられたままになります。Occidental PetroleumはDACで回収したCO2を原油採掘に活用することで、石油会社でありながらカーボンニュートラルの企業になるという野心的な目標を掲げているのです。
まとめ
石油業界という意外なステークホルダーをも巻き込んで展開する商用DACの世界。
単なる環境対策テクノロジーとしてだけではなく、CO2を何らかの形で活用する新たな産業を創出する可能性も秘めていることから、多大な注目を集めています。