量子コンピューターの種類と原理を簡単解説、似ているようで違う2つのしくみ

「量子コンピューターが実用化された」なんてニュースが流れたら、コンピューターに少し詳しい人なら私達が使っている暗号通信が解読されないか心配になるかもしれません。従来のコンピューターより遥かに優れた計算能力を持つ量子コンピューターによって通信が丸裸になれば、量子コンピューターを運用する国家によって情報社会が支配されてしまうことだってあり得ます。

ところが、量子コンピューターが本当に実用化されたにも関わらず、そんな心配は一切されていません。実は、量子コンピューターは量子コンピューターでも、その種類が大きく異なることが原因でした。

量子コンピューターの種類


D-WAVEの量子コンピューター

量子コンピューターに種類があるということすら知らない人は知らないでしょう。そもそも、量子コンピューターというのはいわゆる「夢の技術」であり、殆どの人にとっては現実感の無い話です。今までなら「凄いコンピューターが未来には登場するんだな」程度の認識で十分でした。それが「D-WAVE社」による量子コンピューターが実用化されたことで状況が大きく変わりました。量子コンピューターがより現実的な話になったのです。

そろそろ本題に入りましょう。「コンピューター」や「携帯電話」にも沢山の種類があるように、量子コンピューターにも沢山の種類があります。

量子デジタル式

まず、「暗号解読に使ったらヤバイ」と言われている量子コンピューターは「量子ゲート方式」と呼ばれる原理的には今までのコンピューターに近い方式です。後述するイジングマシン方式の原理と比較して「量子デジタル式」とも呼ばれることもあります。さらにそれを発展させると、現代のコンピューターとほぼ同等の汎用性を有する「チューリングマシン型」になります。

「あれ? 量子コンピューターって今のコンピューターに比べて汎用性がないの?」という疑問が生まれますが、結論から言えばその通りです。目標は現代のコンピューターのように「これがあればなんでもできる」コンピューターなのですが、その前段階として「限定的な目的に使えるコンピューター」が完成するということです。

今まで「量子コンピューター」と呼ばれていたものの殆どがこちらの量子デジタル式のことであり、複数の状態を併せ持つ「量子ビット」もこちらの量子コンピューターで利用されます。電子的な信号を大量に組み合わせる形で情報処理を行うため、今までのコンピューターと原理が似ています。

ちなみに、こちらの量子コンピューターは実用レベルには達していません。

量子アナログ式


(大まかなイメージ図)

デジタル式があるならアナログ式もあるだろうということで「量子アナログ式」も存在します。現在実用化されているもの、実用化間近なものの殆どがこちらの方式で、より正確に言えば「量子イジングマシン方式」と呼ばれます。

量子イジングマシンでは、「イジング模型」と呼ばれる格子状のモデルをコンピューターの中に物理的に作り、物質の量子力学的な性質を利用して問題と同じ状況を擬似的に再現し、シミュレーションを行なう形で問いに答えます。

D-WAVEの量子コンピューターもこちらの方式を使っています。D-WAVEの場合は、量子イジングマシン方式の中でも「アニーリング方式」という方式を使っており、極低温環境で生まれる量子現象を利用して演算を行えるのが特徴です。

一方、日本で開発中のものは「レーザーネットワーク方式」と呼ばれており、こちらはレーザー照射によって量子現象を発生させます。こちらは常温で使えるのが強みです。

現代のコンピューターはデジタル式ですが、アナログ型のコンピューターもかつては存在しており、究極的に言えば「計算尺」もアナログコンピューターと言えます。 


(アナログ式計算機である計算尺)

あまりにも大きな両者の違い

2つの方式を考える上で、注目したいのは2つのマシン「チューリングマシン」と「イジングマシン」です。チューリングマシンはいわゆる「万能チューリングマシン」のことで、一連の命令文に従って情報処理を行なうだけであらゆる問題を解決できる機械となります。

人間が長々と書かれたマニュアルや指令書を読んで意味内容を理解し、問題を解決できるように、チューリングマシン型のコンピューターは「0と1」もしくは、それに準ずる「量子ビット」などの信号だけで、理論上何でも問題が解決できます。現代のコンピューターはこの「万能チューリングマシン」にあたる存在で、リソースが無制限にあって天才的なプログラマが大勢いた場合、人間を超える人工知能も作れてしまいます

一方で、「イジングマシン」は模型を演算に流用した使ったシミュレーション機械のことです。チューリングマシンのように何でも解決できるというわけではありませんし、何ギガバイトもあるような複雑で長ったらしい信号を読み取って情報処理を行なうわけでもありません。

解決したい問題や計算したい問題は「組合せ最適化問題(こちらの解説が分かりやすいです)」と呼ばれる特定の問題に限られており、あらゆる問題を解決できるわけではありません。

その代わり、特定の問題を解決する能力は極めて高く、チューリングマシン型のコンピューターでは敵いません。特に組合せ最適化問題はデジタル式のコンピューターが苦手としている問題の1つで、この問題に限って使うのではあればメリットはあります。

また、格子状の模型をニューラルネットワークに置き換えることでニューラルネットワークのシミュレーションが行える可能性を秘めており、場合によっては量子コンピューターによるディープラーニングが実現する可能性もあるのです。イジングマシンも侮れません。

まとめ

量子コンピューターには多く分けて「デジタル式」と「アナログ式」があり、デジタル式の中に「チューリングマシン」があり、アナログ式の中に「イジングマシン」があるということは分かっていただけたでしょうか。

今注目を集めているのはこのイジングマシン方式で、イジングマシン方式の中にも「アニーリング方式」や「レーザーネットワーク方式」があり、それぞれ似ているようで微妙に違うしくみで動いています。

量子コンピューターがノートパソコンなどに使われることは当分なさそうですが、ニュースでは度々登場するでしょう。量子コンピューターの種類と違いについて少しでもご理解いただければ幸いです。