シラスウナギにまで成長しさえすれば、比較的生命力の強いウナギは容易に養殖が可能で、天然のウナギは5年以上かけて成長するところを、豊富な餌を与えられた養殖ウナギは2年前後で十分な大きさに成長する。ちなみに、天然ウナギの数そのものが減っている事もあり、現在市場に出回っているウナギのほとんどが稚魚から育てられた養殖ウナギだ。養殖の大半が中国で行われているが、それは日本人が安く食べるために中国で養殖しているのであって、中国人が大量に食べていると言うことではない。
そして養殖が主流とは言え、卵を生むところからシラスウナギになるプロセスまでは天然のプロセスであり、人間の及ぶところではなく、天然で生まれた稚魚を捕獲している以上、ウナギの絶対数は減っていく。
日本だけではなくヨーロッパでも需要があったヨーロッパウナギは、1970年代と比較し、10分の1にまで漁獲量が減り、2001年に絶滅危惧種に指定されている。ちなみに、急激に減ったのは日本への輸出が始まってからである。
そして、遂にニホンウナギの「稚魚」の漁獲量が、30年間で半分以下になったため、国際自然保護連合(IUCN)がニホンウナギを絶滅危惧種に指定した。絶滅危惧種には3つのレベルがあり、危険度の高い順に「寸前(CR)」「危惧(EN)」「危急(VU)」と分かれている。ニホンウナギは絶滅危惧レベルは「危惧」であり、ヨーロッパウナギの「寸前」に比べるとマシと言える。
IUCNの絶滅危惧種(レッドリスト)は、あくまで分類・警告を目的としており、それ自体が何か国際的な力を持つものではない。しかし、1975年に制定されたワシントン条約は少し趣きが違う。
こちらは、世界175[ヶ国が批准する国際取引規制の取り決めに関する条約であり、この条約で規制された動植物の取引が大幅に制限される。冒頭で述べたように罰則があるわけではないが、日本では法律に組み込まれており、条約で規制された動植物の取引を、国際取引だけでなく、国内でも規制出来るようになっている。
既にヨーロッパウナギは2007年のワシントン条約会議で規制することが決定しており、中国やヨーロッパからの輸入は行われていない。2010年にも、ニホンウナギと同様に「危惧」と分類されたタイセイヨウクロマグロを、取引規制するかどうかが話し合われた。結果的に否決されたものの、否決された理由はマグロの取引については、「大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)と言う、規制について話し合う専門の組織がある」からであり、マグロの保存に規制が必要ないからと言うわけではない。
実は、去年2013年のワシントン条約会議でもニホンウナギの規制を議論しようという動きがあったものの、日本側の意向で話し合われることはなかった。次回の会議は2016年頃と目されており、高確率でニホンウナギの規制について話し合われると思われる。今回は、マグロの時の様にウナギの漁獲について話し合う専門の組織などはないため、規制が決められる可能性は非常に高い。
切り札の完全養殖技術は間に合うのか?
現在、主なウナギの取引業者は、アフリカ産のウナギやインド洋のウナギに目星を付け、輸入を進めようと動いているが、遠からずヨーロッパウナギやニホンウナギの二の舞になることは目に見えている。
一時しのぎではなく、長期的にウナギを安定供給する方法も進んでいる。それが、ニホンウナギの完全養殖技術である。
昔からウナギの完全養殖については研究が進められており、ウナギの卵の人工孵化に成功したのが1973年の事だった。しかし、ウナギの幼体であるレプトケファルスに関しては、全く養殖技術のノウハウが無く、何を食べるかすらもよく分かっていなかった。そして、実に40年近く研究が進められ、ようやくアブラツノザメというサメの卵を食べることが分かり、完全養殖に成功した。
しかし、商用化には課題は山積みである。
まず、レプトケファルスの餌として与えているサメの卵は大量に入手できる類のものではなく、簡単に作れるもので代用しなければならない事。
次に、シラスウナギには雌雄が無く、自然環境で成長していく上で雌雄が決まる。シラスウナギを養殖すると、殆どが雄になるため、今は定期的に雌のホルモンを注入して無理やり雌にしているため、これもコストがかかります。雌雄を決める環境要因を特定し、雌雄の変化をコントロールできるようにならなくてはなりません。
これらの問題を解決し、基礎技術を確立出来るのが2016年頃と見られており、奇しくも次のワシントン条約の年と重なる。
完全養殖技術を確立し、国際取引に頼らないでウナギを生産することが出来るのか、それともニホンウナギ以外のウナギを次から次へと食べ尽くしていくのか、日本のウナギ文化の命運が分かれるのは、2年後の2016年になりそうだ。